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【Bリーグ】アルバルク東京・伊藤大司AGM 「ゼネラルマネージャーになりたい」をいかに叶えるか 後編

 

【Bリーグ】アルバルク東京・伊藤大司AGM  「ゼネラルマネージャーになりたい」をいかに叶えるか 後編
アルバルク東京アシスタントゼネラルマネジャーの伊藤大司さん   (C)ALVARK TOKYO

伊藤大司にとって北海道や滋賀への移籍がその後の人生プランに大きな影響を与えた。初めて移籍を経験した北海道では「セカンドキャリアを考えるようになり、バスケットボールに携わっていたい」と思うようになった。東京時代は「自分のためチームのために優勝することを念頭にプレーをしていた。

常に勝つためのプレッシャーと戦い、他のことに目を向けられなかった」と振り返る。北海道へ加入すると、折茂武彦社長は移籍当時まだ現役としてプレーをしながら社長業をこなしていた。社長以下、選手もフロントスタッフも皆「勝つだけでなくファンの方々をどう楽しませるのか。どうしたらより楽しみながら応援してもらえるのか」を考えていた。

「折茂社長のイベント会場での振る舞いやSNSでの関わり方、メディア出演への姿勢などこうしなければいけないのか」と気が付かされることばかりだった。北海道時代にはクラブの企画でコンビニエンスストアの店員になりファンの方々と触れ合ったこともある。ファンとの距離が近かった分「ファンのあたたかさもとても強く感じた。この人たちのために勝ちたい」と自分やチームのためにプレーする姿勢が自ずと変わっていった。
 
◆【前編】アルバルク東京・伊藤大司AGM 「ゼネラルマネージャーになりたい」をいかに叶えるか

■ゼネラルマネージャーを目指すと決意

その後、滋賀へ移籍し「クラブのカラーや経営スタイルなどそれぞれに違いがある中で、どういうチーム作りをしているのか」ということに興味が沸き始めた。「コーチングスタイル同様、チーム作りもたくさんの方法がある。自分なら選手としてもっとこうして欲しい」と今までとは違う視点で物事を考え始めていた。気が付くと引退後は「ゼネラルマネージャーになりたい」と思うようになっていた。

新たな仕事については「コミュニケーションの部分が大切。チーム作りは、プレースタイルだけでなく愛されるチームとしてもみんなで同じ目標に向かうべき。過去の経験から最も重きを置きたい」と力強く語った。「シーズンを通して10試合しか負けないようなチームから移籍し全く逆の経験もした。選手としても人間としても成長できた」と振り返る。話を聞くうちにこれまでの移籍や選択が今の新しい挑戦に繋がっていると思うと間違いではなかったのだろうと感じた。

2度目のオファーをもらい「今しかない。アルバルク東京という部分が最も魅力的だった。7年在籍したチームであること、日本のトップのチームでもある。夢に近付くためにどの道を進めばいいのか天秤にかけた結果、A東京での経験は思い描くゼネラルマネージャー業に近付くことができるだろう」と第一歩を踏み出すことを決めた。信じた道を突き進む伊藤の姿を注目してほしい。

7年間プレーしたアルバルク東京でゼネラルマネージャーを目指すと決意した伊藤大司    (C)ALVARK TOKYO

Bリーグは6シーズン目が始まり、今後多くの選手が引退していく。ゼネラルマネージャー、コーチなど狭き門となってくる。伊藤も「準備をしておくように」とアドバイスを受けてきた。伊藤自身も北海道で選手たちをよりアドバイスし牽引していく立場も求められるにつれて「指導者、コーチになりたい」と思うようになりコーチライセンスを取得。

「コーチング業に例え興味がなくても選手としても成長できる」とコーチライセンスに挑戦することは後輩にすすめている。またA東京では英会話のスポンサー企業に力を借り選手たちが英会話レッスンを受講できるようになっている。少しずつ選手へのサポート体制も充実していくだろう。ただ最も大切なことは「引退後にどうポジティブにメンタルを保てるのか」だと語る。選手時代は「結果がわかりやすくすぐに返ってくる」が、「引退後、結果がすぐに出ない仕事に携わるとやっている実感が湧かず戸惑いが生まれることがある」という。不安に感じる中でも、「バスケットボール選手としてやってきた誇りを忘れずに培った経験を生かして欲しい」といい、「現役中のもっと上手くなりたいという向上心はどこへ行っても忘れてはいけない。それがモチベーションやメンタルの維持に繋がる」と今は新たな仕事と向き合いながら感じている。

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■ケビン・デュラントから「お疲れ様」

さて開幕から1カ月以上が経過しA東京は現在8勝3敗(11月8日現在)東地区2位に付けている。「チームとしてはいい形になってきてはいるがアルバルクらしさは完全に40分間通して出し切れていない。出だしが重い試合もあり、もっと質の高いバスケットボールをしなければ」と語る。アルバルクらしさとは何か。「パヴィチェヴィッチ・ヘッドコーチはセットプレーも多く、こういう形で点を取ってほしいとはっきりしている。日本のトップ選手たちがそれらを遂行していく強さ」がある。さらに「他チームよりもフィジカルなディフェンス」もA東京の魅力でありスタイルだ。

