【テニス】車いすテニス界の新星、小田凱人が目指すは絶対王者・国枝慎吾、そしてパリ五輪金メダル

 

【テニス】車いすテニス界の新星、小田凱人が目指すは絶対王者・国枝慎吾、そしてパリ五輪金メダル

■食事面からのアプローチも重要視

既に大人顔負けの鋭いショットを使いこなし、ネットへと繋げる展開の速さが光る小田ではあるが、シニア大会においては相手ショットの力強さから、ジュニアと対戦している時と同じような展開は適わない時もある。その際は頑なに自身のテニスを貫こうとするのではなく、なるべくワンパターンにならぬよう高低差を使いペースを変え相手の隙を突くことで勝機を見つけてきた。

今季の小田の勝率は96%(10月25日時点)、シニア大会とジュニア大会を合わせて42勝2敗の結果を出している。試合の流れで優位に立った時こそ冷静さを失わず、勝負所でプレーのレベルを上げる術を試合を通しながら体得してきた。

「自分自身がリードしているときは相手の調子が少し落ちている時なので、どれだけ相手にダメージを負わせるかを考えています。自分が攻めてウィナーを取ることだけでなく、どうすれば相手にミスさせられるかを考えながらダメージを蓄積させることが必要不可欠になります」。

極限状態でこの冷静な判断を保つためにも、集中力の維持は体力面の強さと大きく関わる。そのことから普段の食事から摂取するものを選び、練習中や試合中にも補食を欠かさずに取り入れているという。

「まずはジュースやケーキ、お菓子などの甘いものは食べません。海外遠征になると、今はコロナのこともあり大会が提供してくれる食事になり、どうしても脂質が多くなることもありますが、そこはとにかくあるもので補っていくしかないですね。その代わり、試合前やプレー中にもユーグレナの「SPURT」を飲むことでリラックスしてプレーに集中できるようにしたり、プレー後はすぐにエネルギーになるバナナ、失ったエネルギーを補給できるようにたんぱく質と炭水化物を取るように心がけています」。

その時、その時の進化を大切にしているという小田だからこそ、ハイパフォーマンスを持続させるため食事面からのアプローチも重要視している。

■憧れの国枝慎吾選手への思い、そしてライバル心

インタビュー中、「テニスが大好きです」とあどけなく笑う少年らしさと、今の活躍を、ただの若手の勢いとは呼ばせないほどに自立した考えや自身のスタイルを確立している点はひどく印象的だ。テニスを始めまだ5年、既に勝負が生き物である怖さと楽しさを知っている魅力的な選手……私にはそう思えた。

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傍から見れば、まだキャリアを歩み出したばかりのように思う15歳の少年がこれほど自身の成長スピードに危機感を持ってテニスに取り組む理由には、国内トップ選手であり世界1位の国枝慎吾の存在が深く関わっている。

国枝は小田にとってテニスを始めた時から憧れの選手だ。テニスに真摯に向かう姿勢や、勝利への渇望と飽くなき挑戦、そしてすべてに対してプロフェッショナルな言動は小田自身も参考にしてきたと語っている。しかしそんな国枝とも今はランキングも近く、同じ大会に出場することが増えてきたことから小田の中で変化が生まれてきた。

「テニスを始めた時から国枝さんを目標にしてやってきたので、僕の中で大きな存在です。国枝さんの凄いところは有言実行されるところで、リオが終わってからの5年間ずっと金メダルを取るとメディアに言い続けてきて実現されたので、流石だな! とまた刺激を受けました。でも今は憧れていると言っていると勝てないので……そういう甘えた言葉は止めて、1人の選手として見ていきたいなと思っています」。

時折、国枝と練習はするものの助言などは特にもらっていないという。「ライバルだと思っているのは僕の方だけです」と恥ずかしそうに笑いながらも、絶対王者との距離が縮まりつつあるのは確かだ。

また注目度の高さから国枝2世とも呼ばれていることについてどう感じるかも話してくれた。
「国枝さんは凄い方なのでしょうがないですね。これからもそう呼ばれることが増えるでしょうし、比較されることもあると思います。でもそのことを気にしていてもしょうがないので。僕はオリジナルでしっかりと新しい道を作っていければいいと思っています」。

少し考え込みながらも最後は力強く話し、小田凱人は次の進化を求め自身の道を突き進む。小田は11月1日からアメリカで行われている車いすテニス選手の年間チャンピオン決定戦NEC WHEELCHAIR SINGLES MASTERS/ UNIQLO WHEELCHAIR DOUBLES MASTERSに史上最年少で出場中。さらに、この道の先に見据える大きな目標は2024年のパリ・パラリンピックの金メダルだ。

取材協力:(公財)吉田記念テニス研修センター

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◆国枝が2年連続8度目V 全米車いす、上地準優勝

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。