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【車いすテニス】国枝慎吾現役引退、そして国民栄誉賞へ 「俺は最強だ!」伝説ができるまで… 前編

 

【車いすテニス】国枝慎吾現役引退、そして国民栄誉賞へ 「俺は最強だ!」伝説ができるまで… 前編
2022年にTTCへウィンブルドン優勝報告に訪れた国枝慎吾 提供:吉田テニス記念センター

全豪オープン車いすテニスの開催日が迫った1月22日、生きるレジェンド国枝慎吾が現役引退を発表した。これまでに車いすテニスで歴代最多となるグランドスラム50勝、パラリンピックで4度の金メダル獲得、そして昨季は念願のウィンブルドンを制し生涯ゴールデンスラムを達成。「もう十分やりきった」と世界一位の席から立ちあがり、勝負に明け暮れたコートを後にした。

◆国枝慎吾現役引退、そして国民栄誉賞へ 「俺は最強だ!」伝説ができるまで… 後編

■国枝に宿る、道を切り開く強さ

2月7日、ユニクロの柳井正会長(左)と引退記者会見に出席した国枝慎吾 撮影:SPREAD編集部

「国枝選手は本物のプロフェッショナルなので、テニスの話はあまりしないんですよ。僕のなかではメディアで見る彼と、普段見る彼のイメージに違いはほとんどありません」そう語るのは、国枝慎吾がテニスを始めた場所であり、プロ転向後も活動拠点にしてきた吉田記念テニス研修センター(TTC)の代表理事を務める吉田好彦さんだ。

「それほど普段から凄い人で細かいことを積み重ねることが出来る選手。世界一に相応しい人でした」と、これまでの軌跡を振り返った。吉田さんは国枝と年齢が近いこともあり、時折、親しみを込め彼を「慎吾」と呼ぶ。3カ国語を話せる語学力から2008年の北京パラリンピックのサポートにも関わってきた。

「慎吾の凄いところは、金メダルを取った翌朝には、もう次のことを考えていること」その取り組みを長年続けてきた国枝には、道を切り開く人の強さが宿るという。

国枝が初めての金メダルを獲得したのは2004年のアテネ大会のことだ。これまで全日本選抜マスターズなどの国内トップで、しのぎを削ってきた齋田悟司とのダブルスでの快挙だった。この凱旋帰国後、国枝は一度「テニスを辞める」とチームに告げている。それにはすべてを注いだ活動の裏側で資金面の苦悩もあったと話す。

「この頃は、長年の付き合いがある丸山コーチでさえ何も言えないくらい苦境に立たされていました。年間の活動資金が300万から400万くらい。それを次のパラまで維持するのに1000万以上がかかる。今の慎吾からは想像できませんが、彼にもそんな時代があった。それからしばらく経って、慎吾はどうしてもテニスが忘れられないと戻ってきますが、やるなら必ず4年後の北京でシングルス金メダルを獲ることと決めていました。もうここからの快進撃は凄かった」。

吉田さん(写真左から2番目)と一緒にダブルスをする国枝慎吾 提供:吉田テニス記念センター

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■メンタルトレーナーとの出会い

ちょうど、この頃に国枝は「俺は最強だ」の名セリフを生んだオーストラリア人のメンタルトレーナのアン・クインと出会う。実はこのアンを日本に初めて招待したのはTTCである。

国枝がチームを組む前となる2005年にスポーツ科学セミナーの講師として来日した。チームの一員となったアンが国枝の目標を聞き、求めたことは「世界一の思考」を作ること。国枝が毎朝「俺は最強だ」と鏡に映る自分に話すのは有名な話だが、実際にその光景を目の当たりにした吉田さんは「僕にはできないことばかりでした」と尊敬の念を込めて言う。

アンと国枝と食事に出かけた際も、急にトレーニングは始まった。「地元のレストランの中心で俺は最強だと言い切りなさい。と言うこともありました。声が小さいとやり直し。当時、アンが常に言っていたことは、世界一になる選手は世界一になる練習をすべてやりきった人しかなれません。というものだった。そして同時に世界一になって注目されるようになったら、慎吾のすべてがテレビで放送される。その時、あなたはどう見せたい? どう見られるべきですか? と大胆なことから本当に細かいところまで、すべて言語化させ普段から行動に伴わせるようにとアドバイスしていました」。

国枝慎吾、生涯ゴールデンスラム達成を祝い、記念撮影 提供:吉田テニス記念センター

かくして、その取り組みは3カ月後に世界10位だったランキングをトップへと押し上げる。「数秒のためらいも勝負に必要ない」とアンのセッションは、試合のポイント間の20秒からエンドチェンジの90秒まで「何をする必要があるか」と行動を録画し確認していくトレーニングを続けた。

「慎吾の凄いところは、すべて100%で取り組めることです。エンドチェンジの練習も本気で入り込める。そしてアンの提案をすべてやったうえで、ストレートに自分に合うもの合わないものを絞り出していく。どんどん自分からアンの新しい引き出しを開いていくんですよ。これぞ本当のコーチングだと思いました。互いにレベルを引き上げる関係です。慎吾にはそのコミュニケーション能力の高さが光っている」。

◆国枝慎吾現役引退、そして国民栄誉賞へ 「俺は最強だ!」伝説ができるまで… 後編

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。