今シーズン、Bリーグの勢力分布図は大きく変わった。東高西低と言われてきたが、西地区も広島ドラゴンフライズ島根スサノオマジックなど注目の補強を行った。これまで「A東京が負ければアップセットと言われることもあったが変わってくるだろうし、日本のバスケットボールがより面白くなる」と期待している。

このリーグの変化はゼネラルマネージャーやクラブにも大きな影響を与えるようだ。「チーム作りの面で、このチームを倒すためにとターゲットを作り選手補強などを行ってきた。例えば、川崎ブレイブサンダースニック・ファジーカス選手対策をどうするかなど。今後は全チーム満遍なく見ていく。より自分たちのチームカラーが大事になってくる」と自分たちのスタイルの重要性を説いていた。

伊藤はアシスタントゼネラルマネージャーに就任後、NBAをはじめ世界のバスケットボールの見方において変わった部分があるという。試合の見方や楽しみ方は変わらないが「選手の移籍やコーチの招聘、オフコートでの動き、コーチや選手の発言などを気にして見ている」と意図を探ってしまう。今シーズン開幕前は「ロサンゼルス・レイカーズがベテランを集めたのはなぜか、ミルウォーキー・バックスは優勝してもなぜ選手を変えたのか」などに注目していた。「ゼネラルマネージャーの考え方がしっかりしているのだろうし評価されているのだろう」と推察していた。NBAを見ながら自チームでのディスカッションなどしっかり行わなければと気を引き締めている。

そしてNBAと言えば、高校時代のチームメートだったケビン・デュラントについて。デュラントからは、引退を発表後「お疲れ様。アシスタントゼネラルマネージャーもいいね」とメッセージが届いたという。「日本で、アルバルク東京でプレーしてほしいと伝えた」と茶目っ気たっぷりに伊藤は笑う。現在、デュラントは在籍しているブルックリン・ネッツと複数年契約を結んでいる。続けて「契約終了後にプレーしてほしい。日本でオーナーになってほしいとも話した」と笑いながら明かしてくれた。冗談ながらもこんなやりとりができてしまう関係性ゆえ、NBAファンとしても具現化をつい期待してしまう。

ポートランド大学時代のチームメート 右が伊藤大司、左がケビン・デュラント    提供:伊藤大司

デュラントは東京五輪でアメリカ代表としてプレーをした。これが初来日だった。残念ながらコロナ禍で楽しむことはできなかったが移動のバスの中から見た東京について「街並みが綺麗で華やかな印象を持った」そうだ。かつて伊藤が教えた日本のお菓子「ハイチュウを買って帰りなよ」と伝えたら「アメリカでも売っていて時々食べている」と言われたそうだ。日米のバスケットボール界を牽引してきた二人は今もこれからも変わらず強い絆を保つのだろう。「早くネッツでのプレーを観に行きたい」と笑っていた。いつか、この2人がタッグを組み、日本バスケットボール界を盛り上げてくれたら嬉しい。

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また伊藤の兄は、今シーズンからB3リーグに参入した長崎ヴェルカの伊藤拓摩ゼネラルマネージャー兼ヘッドコーチだ。日本でも、いや世界でも兄弟でゼネラルマネージャーを務めるのは珍しいことだろう。A東京在籍時、兄がヘッドコーチだったこともある。伊藤はバスケを始めたのも留学も常に兄の影響を受け、様々なことを語り合ってきた。引退やアシスタントゼネラルマネージャー就任報告をした際も、「お疲れ! いいんじゃない」と軽く背中を押してくれたという。弟の性格も夢もよく理解した兄だからこその反応だった。

長崎の目標はB3優勝と最速B1昇格で、現在連勝街道を突き進んでいる。先月には、天皇杯でB1のサンロッカーズ渋谷を破るなど話題となった。そう遠くないうちに、日本で初めて兄弟ゼネラルマネージャー同士の対決が見られるかもしれない。「まったく想像つかない。その時は話さなくなるのかな」と笑っていたが、そんな瞬間をとても楽しみにしているようだった。これからも伊藤は兄弟で日本バスケットボール界を牽引し続けていくのだろう。

A東京は来シーズンから再びホームアリーナである国立代々木競技場第一体育館に戻る。観客は10000人レベルで収容可能となる。そのためにも今以上に強くより魅力的で多くのファンから愛されるクラブになる必要がある。伊藤がA東京だけでなく、北海道や滋賀で経験してきたプレー以外の部分は活かされるだろう。「フロントスタッフもとても努力している。選手もそれをより感じられるように伝えていきたいし行動のアドバイスなどもしたい」と意識改革から徹底して追求する考えだ。大都市・東京に根付く地域に愛されるクラブへと今後どう変化していくのか、伊藤がどのように力を発揮していくのか注目したい。

◆2度王者に輝いたアルバルク東京、優勝候補筆頭のつまずきと再スタート

◆【著者プロフィール】木村英里 記事一覧

◆アルバルク東京・田中大貴がBリーグMVP受賞 「常に上を向いてこの困難を乗り越えていきましょう」

■著者プロフィール

木村英里(きむら・えり)●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長

テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。