ニューマシン「SF23」とカーボンニュートラルタイヤという、2つの新デバイスを使った最初の本戦が昨日の開幕戦だった。
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■野尻智紀が三連覇に向け好スタート
しかしその時点では、これが理由で躍進したチームも、逆に劣勢になったチームもなく、昨年の王者であるチーム無限が引き続き強さを見せ、スーパーフォーミュラ・ルーキーのリアム・ローソンが優勝で野尻智紀が2位のワンツーフィニッシュ。
続く今日の第2戦ではライバルたちも昨日得たデータを分析し改善を図ってくるため、勢力図にも変化が起きるのではと思っていたが、予選はやはり野尻智紀が圧倒的な速さを見せ連続ポール。ローソンも4位と健闘した。さらに宮田莉朋(トムス)が2位、大湯都史樹(TGMグランプリ)が3位に入り、チーム無限の2人だけではなくグリッド2列目までの4人が全く同じ顔ぶれとなった。勢力図はまったく変わっていなかった。
決勝も上位の面々は、開幕戦と似たような流れだった。
大湯がスタート後に1コーナーから果敢な攻めを見せトップに浮上するも、ピットインで後退。ここで野尻はトップに復帰し、後は盤石なレースでポール・トゥ・ウィンを決めた。大湯はその後、ペースを落としどんどん後退。2戦連続フロントロースタートの宮田も同じく、序盤からレースペースが悪く優勝争いからは脱落した。2連続ポールと2位、優勝で大量ポイントを稼いだ野尻は早くもランキングで2位に大差をつけトップに。昨年、どのサーキットでも安定して速かったことを思うと、ドライバーズタイトル3連覇は濃厚かと感じたファンも多かったことだろう。
ニューパッケージになり12チーム、22人のスタートラインは同じなはず。序盤戦は少なくとも混戦になっても良さそうだが何が違うのか――2日間の戦いを見て選手たちの多くのコメントを聞いてきた私にはひとつ、思い当たる節がある。
今季のスーパーフォーミュラは全戦で「アウト・オブ・キッザニア」という、子どもたちが現場に行って職業体験をするイベントが実施されており、記者会見の場にも「レースジャーナリスト」の仕事を体験しにきた子どもたちの姿があった。この日の予選後の記者会見で、ひとりの子どもが「SF23はどんな印象ですか」と質問した。これは本職の記者たちも、前日の開幕戦から度々ドライバーたちに聞いてきたことだ。その結果、空力デバイスが大きく変わったことでストレートが速くなったというのが唯一のはっきりとした答えで、その他は「何がどう違うのか掴み切れていない」と多くが答えた。
ここでも3人にうちの2人は昨年までの「SF19」との違いについて質問されているのだと捉え、同じように悩んでいるようなニュアンスの回答をした。そんな中、野尻の答えは少し違っていた。
「クラス替えなどで周りが新しい友達たちばかりになって、最初の頃は緊張したという経験が君たちにもある思う。SF23はそれと同じ。どう接したらどう反応してくれるのか分からないから、まだ緊張している」。子どもに分かりやすいよう機転をきかせ言葉を選んだことに、まずは感心した。そしてその言葉の裏に、新たなスタートに対するワクワク感が垣間見えたような気がした。開幕2戦の強さはもしかすると、新しいことに対する向き合い方のそんな、微妙な違いが要因なのかも知れない。
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著者プロフィール
前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。