【プロ野球】個人通算記録達成の陰で起こり得る不都合な真実 石川雅規は200勝達成なるのか

テキサス・レンジャース時代の藤川球児 @2015年5月15日 (C) Getty Images

プロ野球で個人の通算記録が大台に乗る際は、チーム全体には微妙な影を落とすことがある。大台に乗るか乗らないかの選手は多くの場合、年齢も高くなっていて力が衰えてくるからだ。

2022年8月29日現在42歳、通算182勝の東京ヤクルト・スワローズ石川雅規が200勝に到達できるかどうかは微妙だ。

ぜひ達成してほしいと思うものの、プロで1勝もできない投手は数多く存在するわけで、投手が勝ち星を挙げるのは大変なことである。これまでのように先発で試合を任されて堂々と勝利投手になるのは問題ないが、チームの順位がかかっていて「どうしても勝ちたい、そのためには別の投手に投げさせたい」という場面にかからなければいいがと心配してしまう。

あるいは4回までにリードして味方の先発投手の勝ち星を奪う形になる登板は気の毒と思う。石川のような功労者に対してはそういう不満が出ない、チーム全員が納得するなら善しとしたいが、その先発投手にとっても重要な勝ち星である。

なお、ヤクルトは400勝投手・金田正一が国鉄スワローズ時代に353勝を挙げて以来、200勝投手を出していない。以降、1985年に引退した松岡弘の191勝が最多となっている。

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■優先するのは、チームの勝利か功労者の記録達成か

最近考えさせられた例がふたつある。

元千葉ロッテ・マリーンズの福浦和也は42歳、通算1962安打で2018年シーズンを迎えた。それまでの5年間で平均31安打しか記録しておらず、その間の合計打率は2割5分である。ということは2000本に到達するには152打数を彼に与えなければならず、監督も悩んだと察せられる。チームの順位がかかっていないのなら、プロ野球は個人の記録も大切だし、まして福浦は地元出身の大功労者である。ファンも多い。誰が監督でも記録を達成させてやりたいと思うはずだ。ただ、勝つためには少しでも打てる選手をベンチに置きたいと考えるのはきわめて普通だろう。

しかしこれを監督は口にもしないだろうし、メディアを通じてそのような話は誰からも漏れてこない。

2020年の藤川球児も気をもむ投球だった。

実績も、そして今に至るまでの好感度も申し分のない功労者だ。しかし通算241セーブのクローザーとして迎えた春先にセーブ失敗が目立った。ふたつセーブを積み上げたものの7月に登録抹消、以後ひとつも加えることはできなかった。なんとか250に届くまで登板機会を渡すような配慮も考えられたし、後押しをするような評論家のコメントもあった。だが、本人は250セーブへの執着を見せず、引退を表明した。

「その気になって登板すれば250には達したかもしれないのになんともったいないことを」と思ったファンは多かったろう。しかし、私は本人の判断に大きな拍手を送りたかった。

藤川の最後のシーズンの防御率は6.08。つまり1点差の場面で最終回の頭から3度登板すれば2度は失点するという計算になる。つまり3回に1回は先発あるいは中継ぎ投手の勝ち星を消してしまう。これでは先発投手はたまったものではない。大功労者の藤川に対してそれは思っても言えないだろうから、本人が身を引くのが一番チームのためである。

打者のほうは、クローザーにくらべて、2割の打者に150打数を渡しても比較的チームの勝敗には影響が少なく、仲間の個人成績に影響する度合いも小さいと思う。

しかし、クローザーはそうはいかない。

大物の晩年にはこうして、言いにくいけれども、チームへの影響が出てくる。そういうことがないように達成してもらうのが一番いい。チームのために記録達成をあきらめるように望む気はない。一度辞めたら二度と数字は増えないのだから思い残すことがないようにやってほしいし、功労者にはそれだけの権利があるとも思う。

それでもファンも含め、記録達成の陰には、チームや他チームメートにとって不利な状況が生まれる可能性がある事実を知ってもらいたいと思う。

※記録はNPBのホームページによる

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。


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