【プロ野球】青木宣親が引退していれば33年ぶりに1位が入れ替わった生涯通算打率について 

メジャーでも活躍した青木宣親 @2017年9月30日 (C) Getty Images

東京ヤクルト・スワローズ青木宣親の通算打率は昨年終了時点で.320、4000打数以上の打者で歴代トップのレロン・リー(ロッテ)と並ぶ。

しかし、通常はこういう場合「毛」の単位まで比較するので厳密にいえば.3199で2位となる。もし2020年で青木が引退していれば.325で通算打率1位が33年ぶりに入れ替わるところだった。

2020年も.317の打率を残し立派にスワローズの主力打者だった彼にこの年でバットを置くことなどみじんも考えなかったことだろう。

しかし、2021年の青木はチームを優勝に導く働きをしたものの、シーズン打率は.258の数字しか残すことができず、通算打率を5厘落とした結果、わずかながらリーの通算打率を下回ってしまった。2022年は現状さらに打率を下げているので通算1位の「奪還」はかなり難しくなった。このレベルになると、かなり高い数字をこの後残さないと通算.320を越えることはできない。

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■通算打率.300という高い壁

ニューヨーク・ヤンキースでスーパースターだったミッキー・マントルは現役最終年に通算打率を.302から.298に落としてしまった。「キャリアの中でもっとも残念なこと」と彼は最後の1年プレーしたことを死ぬまで後悔した。どの分野についても史上1位になるかならないかも選手にとって重要だが、打者にとって生涯打率3割も大変大きな境界線である。

1980年のシーズンオフ、その年30本塁打を記録した世界の王貞治の突然の引退は号外が出たほど世間を驚かせた。このとき通算打率は.301であった。もし翌年に王が前年と同じ打数と安打数を記録していたらマントルと同じ.298に落ちることになる。この年も4番を張り続けた王だったが打率は.236だったことを考えると、もう1年プレーを続けていれば32本の本塁打を積み上げ通算900号に到達したかもしれないが、通算3割を切る可能性も高かった。

それが突然の引退の理由だとは語られていないし、本人も気づいてもいないかもしれない。しかし、マントルの嘆きに接した私は、あの年の引退でよかったのではないかと考えている。

打者なら誰でも最後の最後まで打席に立ちたい、ヒットやホームランを打ちたい、と思うことだろう。だが、史上1位とか、大台に乗るか乗らないかも軽視できまい。

通算4000打数を超えた時点でリーの数字を超えていた打者は青木のほかに落合博満と小笠原道大がいる。落合は1992年終了時5450打数1754安打で.322、小笠原は2009年までの通算打率がやはり.322(5694打数1832安打)である。ふたりとも引退時は3割2分を守れなかった。

多くの打者にも全盛期の前と後には低打率の時期があり、それも加算して積み上げられて苦労した結果が生涯打率である。来日外国人打者の場合、そういう時期があまりないので打数も比較的少ない。昔、若松勉を「5000打数以上の通算打率で1位の…」とテレビ番組などで紹介されたことがあり、それはリーに失礼だという意見があった。リーは慣れない異国で初年度は苦労もしただろう。少しでも成績が悪いとすぐ解雇される危機と背中合わせであれだけの数字を残した、立派な日本記録だと私は思う。

横浜で大活躍したロベルト・ローズが通算3929打数、打率.325で突如引退したのは2000年のオフだった。あと71 打数で4000に届くという段階での引退には驚かされたのだが、もっと驚いたのはその2年後に再来日、千葉ロッテと契約したことである。4000打数に何としても到達したいのではないか、と思ったものだ。

71打数で6安打を記録しておけば通算.3202となり、リーの.3200を上回ると誰かがアドバイスしたかもしれない。その気になればいくら2年のブランクがあっても十分可能性があると思われたが、シーズン開幕前に彼は退団した。退団の事情はよくわからないが、救われた気がしたものである。

こうした観点から選手の引き際を眺めてみると、またそこには違ったプロ野球の見方があるように思う。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。


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