【シティ・オープン】西岡良仁、世界最高峰への道を切り開き準優勝

惜しくも準優勝に終わった西岡良仁(左)とニック・キリオス (C) Getty Images

西岡良仁がワシントンDCで躍動した。

ワシントンDCで開催されていたテニスのシティ・オープンは7日(日本時間8日)決勝を迎え、西岡とオーストラリアのニック・キリオス(世界ランク63位)が激突。6-4、6-3でキリオスが優勝し、西岡は惜しくも準優勝となった。

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■「真価を発揮」西岡は54位にランクアップ

これまでの西岡の戦いは見事だった。

次々と強豪たちをなぎ倒し、準決勝でも第1シードのアンドレイ・ルブレフ(同8位・ロシア)を6-3、6-4で撃破した西岡は、錦織圭以来となるATP500レベルの決勝を戦った。それまでの5試合でコートを走り続けた時間は11時間9分。その時間がまさにワシントンでの軌跡を物語っている。

1回戦からタフなドローだった。先週のアトランタ・オープン(ATP250)ファイナリストであるジェンソン・ブルックスビー(同37位・アメリカ)を破り、挑んだ2回戦は同大会覇者の アレックス・デミノー(同21位・オーストラリア)。

そのデミノー戦から西岡は波に乗った。

テンポを速め打ち切りたいデミノーに対し、西岡の真骨頂とも言えるチェンジ・オブ・ペースの巧みさとフィジカルの強さでゲームをリードする。何よりも弧を描くように落ちていくスピンボールは相手のタイミングを外し、不意にアクセントのフラットショットを打ち刻み足元をすくっていく。一進一退の攻防戦の中にも西岡の静かな闘志が好機を見逃さず、自身のゲーム・プランに誘い込むように強打をいなしては、隙を見つけ攻撃に転じた。

見ているだけでも脅威に感じたのは、このハイペースなラリーのなかでもミスをする気配がないことだ。その姿には上り調子のデミノーでさえも超えられない壁のように圧迫感をもたらした。それは時間が経過するとともにデミノーのプレーに焦りを生み「西岡に1本でも多く触らせてはいけない」とネット前のショットを何度も必要以上に強打させるほどだった。

この勝利が自信の礎となり3回戦では「ジュニアの頃から勝ったことがない」とする元8位のカレン・ハチャノフ(同24位・ロシア)に初勝利。昨年の東京オリンピックでは1回戦で西岡が破れた対戦相手であり、銀メダリストでもある。そのハチャノフをデミノー同様に封じ込め、7-6(2)、7-6(1)の接戦をものにした。

西岡は他のトップ選手に比べればサービスエースなど派手なプレーは少ないが、何よりも非凡なタッチセンスに加え、ギリギリで競い合うバトルを怖がらないハートの持ち主だ。その強さがハチャノフ戦でも大いに発揮され、針の穴に糸を通すかのようなパッシングショットは日本の小さな巨人を支え続けた。

準々決勝で顔を合わせたのは好敵手のダニエル・エバンス(同40位・イギリス)だ。記録だけ見れば4勝0敗と相性がいいようにも思うが、二人の試合はいつも死闘のようでファイナルセットまで譲らない。今季のマイアミ・オープン(ATP1000)で見せた2回戦を思い返させるようなラリーの応酬は、まだ日が明るい頃に始まった勝負の行方をすっかりと夜まで長引かせた。

ファイナルセット6-5の30-30ではエバンスのワイドサーブを読み切り、バックのクロスで鮮やかなエース。そして最後は力なくサイドアウトしたボールを横目に大の字でコートの上に倒れ込み3時間35分のロングマッチに終止符を打った。

真夏の連戦に体力も削がれていたのは間違いないだろう。しかし迎えた準決勝では、ツアートップレベルの速球連打を誇るルブレフを完封。ラリー戦では互角の打ち合いからバックハンドの高い場所へとスピンボールを送り続け、徐々にペースを掴みだした。ルブレフは序盤からアンフォーストエラーを抑えられず、異常なほど苛立ちを覚えていた。それもこれまでの西岡の戦いぶりを知っていたからだろう。オーバーペースにさせることに成功した西岡はベースライン付近にグッと落ちるフォアを使い、最後はネットへと追い込みにかかった。

「今のルブレフのすべてを把握している」そう言うかのように落ち着き払った西岡は、ワシントンの夜を自分の世界に染めきったのだ。

これで今年初めから悩まされていたランキング100位付近での停滞からも脱出し、54位にランクアップする。そして年始に掲げた「もう一度ツアー優勝をする」という目標に向け、西岡の真価が発揮された大会となった。今季、残りの大会にますます注目が集まる。

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。


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