【プロ野球】「監督としては助かる」は本当か、クリーンナップの送りバントに物申す

MLBでは稀な送りバント、スクイズを決めるロイヤルズのニッキー・ロペス 22年8月24日 (C) Getty Images

今年の夏の甲子園で、両校無得点の序盤に先頭の3番打者が出塁、次の4番打者が送りバントを決めた試合があった。高校野球では珍しいことではない。テレビのアナウンサーは「4番打者にバントをどう思われますか」と解説者に問いかけたところ「どうしても先取点がほしいということでしょう」という答えだった。多くの解説者がこう答えると思う。

数日後プロ野球で初回1番と2番が出塁、無死一二塁のケースで首位打者獲得歴もある3番打者が自分の判断で送りバントを決め5番打者の適時打で2点を先制した。

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■大量得点を狙うかの判断は監督の仕事

この中継を私自身は見ていなかったが当日夜、3人の解説者が出演するプロ野球専門のニュースを見ているとこのバントは3番打者自らの判断だったことがわかった。中継では確かに監督の指示か選手の判断かはわからないことである。

「打撃に期待しているのだから勝手にバントされては困る」という解説者もいるかなと考えたが「なかなか3番打者にバント指示は出せないから監督としては大変助かる」という監督経験のある田尾安志さんの発言もあり、おおむねこのバントに好意的だった。

「バントのほうがバットを振らせるよりも大量点にはなりにくいが得点の確率は高い」という観念がプロアマを通じて選手、首脳陣、解説者にも刷り込まれているのがわかる。

大変大切な試合で4番打者にバントをさせると「これは監督の執念が現れている」と多くの人が言うが、本当にそうだろうか。

3番打者や4番打者にバットを振らせるのは監督の執念が欠けているということになりはしないだろうか。「勝利のためには4番打者にもバントさせたいのだが、エンターテインメイント性や打者のプライドのために『強攻策』をとっている」というのだろうか。どうしても勝ちたいからこそ、最強の打者にはバントではなく打棒を期待する、という考えはないものだろうか。

主力打者が自分の意志でバントをしたと試合後にわかったら、ニュース番組では「助かると思う監督もいるかもしれないし選手もよかれと思ってのプレーかもしれないが、メディアには言わないにしても『3番、4番を打つ打者がこんなことをしてもらっては困る』と思う監督もいるかもしれない」と言っておきたい。両軍の投手と打線の力量を見て大量点を狙うのか、1点でいいと判断するのは監督の仕事であって打者の仕事ではない。

■勝利を優先するからこその「強攻策」もあり

送りバントの有効性について、筑波大学硬式野球部の監督であり体育系・川村卓准教授が2021年4月11日に東洋経済ONLINEに寄稿している。詳述は避けるが、無死一塁からの得点期待値は送りバントによって下がるということらしい。

◆【東洋経済ONLINE】筑波大学硬式野球部の監督兼体育系准教授の川村卓氏の投稿「科学的に見て「送りバント」は有効な戦術なのか」

ただし、この考察には当該打者の打順は考慮されていない。

私自身も得点圏に進めたいという意図は理解できる。その回に点が入らなくてもチャンスを作っておくことは必要で、先発投手もピンチを迎えたら心身が消耗するし野手も緊張するし守備位置の変更も余儀なくされる。強攻して併殺になるのも怖い。特に無死二塁だと、送っておけば次に多少非力な打者でも得点につながる打撃をする可能性は残る。

それでもスクイズや犠飛や緩い内野ゴロによる生還がそれほどできているわけではない。やはり相手投手がもっとも恐れる強打者のバットを自ら封じて一死を献上して、芯を外してボールを転がせというのは、バッティングが好きで野球を始めた少年を含めた男たちにやらせたくないという思いもなくはないし、もちろん監督が決めることなのだが、強打者にバントをさせるのが勝利への執念の現れというのは賛同しかねる解釈である。

つまり、勝利を優先するからこその中軸打者の強攻策という考え方はないのだろうかということであって、「監督としては助かる」と語った解説者と川村准教授のどちらとも違う考えになる。

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文●篠原一郎

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。


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