【Bリーグ】仙台89ERSへと完全移籍した青木保憲の決意  「崖っぷち」からの再生

 

【Bリーグ】仙台89ERSへと完全移籍した青木保憲の決意  「崖っぷち」からの再生
仙台89ERSに移籍した青木保憲 提供:仙台89ERS

Bリーグの仙台89ERSは16日、ポイントガード青木保憲との契約合意を発表した。

日本人選手がシーズン途中に完全移籍することは大変珍しい。

ここではその青木から、在籍していた広島ドラゴンフライズからの移籍に至った経緯、覚悟、新たな背番号に込めた思いなどを聞いた。

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■覚悟を決めた仙台での挑戦

今シーズン、広島で出場機会をなかなか得ることができずにいた。そんな中、ポイントガードの怪我による離脱などに苦しむ仙台の志村雄彦社長、藤田弘輝ヘッドコーチから熱心なアプローチを受けた。悩み抜いた末に、移籍を決断。「僕を必要としてくれていると強く感じた」ことに心が打たれた。

仙台合流時、チームは7連敗中。「難しさはなくやり甲斐しかない。僕自身、成長できるチーム状況だった。これまで川崎(ブレイブサンダース)と広島でプレーし、殻を破れなかった。変わらなければならない」と覚悟を決め、仙台での挑戦をスタートした。

加入後の初戦は18日に行われたホーム、ゼビオアリーナ仙台での秋田ノーザンハピネッツ戦だった。65-93と大敗したものの、試合が決定づいてからも最後までハードなディフェンスなど持ち味をアピールしていた。続く21日に行われたアウェー富山市総合体育館での富山グラウジーズ戦GAME1も、惜しくも72-73と1点差で勝利を逃した。

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移籍後に感じる仙台の課題。苦しい時間帯に、藤田ヘッドコーチの言葉や指示を待っていることが気になった。言われる前に自分たちから、こうしようと言える人材が必要だと感じている。悪い流れを断ち切るために、どうすべきなのか。そもそも顔を下げてしまう仲間に、前を向かせるためにはどんな言葉をかけるべきなのか。

青木は「川崎なら(篠山)竜青さんやニック(ファジーカス)もそういうことを言っていた。そんな選手が多ければ多いほどいい。雰囲気作りから大事にしたい」と、かつての先輩たちにヒントを得、早速取り組みたいと考えている。

■豊富な経験を還元することを期待

豊富な経験を活かしリーダーとして期待されている 提供:仙台89ERS

高校、大学は、名門・福岡大学附属大濠高等学校、筑波大学とバスケットボールの強豪校出身。プロとしては川崎ブレイブサンダース、広島でプレーをしてきた。連敗で苦しむチームでのプレーは自身のキャリアとしては初めてに近い。しかし、「勝つチームは、勝つための準備をしていた。試合の中でも出し切る強さ、一貫性があると感じてきた。仙台にはまだ足りない」と、これまでの環境と比較し感じるものがある。

藤田ヘッドコーチからは「ポジティブなエナジーを注入してほしい。リーダーシップをとってほしい」と期待されている。これまでの経験を新天地のために還元したい。

プレータイムが得られなかった時の経験、感情を「決して忘れてはいけない」と振り返る。「誰かのせい、環境のせいにしたら終わり。そうなりかけた時、周りの仲間が助けてくれた。だから踏ん張れた。若い選手が多く、試合に出られるかわからない状況の中で過ごす気持ちがとてもわかる。そういう選手たちをどう引き上げてあげられるか。経験者にしかわからないものがある。当時は苦しかったが伝えていきたい」。苦い記憶も新たな仲間に伝える必要がある。そんな責任感も生まれた。

22日に行われたGAME2で、青木は13得点5リバウンド4アシストを記録。要所要所をハードなディフェンスや得点でチームを支え勝利に貢献。チームはオーバータイムにもつれる接戦の末、81-77で見事勝利し連敗を9で止めた。ようやく掴んだ勝利。試合終了時、チームメートと抱き合って喜ぶ青木の姿がとても印象的だった。

試合後、藤田ヘッドコーチは青木のプレーについて「B1リーグで経験ある選手がコートに入ると、ディフェンスもオフェンスも落ち着く」と振り返った。今後は、同じくポイントガードの小林遥太の負担を減らしたいという。加入から短い期間の中でも、「勝つために自分のエネルギーの全てを使ってくれていることが伝わってくる。苦しい時に、仙台は静かになりがち。そんな時にヤス(青木)はハッスルプレーや声かけをしてくれる」と早速“らしさ”をチームに還元し信頼を勝ち取っている。

青木はこれまで背番号「4」を身につけていた。現在、仙台では「14」を背負う。仙台の「4」と言えば、志村社長が現役時代につけていた番号。「志村さんからは、つけていいよと言われたけれどさすがに…」と、背番号を変更することにした。青木が選んだのは、川崎から同時期に広島へ移籍し長くともにプレーしてきた辻直人の番号だった。「広島に移籍してからもバスケだけでなく、プライベートも家族ぐるみでとてもお世話になった。僕のメンターとして本当に支えてもらった」という、先輩へのリスペクトをこめた「14」。辻は驚いていたというが、青木にとっては、この番号に恥じないプレーをしなければならない。覚悟の現れなのだ。

「崖っぷち」。そう青木は自身の立ち位置のことを表現した。自らがB1でプレーすべき選手であることを証明しなければならない。そのために仙台への移籍を決断した。「最高のチャンスを得た。ただ楽しいです」、そう語る青木はとてもスッキリしていた。

新天地で背負う背番号「14」 提供:仙台89ERS

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■著者プロフィール

木村英里(きむら・えり)
●フリーアナウンサー、バスケットボール専門のWEBマガジン『balltrip MAGAZINE』副編集長

テレビ静岡・WOWOWを経てフリーアナウンサーに。現在は、ラジオDJ、司会、ナレーション、ライターとしても活動中。WOWOWアナウンサー時代、2014年には錦織圭選手全米オープン準優勝を現地から生中継。他NBA、リーガエスパニョーラ、EURO2012、全英オープンテニス、全米オープンテニスなどを担当。