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【WTA】大坂なおみ、妊娠・出産から第一線復帰への道のりは… ママ・プレーヤーの体験から考える 後編

 

【WTA】大坂なおみ、妊娠・出産から第一線復帰への道のりは… ママ・プレーヤーの体験から考える 後編
大坂なおみ(C)ロイター

グランドスラム大会4勝を誇る大坂なおみが全豪オープンを控えた12日、自身のSNSで妊娠を発表した。すでに来季の同大会で復帰を宣言しているが、ママ・プレーヤーとしての復帰の道のりは、いかなるものなのか。

元プロ・テニスプレーヤーとして私自身、ひとりのママではあるが、妊娠・出産から復帰経験がある宮村美紀さんにさらに詳しく聞いた。

◆【前編】大坂なおみ、妊娠・出産から第一線復帰への道のりは… ママ・プレーヤーの体験から考える

■「一人の人間として価値を感じられて幸せ」

幼い娘さんは試合前に授乳すると、試合中には義母に抱かれてスヤスヤと眠っていたという。試合が終わると更衣室で着替えながら再度授乳し、親子の時間を味わった。もちろん、練習やトレーニングにかけられる時間は確保しづらくなる。それでも「どうすればレベルアップできるか」と動きが制限される環境下でも、常に頭では最高のパフォーマンスのために段取りを立てた。「選手として、母として、両者のスイッチを切り替える瞬間が多くなりました。双方のタイムスケジュールを考えていくうちに、ルーティーンは決まっていきます。ある意味、できることが決まってくるので迷いはなくスッキリしていたところもありました」と産後の変化を語る。

また「自分の都合である意味、過酷な環境に赤ちゃんを連れていくことへの責任と、近くで子守りやサポートをしてくれる人、活動を応援してくれる人への感謝の気持ちが選手としての強い覚悟に変わりました。自分に対して割いている時間や費用を考えると、現役でコーチを帯同させ遠征に行くとき以上にベストを尽くしたかったし、中途半端にはできない。そのなかで娘は1歳になるまでに飛行機に50回くらい乗る生活をしても、場所見知りもせず健康に過ごしてくれた。そして義母はサポートしてくれているのにも関わらず、『色んな所に旅行に行けた』と喜んでくれたことが、私を支えたと思います」。

宮村美紀さん 復帰後初の大会で優勝 写真提供:本人 

復帰後、会場で色んな人が気軽に声をかけてくれるようになったのも嬉しい変化だった。「子どもがいるだけで空気が和むんです。実際に私は産前より精神面でも余裕を感じられるようになり、自分を選手としての価値だけでなく、一人の人間としての価値を感じながら楽しめるようになった。幸せな時間だったと思います」と続けた。宮村さんは産後、先述の実業団リーグ以外に個人戦の国内大会で単複合わせて4勝を飾り、母になってもコートで輝く姿を見せた。

この先、「日本でもママ・プレイヤーが増えてほしいですか」と聞くと「今はまだ国内の環境が整うことは想像しにくいですが、稼げるレベルであればもちろん大賛成です」と答える。また「テニスは世界に出ると賞金が高いですが、費用もかかるスポーツです。サポート体制を作るためにも、ママ・プレイヤーを応援してくれる企業が増えたりすると嬉しいですね。男子選手は妊娠出産に関係なくキャリアを続行できますが、女性の場合は違います。もし、ママ・プレイヤーにとっても良い環境が整えば、より男女の格差がなくなると思います」と語ってくれた。

現在、宮村さんは3児の母となり沖縄で後進の指導に励んでいる。産前と産後のキャリアを通して、勝負の世界に対しても新たな視野が生まれたことは明白だ。ママ・プレイヤーが増えることで、会場に子どもたちが増え大会の温かみにも繫がると話し、「勝負の世界という息も詰まりそうな場所が、優しさや思いやりに溢れることで、人として生きていく上で何か大切なものを教えてくれると思います」と締めくくった。

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大坂なおみ、全米オープン初優勝時、セリーナ・ウイリアムズ(右)と (c)Getty Images

■世界では産後の環境が整備されている

これまでに多くのテニス選手が産後復帰して活躍を見せてきた。

大坂の憧れでもあるセリーナ・ウィリアムズは35歳で妊娠し、産後はグランドスラムで3度の決勝戦に立った。グランドスラムや主要な大会では託児所もあり、選手控室に子どもがいることも自然な光景になっている。また「スペシャルランキング」の存在が大坂の最大の味方になるだろう。「スペシャルランキング」とは、怪我や出産などにより長期離脱せざるを得ない選手のランキングを凍結できる措置だ。幾度も改良をされながら、現状では凍結したランキングで産後の3年間で12大会に参戦することができる。このシステムはWTAと過去の選手たちのキャリアが育ててきたものだ。これまでに多くの産後復帰選手を支えた賜物であり、また大坂が復帰を叶えれば元世界1位選手の意見が、次世代に影響を及ぼしていくことだろう。

大坂には今後も大きな期待が集まるはずだ。

しかし産後は体質も変わりやすいため、無理な復帰だけはしてほしくない。私自身も娘がお腹にいる頃は、とにかく次の検診まで無事に育ってほしいと願うばかりだった。実際に出産期を間近にすると助産師さんが「あなたの底力を出すときよ」というように、壮絶な試合とはまた違う瞬間に立ち会う。とにかく今は、お腹にいる愛の結晶との時間を楽しみ、また彼女のタイミングでコートに帰ってきてくれる日を見守りたい。

◆【前編】大坂なおみ、妊娠・出産から第一線復帰への道のりは… ママ・プレーヤーの体験から考える

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。