私が子どものころ、つまり昭和の時代は日本シリーズの翌々日に両リーグの最優秀選手賞(MVP)と新人王の発表があり、プロ野球シーズンが完全に終わる日だった。
「これから来年の春のオープン戦まで何を楽しみに過ごせばいいのか」と野球少年としては大げさながら、呆然とさせられる日だったのを記憶している。
◆村上宗隆の2年連続トリプル・クラウンはあるか… 歴代三冠王たちから読み解く
Advertisement
■NPB AWARDSの意義と価値
最近は冠スポンサーも得て、表彰選手の発表と表彰が同時にショーアップされて行われる。今年も母国に帰省した外国人選手や海外のウィンターリーグなどに出場した選手がビデオメッセージを残し、その他の首都圏球団以外の選手も全員が東京に集まってにぎにぎしく開催された。関係者と選手の苦労については、前職・広告代理店での経験を通し敬意を表したい。
こういう試合以外の活動が選手の負担となることはよくわかる。ゴルフなどではこうしたイベントに欠席・欠場すると課せられる罰金などが報道されることもあり、選手の肩を持ちたくもなるものだが、関係者の思いもまた大切にしたい。
先日、ワールドカップ・カタール大会においてベスト8の夢破れ帰国したサッカー日本代表の吉田麻也主将も、6月ごろに日本代表の試合に観客が集まらず「みんな日本代表よりもブラジル・チームを見に来ている」とはっきり感じ、その頃から今に至るまで「メディア出演を断らないように」と各選手に伝えている。また、のみならず成田空港ではメディアに対しても「出演オファーを」と積極的に頼み込んでいた。心身ともに疲れ切った状態でよくそこまで気が回ったものだと頭が下がる。
カタールW杯日本代表(C)Getty Images
近年は、プロ野球選手もそういう思いを感じているのだろう。みんなが晴れがましい表情でNPB AWARDSのステージに立っていた。中には表彰慣れした選手もいるだろうが、初めての舞台という選手もいる。もしかしたら二度とこの舞台に立てないという選手もいるかもしれない、などいろいろなことを考えながらCS放送を見ていた。
“AWARDS”というアルファベットでの行事名表記そのものは個人的には好まないが、長年スーツ姿で球団組織を支えた人、公式記録員や審判諸氏の表彰も素敵だと思う。
■「自信をもった投票だと胸を張って言い切れるものか」
東京ヤクルト・スワローズの村上宗隆が、1977年の王貞治以来となるセ・リーグでは45年ぶりのMVP満票と報道された。こうした際、表彰選手を選んだ野球記者の方々には言いたいことがある。あらためて投票に際し「本当にその選手に1位票を投じてやましさはありませんか」と問うてみたいと毎年思う。
スポーツ各紙を飾る村上宗隆、日本人最多「56号」と「三冠王」獲得の見出し
たとえば2002年、巨人の松井秀喜は50本塁打、107打点で二冠、かつ打率でも福留孝介の.343に次ぐ.334で、あわや三冠王でセ・リーグMVPに輝いたが、ここでも他選手に1位票を投じた記者があった。2012年の阿部慎之介は打率と打点の二冠、本塁打はヤクルト・バレンティンの31本に次ぐ27本、それでも他選手に投じた記者が2人いた。1986年のパ・リーグ新人王・清原和博以外の選手に投じた記者がひとり。清原は高卒新人初年度について31本塁打、打率.304、打点78を記録。これは高卒選手の記録であり、31本塁打も1959年桑田武(大洋)とならぶ新人最多タイ記録にも関わらず…だ。今年、巨人の大勢に至っては新人記録となる37セーブを挙げた。それでも満票ではなかった。
NPBのホームページでは20年間は投票結果をさかのぼって見ることができる。こうして衆人環視の投票結果が20年は残るのに、自信をもった投票だと胸を張って言い切れるものだろうか。
2位以下のチームに突出した成績を残した選手がいる際に「優勝球団から選ぶべきだ」との意見があり票が割れるのは理解できる。2年目3年目の新人王有資格者よりもルーキーの数字が若干劣る場合「やはりルーキーから選ぶべきだ」という趣旨で数字が劣るルーキーに票が寄るのも、これも理解できる。上記の例は優勝球団で文句なく打撃二冠に輝いた打者、新人セーブ記録を挙げた投手である。なぜセリーグのMVPに45年も満票が出ないのかと不可思議に思う。
セ・パのリーグ間でもMVP選手は微妙に異なるセ・リーグは極力優勝チームから選ばれ、パ・リーグは2位以下のチームから選ばれるケースが多い。セでは73年のうち2例しかないがパでは11例もある。
もしパの記者が2018年のセMVPを投票していれば、優勝球団広島の、無冠だった丸佳浩ではなく、3位巨人で投手部門三冠王(勝利数、防御率、奪三振)菅野智之がMVPを獲得していたのではないかと思ってしまう。
MLBでは最高殊勲選手ではなく最優秀選手を選ぶのだという考えからか優勝球団からは選出されないことが多い、だが目立つのは投手が極端に少ないことである。日本では73年の歴史の中、セが23人、パでは33人が投手である。それに対して1931年からMVP選出が始まったMLBではア・リーグで12人、ナ・リーグでは11人である(日米とも大谷翔平を含む)。
これはサイ・ヤング賞の存在がそうさせるという説もあるが、特に近年のナ・リーグの「野手偏重」はファンの間でも有名。この50年間で2014年のクレイトン・カーショー(ロサンゼルス・ドジャース)ただひとりしか投手は選ばれていない。こうしたリーグ間の微妙な違いを考えるのも一興ではある…。
◆村上宗隆の2年連続トリプル・クラウンはあるか… 歴代三冠王たちから読み解く
◆ポスティング・FAの是非、大谷翔平なき日本ハムなど残された球団とファンの気持ちはいかに…
◆メッツ入り千賀滉大に“元NPB助っ人”が太鼓判「彼はえげつない」 藤浪晋太郎には3球団が興味
著者プロフィール
篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授
1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。