【WBC】辞退選手の断罪はいかがなものか W杯、五輪、国際大会の意義と価値について考える

 

【WBC】辞退選手の断罪はいかがなものか W杯、五輪、国際大会の意義と価値について考える
2大会連続でWBC制覇を成し遂げた侍ジャパン(C)Getty Images

バレーボールは私たちの年代では忘れられない人気競技で、男女ともオリンピックで金メダルを獲った実績がある。ドイツのミュンヘンのような時差がある国での大会でも衛星中継放送を深夜まで見入ったものである。しかし、その頃すでに始まっていたバレーボールの日本リーグの優勝チームはどこかを覚えている方は同じ年代でも、よほどのバレーボール通でないとむずかしいと思われる。

選手や競技関係者にとっての非日常であるオリンピックや世界選手権・ワールドカップ(冬の競技は毎週のようにワールドカップがあるので、この名称では一括りにできないが)と、日常である国内リーグ戦は、選手にとってもファンにとっても同じ価値として語るのは難しい。

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■国際大会がレギュラーシーズンに与える影響

数年に一度、ひと月前後行われる大会と、毎日あるいは毎週行われる国内リーグを同じ集中力で戦えというのは、無理な注文だ。

合宿の間から大きな国際大会として大いに盛り上がり、本番になったらどうなることかとワクワクする一方で、国内リーグ、プロ野球で言えばペナントレースも選手は気になってしまう。

中日ドラゴンズで活躍した井端弘和は2013年のワールド・ベースボール・クラシックWBC)東京ラウンド台湾戦で劇的な同点打を放つなど大活躍した。しかし、後に某番組で、専属トレーナーがWBC直後の井端の体をマッサージしながら「井端さん、これ、例年の9月の体調ですよ」と心配していたのを思い出す。

井端弘和 (c)Getty Images

つまり、代表の選手たちは、フル出場すれば疲れ切った体で、出場機会のない選手は実戦を経験できないままレギュラーシーズンの開幕を迎え、日常に戻る。

バレーボールやサッカーの日本リーグ時代のように、ファンの関心もWBCが終わると引いていくのではないかと私は危惧している。

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ラグビーのリーグワンで観客数がかんばしくない点について、「二度のワールドカップで盛り上がったチャンスを掴みそこねている」とちまたで囁かれるが、それは仕方ない。Jリーグ関係者も異口同音に「ワールドカップの盛り上がりを冷まさないように」という言葉を発し続け開幕を迎えたが、特に代表で活躍した選手がいないチームではあの熱をそれに近い形で維持できるものかどうか、大変興味深いところである。

 ラグビー日本代表 (c)Getty Images

特に今年はラグビーのワールドカップ・イヤーで、日本代表のラグビー選手が「4年間、ワールドカップのことだけ考えてきた」と発言するのを聞かされると、リーグワンでの成績は二の次だと言っているようなものだ。

■変わりゆくWBCの真価

野球に関して、以前も触れたように辞退者は出る。「アメリカが今回こそ本気になった」とファンに思わせた最大の「初参加選手」はロサンゼルス・ドジャーズのサイ・ヤング賞投手クレイトン・カーショーだったが、保険がかけられないと認定され不参加という結論になった。

W杯を制したアルゼンチンのメッシ(C)ロイター

こういう一連の動きを受け、メディアやファンの間でFIFAワールドカップと比較する意見をまた目にするようになった。ネットニュースでも「野球がサッカーW杯のようになれない残念な事情」とか「WBCは決してW杯になれないとLA紙が断罪」などと見出しが躍っている。日本シリーズやワールドシリーズで見た勝者の歓喜、敗者のリーグ優勝が吹っ飛ぶような沈痛な落胆を何十年も観察してきた私は、選手が辞退して自球団を優先してもちっとも残念とは思っていないし、なぜ「断罪」などと言われなければならぬのかと思う。

だから野球はマイナースポーツだ、などという意見を聞くと、やはり黙っていられない。

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野球が人気の上位に位置する国の数は片手で足りるか足りないかという程度で、サッカーは世界中で人気であるのはよくわかっている。私は、球界で名を残した人たちがほかの国に野球のおもしろさを伝えるのに尽力した例をいくつか知っているが、野球の人気が急上昇したという話を聞いたことがない。シドニーやアテネの五輪で野球競技に使われたスタジアムが残されていないと知り、そうした国へ普及は難しいと思っている。

MLBがなんとか他国にも普及させたいと、本来FIFAに相当する国際競技団体が担当するべき仕事を請け負っているのは、NBAやNHL、PGAツアーなどアメリカに本部があるプロスポーツ団体との競争意識からだと思われるが、それはそれで立派なことである。

MLBが主催者である以上、MLBにダメージのない範囲で最善の努力をするのは当然で、現状それ以上の時期や場所やシステムを構築するのは難しい。

FIFAがワールドカップの価値を最上位で維持するためにオリンピックには23歳以下しか出場させないのと同様、関東の大学駅伝の選手が全日本選手権よりも箱根駅伝を重視するのも同じだと思う。

事実上4、5カ国対抗戦のようになっている野球では、本大会に出場するのも大変というようなサッカーW杯のように世界を巻き込む大会にはなっていかない。

ただし、代表選手も世代交代し大会の価値も変わってきた。

「日の丸をつけて戦うことの尊さ」みたいなものを自他に言い聞かせて、ペナントレースの数字がその年は落ちても、やむなしみたいなムードはあるが、小さいころにWBC第1回、第2回の優勝を見て感動して、ぜひあの中で戦いたい、という選手も増えてきた。

今後は徐々に辞退者も減り、WBCの優勝こそ何事にも代えがたいという時代が来るのかもしれない。

それでも私は、ドジャースの監督を長年務めたトミー・ラソーダの「野球をやっていてもっとも嬉しいことはワールドシリーズで勝つことで、二番目はワールドシリーズで敗退することだ」という言葉が好きである。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。