【スポーツビジネスを読む】Strava三島英里シニア・カントリー・マネージャーに訊く 後編 「グロースの女王」が語る成長の3つの秘訣

2019年のチーム写真 前列右端が三島英里さん 写真:本人提供

FacebookInstagramと世界に名だたるSNSの成長とともに歩んで来た三島さんをここでは「グロースの女王」と呼びたい。そして、相手が女王ともなれば、ずばりそのグロースの秘訣について訊ねたくなるのが人間心理というものだろう。ここでは、その秘訣について、3つに絞って回答を求める暴挙に出た。

すると三島さんは「大した秘訣でもない」と言わんばかりにさらっと答えをくれた。

1. プロダクト・マーケット・フィット
どんなB to Cサービスでも、マーケットが求めている機能を提供すること。常識のように思えるが、実はプロダクトを優先するあまり、この観点を忘れてしまうアプリは山ほどある。Stravaも常にサイクリスト、ランナーが欲している機能を提供している。

2. ティッピングポイントとなる出来事を逃さない
不可抗力のケースもあるが、こうした出来事を逃さず、ユーザーを獲得する。例えば、東日本大震災の際はインターネットしか使用できずその際、実名で安否確認可能なFacebookの需要が高まった。これを教訓に、災害時の「安否確認」機能が追加されたのも記憶に新しい。また、インスタは他SNSを芸能事務所などに管理されている芸能人などが、まさに本人として情報を発信。これが「本物」志向のユーザーを捉え、ブレイクのきっかけに。また、この戦略を有効活用した点も続伸の要因に。

3. いかにコミュニティを取り込み、リレーションシップを深めるか
こちらはFacebookの場合は、エンジニアの尽力の賜物。ABテストの繰り返しによるテクノロジードリブンで獲得。一方でインスタは、プロダクト・リリース後、信頼できるコミュニティに意見をもらう、コミュニティ・フィードバックに重点を置いた。

こうした観点からStravaも「コミュニティ・ドリブン」でグロースを推し進めている。社としてもユーザーを認識し、コミュニティ・マネージャーなど中の人の顔を意識し、グロースを図る。Stravaではユーザーを「アスリート」と呼び、もちろん「アスリート・ファースト」を掲げている。「ビジネス・オーサムはアスリート・オーサム」という考え方で、いわゆる「中の人」も日常的にスポーツに取り組んでいるメンバーが多いのだとか。

インタビューを受ける三島英里さん 撮影:SPREAD編集部

「コミュニティ・ドリブン」の観点から、どんな施策が取られているのかを訊ねると「日本からのリクエストで、マップ上に駅を表示してもらえるようになりました」とのこと。アメリカ、Stravaがベースとする西海岸ではクルマ社会のため公共交通機関として鉄道を、またその駅を意識する機会は極めて少ない。よってマップ上に鉄道の駅は表示されていなかった。しかし、これはで日本のユーザーから「場所を確認しにくい」という声が挙がるのは当然。外資企業において、こうした国ごとの差異は「本国」ではなかなか理解されにくい傾向にある。

しかし、たまたま「(アメリカの)担当エンジニアがしばらくヨーロッパで仕事した経験があり、公共交通機関を使用していた過去もあって、すぐに理解してくれました。おかげで、駅がマップ上に反映される開発がスムーズに進められたのです。グローバルに展開しているので、様々な環境にいるユーザーがいる中、そのニーズに合わせたプロダクトが必要ですよね。私自身も(クルマ社会の)アトランタに住んでいた時はMARTA(マルタ=アトランタ市内の唯一の鉄道網)には一度しか乗ったことがなかったので、よく理解できるのですが(苦笑)」とアメリカ企業ならではのエピソードも語ってくれた。

◆【インタビュー前編】アプリ界で「2000万をお代わりした女」が誕生するまで

実は私自身、三島さんと同時期にアトランタに住んでおり、当初こそそのMARTAで通勤していたものの、クルマ購入後はすっかり使わなくなってしまった経験がある。日本と異なり世界には「鉄道網」が一般的でない国もある。

■アスリートと同じ「言語」でのコミュニケーションが大事

Strava入社までスポーツを主流とした業務を担当した経験のなかった三島さんに、スポーツ界ならでは苦労について訊くと「(Stravaの)主流はサイクリング、ランニングなんですが、アスリートと同じ言語を話すことが大事だと思いました。(入社してから)初めてフルマラソンを走ったり、ロードバイクを購入してサイクリングを体験してみたり、みんなと同じ目線で語れないといけませんよね」とのこと。どの業界でも同様だが、その世界ならではの言語は必須だ。

横浜マラソン疾走中の三島英里さん 写真:本人提供

そうした中で学んだ「言語」の一例を訊ねると「FTK」を挙げてくれた。FKTとは「Fastest Known Timeファステスト・ノウン・タイム」のこと。もとは、特定のトレイルコースを走った自身のGPSデータをFKT登録サイトに申請し、「最速」の称号を得るアクティビティを指す。新型コロナウイルスの余波により各レースが中止になり、FKTへの意識が促進され急速にポピュラーになった「言語」らしい。大会や競技団体などが認める公式記録である必要はなく、個人が独自に計測、公開しているケースがポピュラーだとか。「例えば、(アメリカ東部を南北に走るアパラチアン山脈をコースとした)アパラチアン・トレイルを最速で縦断したのは誰か……などがこのFKTで共有できるようになりました。また、Stravaにもこうした記録を残せる機能があるおかげで『上田瑠偉に挑戦』などという企画も可能になりました」と解説を加えてくれた。

上田瑠偉は駅伝の名門校、佐久長聖高校出身のトレイルランナー。大学時代にトレイルランニングと出会い、初出場のレースで大会新記録・優勝を飾り、以来、海外も含め様々なレースで記録を残す注目のアスリートだ。Stravaの機能のおかげで、こうした一流アスリートとも素人がバーチャルで競うことが可能になったわけだ。

上田瑠偉が全国に記録を残すプロジェクト、 「Japan F.K.T. Journey」の公式サイト

サイクリング界の「言語」としては、「さらに『エベレスティング(everesting)』もありますよね。これはロードバイクでエベレストと同じ標高を累積するまで1つの坂を繰り返し往復するアクティビティ。最先端の技術で楽しんでいる人は『いろんなことを思いつくものだなぁ』と思い知りました。逆に日本ではテクノロジーを理解してもらう点で、少しハードルが高いように思えます。ビジネスパートナーに『なんで海外では人気があるの』と聞かれますが『コネクテッド・フィットネス』、つまりフィットネスがすべてデジタルでつながるようになり、デバイスからデータをやりとりできるしくみ、その先にコミュニティがあり、パーソナル・データでコンペティションする……この良さ、コンセプトが理解されないケースがまだ多いようです」と日本固有のテクノロジーに対する保守的な目線に苦労も絶えないようだ。


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