【全仏オープン】ラファエル・ナダル、レジェンド対決の決め手は驚異的な“集中力”「ノバクとの戦いは常に特別」

全仏オープンでジョコビッチを破り、準決勝に進出したラファエル・ナダル(C)Getty Images

最後は美しいバックハンドのストレートエースが世界ランキング1位の顔を顰めさせた。

赤土の王者ラファエル・ナダル(スペイン) と世界No.1のノバク・ジョコビッチ(セルビア)による59度目の対戦は、6-2、4-6、6-2、7-6(4)でスペインのスター、ナダルが勝利をもぎ取った。

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■手の内を熟知したレジェンド同士の対決

誰もがこのクラシックゲームを第5セットまで楽しみたいと期待していたことだろう。どこまでもハングリーに勝利を目指す双方が生み出す空気は、単なる1ポイントを特別にする。

ドローが決まった日から期待されていたビッグカードの準々決勝は、夜の21時過ぎにも関わらずフィリップ・シャトリエ・コートを満員に埋めた。

その期待に応えるようにベースライン上で魅せるハードなチェスゲームは、互いにどこで攻めの一手を繰り出すかの探り合い。長い歴史から互いの進化を常に把握している2人は、手の内をすべて知っているからこそ、最初のスタートが肝心にも思えた。

■ナダル驚異の「集中力」で宿敵を制す

驚異の集中力でゲームをリードしたのはナダルだった。

ジョコビッチよりもポジションを上げ、攻撃的な連打で世界王者を振り回す。だが相手は長年、王者の座に君臨してきた宿敵で、簡単に引き下がる相手ではない。試合序盤から繰り広げられた長いラリーの結末が、この戦いの勝利を引き寄せる。その重要性を説くかのように、ナダルのしつこく重いフォアハンドはジョコビッチのミスを誘ってはポイントを奪い、第1セットをものにした。

ジョコビッチは今季に入ってからプレーが安定せず、試合勘を取り戻すことが先決だとも言われてきた。だが西岡との初戦からシュワルツマンとの4回戦までを見ても、「今の最高」を引き出せていたことは確かだ。

第2セットの第1ゲーム、6度のデュースを経ても取りきれずに0-3と離されたが、底力を発揮するかのように緻密に計算されたストロークで追い上げる。その脅威はナダルに僅かな判断ミスを起こさせ、2-3と迫った第6ゲームで7度のデュースの末にブレイクを果たし、勢いそのままに第2セットを奪取。その光景は昨年の準決勝で見せたジョコビッチの逆転劇を彷彿とさせるようで、観客たちは大きな歓声をあげた。

しかし今回のナダルは桁違いに集中力が高い。大会前に肋骨の骨折と足の持病が再発したとは思えないほどの動きで、ベストパフォーマンスを見せつけ、第3セットをあっさりと自分のものにする。

第4セットに入るとジョコビッチもギアを上げて巻き返し5-2とリード。だが期待通りと言っていいのか、ここから“不屈の男”ラファエル・ナダルの炎のリベンジが始まった。何が彼をここまで駆り立てるのか。相手が誰でもベストを尽くすレジェンドではあるが、今回は時代を共に作り上げたジョコビッチという最大のライバルとの一瞬一瞬を楽しんでいるようにさえ見えた。リードしていた世界1位をタイブレイクで捕まえ、3ポイント連取の波に最後まで乗り切り試合を決めた赤土の王者は、最後にはとびきりの笑顔でファンの声援に応えた。
 
4時間12分に渡る死闘の結末について「ノバクとの戦いは常に特別なんだ」と振り返り、勝利を噛みしめるナダルの目には涙が光っているようだった。

■14度目の全仏制覇なるか

ナダルの赤土での武勇伝は2005年に初出場した際、19歳の若武者として全速力で頂点まで駆け上がったことから始まる。レフティから放たれる力強く跳ね上がるスピンボールで新時代を築き、不屈の精神で数々の偉業を成し遂げてきた。その最後まで諦めない姿勢はナダルの生き様そのものであり、年始の全豪オープンで見せた大逆転優勝も記憶に新しい彼の軌跡のひとつだ。

そんなレジェンドの歴史にまた一つ、意義深い一戦が加わったことになった。

ナダルは準決勝で、大本命と言われたカルロス・アルカラス(スペイン)を打ち負かした第3シードのアレクサンダー・ズべレフ(ドイツ)と対戦する。ズべレフも質の高いサーブとストロークを武器にボールをねじ込むなど調子は良さそうだ。

14度目の全仏制覇に向け、赤土の王者は再び大きな山場をむかえる

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。


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