【スポーツビジネスを読む】公益社団法人日本プロサッカーリーグ佐伯夕利子・元理事 前編 「サッカーで生きる」と決意するまで 

Jリーグ元常勤理事、ビジャレアルCF、WEリーグ理事の佐伯夕利子さん 撮影:SPREAD編集部

■「私にはサッカーしかない!」と決意

佐伯さん、今度は地下鉄マップをひっぱり出し、協会まで経路を確認。協会にたどり着くと、佐伯さんにも女性の担当者が優しく対応してくれたという。

「マドリードの市街地図を出し『あなたの住んでいるところはどこ』と訊ねられたので『ここです』と示すと『あなたのウチから通えそうなところは……』といくつか印を書いてくれました。私が自身で通えそうな場所を答えると、すぐに目の前で監督に電話を入れてくれました。すると『今夜、練習だから来てね』と」と即決、なんともスペインらしいエピソードを披露してくれた。

しかし、サッカーどころのスペインとは言え、サッカーの門戸が女子に開放されていたかというと、実はそうでもなかったという。マドリード市の人口は1991年に300万人を超えたほど、しかし市内で女子が参加できるクラブは5つ程度しかなかったそうだ。

「私よりも上の世代ともなると親に反対された子も少なくなかったんです。同じクラブには、お風呂場の小窓から隠れて抜け出し、練習に来た……という子までいました。クラブ数も少ないのでお互いに行ったり来たりしないと一年の試合数も不足するほど。振り返ると、スペインでも女子サッカーがここまで発展したのは、本当に最近。実は『女子サッカー』という文脈においては、日本が圧倒的に発展していたんです」と明かした。

日本の女子サッカーは組織も競技者数も世界有数。実は日本人が知らない事実なのだとか。一時は、世界のトッププレーヤーが日本のリーグに在籍。「私の元同僚も1996年頃、日本のクラブとプロ契約していましたし、サッカー界において、日本の女子リーグが一目おかれる存在だったのは間違いないです。そういう歴史はあまり知られていないですよね」と佐伯さん。

そう振り返ると、ワールドカップで女子が優勝したのは、必然だったのかもしれないと考えさせられる。

アトレティコ・マドリードの女子チームを率いる佐伯夕利子さん(後列右端) 写真:本人提供

こうしてスペインのマドリードで再びサッカーを始めた佐伯さんではあるが、ずば抜けてうまかったわけでもない、プロ選手になれるとは思えなかった。そこに転機がやって来た。

「ある日、練習の後、満天の星を見上げながらストレッチをしクールダウンしていた時、突然意味もなく、無条件に鳥肌が立ったんです。『私にはサッカーしかない!』と。こんなに好きなものは、サッカー以外にない。漠然とした曖昧なきっかけだったんですが『私はこれで一生食べていきたい』と思ったんです。ヒスパニック文学を勉強していたんですけど、全然楽しくないし、モチベーションも保てずにいました。サッカーで生計を立てていきたいと思った18歳の夜でした」と、スペインに渡らなければ、サッカー界へのコミットメントあったか否かも大きな転機だったという。この時点までは「単なるスポーツ好き」だったそうだ。

サッカーで生計を立てる」とひと口で言うが、もちろんそれほど簡単なお話ではない点、サッカーに関与した経験のある方々ならよくよくご存知だろう。佐伯さんは、そこから職業として成り立つのは、果たして何か、考えを巡らせた。思いついたのは2つの選択肢。「監督などの指導者か、もしくはレフリーだった。今振り返るとサッカー産業を取り巻く職業は、他にもさまざまな選択肢があっただろうと思います。しかし、当時は進路として『先生』も想定していた影響か、その中から『指導者』を選ぶことにしました」。

しかし、これもとても簡単とは言えなかった。スペインにおける指導者資格をひとつひとつクリアして行く。それでも「指導者=職業」として生計を立てていける人数はほんのひとにぎり。それでも、スペイン国内でその目標を達成して行くと心に決めていた。そもそも日本人、つまりスペインにおいては外国人となるため、在留資格も確保しなければならない。そこで佐伯さんは自身で会社を設立した。

「自分の会社を設立し、通訳・翻訳を生業とすることで生計の軸を作り、同時に指導者としてのスキルを継続的にアップするという手法を取りました。しかも、翻訳・通訳ですがサッカー関係以外の業務は引き受けないと決めてやって来たんです」。

なんという意志の強さだろう。プレーヤーとしての才に自身で見切りをつけ、それでいて10代でサッカー界へのコミットメントを決意。以降、スペインという外国で、事業を切り盛りしつつ、サッカー指導者としてステップアップを選択した。この道筋は、やはり国内でぬるま湯につかって歳月を刻んできたサッカー関係者とは一線を画したに違いない。

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著者プロフィール

松永裕司●Neo Sports General Manager

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ マイクロソフトと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Director of Sportsなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークとアトランタで過ごし2001年に帰国。Forbes Official Columnist


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