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【全豪オープン】大坂なおみのパワーテニスに相対したマディソン・ブレングルに見るテニスの真髄

【全豪オープン】大坂なおみのパワーテニスに相対したマディソン・ブレングルに見るテニスの真髄
2回戦で対戦したマディソン・ブレングル(左)と大坂なおみ(C)Getty Images

シューズにデザインされた幸運の蝶がリズミカルな舞いを見せるように、大坂なおみは軽やかなステップをコートに刻みながら、持ち味である豪快なストロークを打ち続けた。

19日に行われた全豪オープン女子2回戦、ナイターに照らされたロッド・レーバー・アリーナ(以下RLA)で13シードの大坂は、マディソン・ブレングル(米国)を6-0、6-4下し、3回戦進出を決めた。

2回戦の相手となったブレングルは、派手なショットがあるわけではないが読みの良さと正確なパスを武器に、不屈のディフェンス力で7年連続トップ100に入っている実力者だ。私の現役時代には、遠征時に部屋をシェアしたりダブルスを組んだりと縁があった選手だけに今回の大坂との対戦を楽しみにしていた。

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■持ち前のテニスで大坂を翻弄する

第1セットの立ち上がり、大坂は自身のサービスから安定したストロークを見せる。対するブレングルはRLAでの前年度チャンピオンとの対戦に、興奮と多少の緊張感からボールを上手く飛ばせずにいるようだった。その姿を冷静な眼差しで見て取った日本のトップスターは、パワーをコントロールしながら攻撃に強弱を生み出す。無理なく70%ほどの力でボールを打ち分け、大きなオープンコートを作っては確実にポイントを重ねていった。そしてブレングルの130キロ台のサーブが自分の懐に入ると急激にスウィングスピードを上げ、狙い定めていたかのように鮮やかなリターンエースを決めては周囲の目を見開かせた。

私はこの「攻撃の強弱」こそ、今大会の大坂の勝利の鍵のように感じている。今の彼女は必要以上にペースを上げる必要はない。超攻撃型のテニスを支える威力あるボールを、戦術に沿ってどう当てはめていけるか実践するだけで十分だ。パワーに頼り切らず、ゲームプランの引き出しが自身の中で整理されるだけで、精神的にも安定しやすいことは本人も熟知しているはず。あとは気分のアップダウンに振り回されずに試合をコントロールできるかだ。

最高のテニスで第1セットを20分で奪い去った大坂に対し、ブレングルはようやく第2セットから力が抜けたようで、ボールを深く打ち始める。その効果は大坂の素晴らしいストロークの精度を下げさせ、ラリーが続く度に自身のペースへと誘い込むようだった。第2ゲームで今試合の初キープをした際には両手を挙げ、ほっとしたような表情を見せて観客を和ませた。そしてここから試合の空気は変わり始める。

ブレングルはさっぱりとした性格でジョークや面白いことが大好き。だが、プレーとなると、長年のキャリアから多くの選手のデータを持ち、勝利の為ならば返球し続け、相手のウィークポイントを探る粘り強さを発揮する。

今回は大坂のフォアにウィークポイントを置き、スライスを混ぜながら低い場所で処理させミスを誘った。自身がコートサイドに走った時は得意のカウンターでスピードを生み出し、ビームショットを相手コートに突き刺す。また長いラリーの末にネットへ誘い込み、正確なパスを通しては大坂のフラストレーションを高めていった。超攻撃型の大坂は時間を追うごとに「強打で打ち切ってしまいたい」という衝動を抑えられなくなり、アンフォーストエラーを重ねては「ブレングル・ワールド」に引き込まれた。テニスの真髄……とでも呼ぶべきか……。大坂はこの流れから一時はブレークを許し3-4とリードされる。

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しかし、そこはやはり2連覇を狙うトッププレーヤー。大坂はここで悪い流れを振り払うかのように自身をプッシュし集中力を高めなおす。しぶとく食らいついき、すぐさまブレークバックに成功。第9ゲームは高速のサーブを武器に1歩ずつ前進していくかのように攻撃を重ね、最後はブレングルのボールがサイドラインを割り、互いに「ふっ」と小さな笑顔を見せ合いラケットでタッチを交わした。

ポイントは、4-4から8ポイント連続奪取だった。大坂は試合後に「グランドスラムでは、ブレークされても、大事な場面で反撃できるような試合をしなければならない」とコメント。昨季は勝負所でブレークを許してからリターンゲームでプレーを立て直せなかったことを課題とし、オフシーズンには特にリーターンをトレーニングしてきたとも話している。

3回戦の相手となるアマンダ・アニシモバ(米国)は前哨戦のメルボルン・サマーセット2(WTA250)で優勝し、勢いに乗る20歳だ。またひとつギアを上げて臨む試合になることだろう。この試合を勝ち進めば、4回戦では第1シードのアシュリー・バーティ(オーストラリア)がいるセクションに入っている。先を見すぎるのは良くないが、4度の四大大会優勝の経験を持つ大坂からすれば、自然と優勝までの道の歩み方を考えていることだろう。

それとは別に、31歳になっても大坂を相手に自身のテニスを貫き、最前線で活躍しているブレングルに賛辞の拍手を贈りたい。彼女のテニスを見ていると「パワーテニス」と言われる昨今の潮流の中でも知恵と経験、そして自身の強みを理解しながらゲームメークすることで勝機を生み出せることを証明してくれている。これからもキャリアハイの世界ランク35位を越える活躍に期待したい。

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。