FIBAアジアカップを控える日本女子バスケットボール代表(世界9位)が16日から3日間、デンマーク代表(同52位)と強化試合を行い、3連勝を収めた。
◆【前編】女子日本代表が”新スタイル”でパリオリンピック切符獲得を狙う
■徹底的なしつこいディフェンス
日本が誇るベテランセンター、髙田真希が言う。
「どうしてもセンターが前にいると、落ちたときもそうですし、入って後ろ(自軍のコート)にすぐ戻らなきゃいけない。そういった時に(相手の)誰か1人にゴール下とかに走られてしまうと(日本の)センターが後ろに戻る間に(ロングパスを)投げられてシュートというようなことは、練習試合とかでやられてしまっていたので、もう最初から後ろにいようという感じですね」。
世界の強豪と比べて身長面と体格面で不利な日本としては相手が嫌がるほどのしつこいディフェンスをするということは以前から徹底してきたことではあるが、より素早いPG型の選手が常時複数名コートにいることで、俊敏性を生かしながら相手を嫌がらせ、体力を削るという効果がより期待できる。デンマークとの3試合では、相手から計60ものターンオーバーを誘発、セカンドチャンスによる得点も計23点に抑えたことなどが「効能」の一端を示している。
選手間、またコーチ陣とのコミュニケーションも改善が見られた。選手たちはコート上でより頻繁にハドルを組み、課題などの共有を図った。カナダ遠征ではチームの空気が暗くなってしまった時には林を含めた年長者が声をかけて若手を引っ張る形だったというが、デンマークとのシリーズでは山本麻衣やステファニー馬瓜(ともにトヨタ自動車)といった若い選手たちも積極的に仲間に声をかける場面が目立った。
最年長の高田の口ぶりからは、そういった面においても若手の成長と頼もしさを感じている様子だ。
■恩塚亨HCのアプローチにも変化
「いろんな選手が出るので、そういった意味では自覚を持ちながら課題をシェアしてほしいですし、上の選手、ベテラン選手だけじゃなくて、中堅選手はもちろん、若い選手からも言葉として出ているので、すごくいいコミュニケーションが取れているかなと思います。うまくいっている時もいっていないときも『もうちょっとこうしよう、ああしよう』というのは増えてきているかなと思います」(高田)
恩塚亨ヘッドコーチの選手たちへのアプローチの仕方にも変化が見られる。同HCは東京医療保健大学の女子バスケットボール部を全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)連覇に導くなどの実績を持つが、プロレベルで戦う「大人」の代表選手たちには事細かく指示をしていなかったという。換言すれば「遠慮」があった。
怒鳴ったりする「鬼軍曹」タイプとは対局の指導法を用いる恩塚HCはしかし、ワールドカップでの結果を受け、選手たちへの声のかけ方についてもより明確な指示を与えるという「修正」を加えている。
指揮官のコミュニケーションの取り方について問うと、宮崎は笑顔でこう話した。
「(変化は)すごく感じます。細かいところまですごく言ってくれますし、試合で呼ばれて『こうしよう、ああしよう』と伝えてくれます。試合中に停滞してしまった時も、タイムアウトを取って『しっかりやろうよ』というのを言ってくれていますし、ピリっとさせてくれるので選手たちを『やるぞ』という気持ちにさせてくれています」。
■アジアカップは26日から
アジアカップは26日からオーストラリアのシドニーで開催される。ここで出場8チームの中で上位4位以内に入ると、来年2月に16チームで行われるオリンピック世界最終予選(OQT)へ進むこととなり、この大会の4つのグループで上位3位以内に入るとパリ大会の出場権を得る(ただし2022年ワールドカップ優勝国のアメリカはすでに同オリンピックへ出場が決まっており、さらにフランスも開催国枠が与えられる可能性があり、グループによっては上位2位以内が出場条件となる場合がある)。
デンマークとの3試合すべてでいずれも解消したことは好材料だが、いかんせんデンマークとはあまりに実力差がありすぎた(デンマークの25歳のHC、アルバ・スタルク氏がチームの指揮を執ったのは今回が初で、事前の練習は4回しかできなかったという。日本への到着も初戦の前日で体調面でも万全ではなかった)。アジアカップ出場の中国やオーストラリア、そしてその他の世界の強豪と対戦する時、今回のように事がうまく進むはずはない。選手たちそこは承知の上で、山本などは「アジアカップではそんな簡単にボールは持てない」と気を引き締める。
肝要なのは、自分たちのやりたいようにさせてもらえなくても強い気持ちで我慢をし、次の手を打ち続けることだ。
山本が言う。
「自分たちのやりたいことをやらせないようにされても、その次のオプションを合宿で練習してきています。ワールドカップではどちらかというと1番(PG)がボールを絶対もらうみたいなバスケット、起点が1つしかなかったんですけど、その起点を分散させていろんなところからペイントアタックやシュートが打てる動きも練習してきているので、こんなにうまくいくことはないんですけど、タイミングやスクリーンのかけ方などをしっかりやっていけば通用するんじゃないかと思っています」。
フィジカルにプレーしてくる相手に対してどう戦うかが課題の日本にとって、アジアカップでは苦しい時間帯においても選手たちが相手の当たりの強さを嫌がらずに足を動かし続ける精神面も重要だと林は強調する。
「(アジアカップの)予選はまず3連戦があるんですけど、みんなで気持ちを高めながらやっていけば、足を止めずにできると思いますし、恩塚さんが選手(の疲労度など)を見ながらやってくれるでしょうし、コートに出る1人、1人がしっかり意識してやっていけば、勝ちにつながっていくんじゃないかと思います」。
ワールドカップで絶望と屈辱を味わった日本代表だが、敗戦の経験を糧に、新たなスタイルで再び世界の頂点を目指す旅路を始める。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター
元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。