【スーパーGT】木っ端微塵の大クラッシュから新型Z、千代勝正、高星明誠、奇跡の初勝利

優勝したNDDP RACINGのCRAFTSPORTS MOTUL Z(C)GTA

“奇跡”と思えるような出来事に時々遭遇することがある。鈴鹿サーキットで行われたスーパーGT第3戦が、まさにそうだった。

スーパーGTといえば3週間前に富士スピードウェイで行われた第2戦の、300km/h近い速度が出るホームストレート上で、ほとんどノーブレーキでスローダウンしたクルマに追突するという大きな事故が記憶に新しい。その際のドライバーが高星明誠(NDDP RACING)だ。

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最高峰GTマシンの安全性能レベルはかなり高く、クルマが木端微塵になったというのにドライバーに怪我がなかっただけで奇跡的幸運に思えたが、まさかそのドライバーが、わずか3週間後の次戦に出場し優勝するとは……。

■予選からコースレコード

確かにその第2戦もトップ争いをしていたわけで、チームにそのポテンシャルはあった。問題はクルマだ。木端微塵になったクルマは修復不能で、チームはスペアパーツを集め短い期間でなんとか組み上げたクルマで第3戦に挑んだ。

したがって土曜日午前の公式練習は、ライバルたちが持ち込みセットから今回の状況に合わせ着々とアジャストを進めていく中、NDDPはシェイクダウンからスタート。そしてセッション序盤に初期トラブルに見舞われ、メニューを予定通りにこなすことが出来なかった。

さらにその影響と赤旗により、リハーサルがもっとも必要な高星がほぼ走れなかった。トヨタ、ホンダ、ニッサンが威信を賭けて挑む最高峰の舞台でこの週末スタートではまず、上位争いはできないと普通は思う。

ところが午後の予選でなんとNDDPは、チームメートの千代勝正がQ1でコースレコードを叩き出す。しかも、2位にコンマ6秒もの差。予想以上に気温が高くなり、暑いコンディションに強いミシュランタイヤの恩恵もあったかもしれないが、同じミシュランのニスモはQ1で敗退しているので、それがすべてでは決してない。

偶然なのか、それとも逆境をバネにチームが覚醒したのか、ともかくパフォーマンスは奇跡的な高さだった。Q2を走った高星が千代のタイムを上回れず最終的に予選3位となったのは事故の影響やリハーサル不足が原因ではなく、予選後本人に聞いたところ「マシンのポテンシャルが高すぎて攻めきれなかった」のだそうだ。

ただしレースとなるとロングランが不足していること、ゆえに別の初期トラブルが出る可能性もあることなど、レースならではの心配がある。心情的には前戦が不運だった分、ここは幸運であってほしいところだったが、もちろん私の願いなど通じない。高星もフロントローのトヨタ2台は決勝でも速いと考えており、目標ではあるものの自信がそれほどある感じではなかった。

■新型マシンの初優勝で初勝利

だが蓋を開けてみると、スタートドライバーの千代がいきなりオープニングラップで前2台をあっさり仕留めトップ浮上。その後も速いペースを維持しリードを広げると、後半の高星はさらにギャップを広げ、一時は2位に20秒差をつけた。

レース後半は路面温度50℃と前日に増して暑くなったからなのかトラブルに見舞われるマシンが続出したが、3号車は安定感も抜群だった。39周目に2度目のセーフティカーが出てギャップがリセットされたときは唯一ピンチかと思ったが、リスタートも完璧ですぐに2位を引き離した。

これで新型Zは初優勝を達成。また高星にとっても千代にとってもGT500での初優勝という、メモリアルな勝利となった。

新型Zは去年までのGT-Rが苦手だった富士を速く走れるようにするのが開発コンセプトだと聞いていた。ならば逆に得意としていた鈴鹿ではやや戦力が落ちるのでは、とも考えられた。そんな中で見せた鈴鹿での速さ。

この後シリーズは再び富士、鈴鹿の連戦を迎える。しかも開催時期はミシュランが得意とする夏場。ここでランキングトップに立ったNDDPがどんな戦いを見せてくれるのか、多くが第一の注目ポイントだと捉えているだろう。

ちなみに今回、日曜日の午前に行われた記者会見で、第2戦の事故についての詳細説明が行われた。原因として挙げられたのが、スローダウンしたクルマがいることを知らせる白旗提示の対応が適切ではなかったことや、スローダウンしたクルマがハザードを点けていなかった上に走行ラインを完全に外していなかったことなど。

そうであったなら確かに、高星の前を走っていた関口雄飛(チーム・サード)は直前まで100km/h近くまでスピードが落ちていたことは分かりにくかっただろう。そのスリップにつけていた高星は左ハンドルのクルマだし、なおさらだ。これらの改善点について、今後徹底するとのことだった。その午後の第3戦もトラブルでスローダウンやストップしたクルマが多かったが、進行は至ってスムーズだった。

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著者プロフィール

前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター

2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。


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