【MLB】加藤豪将が叶えた「フィールド・オブ・ドリームス」 戦力外通告からリベンジなるか

メッツに移籍後初のメジャー昇格が決まった加藤豪将(C)Getty Images

オールド・ファンなら1989年公開の映画『フィールド・オブ・ドリームス』をご存知だろう。ウイリアム・パトリック・キンセラによる小説『シューレス・ジョー』を原作として映画化された「ブラックソックス事件」の後日談となるファンタシーだ。

さすがメジャーリーグらしいというか、アメリカらしいというか昨年、この映画が撮影されたアイオワ州ダイアーズビルの野球場の隣にMLBが球場を建てた上、シカゴ・ホワイトソックスニューヨーク・ヤンキース戦が行われた。映画同様選手たちがとうもろこし畑から入場した上、シナリオがあったかのような試合をホワイトソックスが劇的な幕切れで勝利した。

◆【実際の映像】苦節10年でついに歓喜の瞬間 加藤豪将の記念すべきメジャー初安打

ケビン・コスナーレイ・キンセラ役で主演を務めた映画の中で、鍵となる人物をバート・ランカスターが演じた。その名はアーチボルト“ムーンライト”グラハム。彼はレイの父同様、メジャーを目指した。昇格しメジャー・デビューしたものの、外野の守備につきながら打球が飛んで来ることもなく試合終了。そのままマイナー行きとなり、一度も打席に立つことなくキャリアを終え、医者として生涯を閉じた。

劇中では、『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台でついに打席に立つ。その打席で、相手ピッチャーにウインクまでして見せ、ビーンボールを浴びせられるもその後、外野フライを打ち上げ、三塁ランナーが生還、見事打点を挙げてみせた。

■メジャー・デビュー後、初ヒットはツーベース

トロント・ブルージェイズで今季初めてメジャーに昇格した加藤豪将を追いかけながら、そのワンシーンを思い起こした。加藤は2013年、ヤンキースに2巡目全体66位で指名され入団。高校時代は4割を打つなど、大型ショートとして期待されたため「ジーター2世」とまで讃えられた。日本人がMLBにおいて全体100位以内で指名された初めての選手であり、日本の野球界を経由せず、メジャーリーガーとなった初めての野手でもある。

残念ながらヤンキースではメジャー昇格を果たすことができず、ショートだけではなくどこでも守れるユーティリティ・プレーヤーとなった。2019年にマイアミ・マーリンズと契約するとAAAに昇格、打率.267、46打点、11本塁打、OPSも.763とまずまずの成績を挙げ、再び脚光を浴びた。2020年は新型コロナウイルス蔓延の影響によりマイナーリーグの試合はすべてキャンセルとなってしまったが、2021年にはサンディエゴ・パドレス傘下で契約、AAAにて打率.306、42打点、8本塁打、27本の二塁打に4つの三塁打を放ち、OPSも.862へと向上。いよいよ、来季はメジャーかと、期待はさらに高まった。

2022年はブルージェイズとマイナー契約。招待選手となったオープン戦で実力を証明、10年に渡る挑戦で、開幕を初めてメジャーリーガーとして迎えた。

しかし、せっかく掴んだメジャーデビューだったが、ここからも順風満帆とは行かず、4月9日の初出場はピンチランナーとしてのみ、翌日にはマイナー行きとなった。ここで前述したアーチボルト“ムーンライト”グラハムのエピソードが強烈に蘇って来た。島国根性丸出しの日本人としては、「加藤に打席のチャンスを与えてくれ」と野球の神様に祈る気持ちだった。

ここは「幸い」としていいだろう。14日にはメジャーに再昇格。21日には二塁手として待望の先発出場を果たした。この日、3回には四球を選び、初得点を記録。27日も出場を果たすと、2塁打を放ち、メジャー初ヒットをも記録した。加藤は二塁ベース上で歓喜を爆発させガッツポーズ。味方ベンチに戻ると、10年に渡る彼の労苦をチームメートも感じ取っていたのだろう。まるでホームランを放ったかのように祝福されていたのが印象的だ。「グラハムの呪縛」からは解き放たれ、いちファンとしても、胸をなでおろしたシーンだった。

だが5月2日、加藤はロースターの減枠のため、またもマイナーに送られると5日には40人枠からも外れ、事実上の戦力外となった。加藤の今後のキャリアは、どうなるのだろう。

加藤は、大谷翔平鈴木誠也と同い年。日本のプロ野球で華々しい活躍をみせ、ポスティングで海を渡ったスーパースターたちと、ドラフト入団後マイナーをひとつひとつ上り、ついにメジャー・デビューを果たした加藤は、まさにスポーツの光と影だろう。凡人としては、大谷や鈴木の活躍に声援を送るものの、自身の日常の労苦同様、時として浮かばれない、なかなかチャンスを与えられない加藤には、祈るような気持ちを抱かざるを得ない。地元トロント・ファンからも「球団はチャンスを与えなかった」などの声が漏れている。

近年では小学生男子の将来の夢は「ユーチューバー」だとかで、なかなかそれを快く思わない親も多いと聞く。売れっ子ユーチューバーになれる者など、ほんの一握りだからだろう。昭和の時代、男の子の夢は「プロ野球選手」だった。しかし、プロの野球選手なれる少年など同じくほんの一部。ましてやプロで活躍するとなると、まさにひと握りの選手のみ。ユーチューバーで生計を立てるよりも分が悪いのではないだろうか。さらにメジャーリーガーとなるなど、昭和の時代は夢のまた夢だった。そんな夢を、たったひと欠片ではあるが、加藤は叶えたのだと信じたい。MLBでは毎年1200人余がドラフト指名されるが、翌年メジャー・デビューする選手はわずか0.4%に過ぎないからだ。

加藤のメジャーリーガーとしての成績は5月2日時点で、出場8試合、うち先発出場が4試合、11打席7打数1安打3四球1犠打2得点、二塁打1、守備機会21で失策0。これが、加藤のMLB最終通算成績とならぬよう、彼の「リベンジ」に期待し、今日も祈るような気持ちでMLBニュースを開く。

(日付はすべて現地時間)

※編集部注:加藤は現地時間7日、ニューヨーク・メッツによる獲得が発表された。

◆「ジーター2世」とまで讃えられた加藤豪将、メジャーデビューなるか

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨーク大学などで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。


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