モンスター、井上尚弥のスーパーバンタム級への挑戦がついに始まる。
WBC、WBO世界スーパーバンタム級王者、スティーブン・フルトン(アメリカ)に挑むタイトルマッチが25日(有明アリーナ)に迫った。フルトンは井上にとって最大の難敵といわれるが、圧倒的なKO劇を目撃してきた日本のファンにとって、モンスターが負けるシーンはイメージしづらい。果たして、モンスターは本当に苦戦するのか…。待ちに待った一戦の試合展開を占う。
◆【随時更新中】「井上尚弥 vs. スティーブン・フルトン」両者の戦績、試合結果、中継情報一覧
■両者の「距離」が試合の勝敗を分ける
現在の井上の戦績は24戦全勝21KO。直近13試合に限れば12KOで、倒せなかったのはノニト・ドネア(フィリピン)との第1戦だけ。特にバンタム級に上げてからの強さは際立っていた。
この戦績が示すように、井上の最大の武器はパンチの切れと強さ。急所にしっかりとナックルを突き刺す破壊力は、全階級を通じてもトップといっていい。フルトン戦のポイントも、井上がこのモンスター・パンチを打てるかどうかにかかっている。
一方、フルトンは長いジャブを中心とするアウトボクシングで対抗する。フルトンがジャブを伸ばす姿を真横から見ると、あまりに遠くて、とても相手が反撃できる距離ではない。実際、179センチのリーチは、井上を8センチも上回る。
それに加え、脚が長い体型を生かし、ボディワーク、サイドステップ、バックステップ、クリンチと、あらゆるディフェンス技術を駆使する。過去の21試合(全勝8KO)を見ても、ダメージが残るクリーンヒットは一発も受けていない。まさにディフェンス・マスターと呼ぶに相応しいテクニシャンなのだ。
井上のKOパンチは、右ストレート、左フック、左ボディと、いずれもショートパンチ。強烈なパンチを打ち込める距離に入れないと、空転する可能性もある。
■モンスターが倒してきた相手は弱すぎたのか
もうひとつ、チャレンジャーの不安点を挙げるとすれば、対戦相手の質。特にバンタム級で井上が戦ってきた相手は、ドネアを除けば格下ばかりだった。戦前の予想も圧倒的に優位な状況でリングに上がった。ようするに、KOできて当然という雰囲気だった。
その点、フルトンが下してきた相手はアンジェロ・レオ、ブランドン・フィゲロア、ダニエル・ローマン(いずれもアメリカ)と、いずれも一流のチャンピオン経験者ばかり。全21戦のうち10試合は全勝の相手だった。居並ぶ強敵を完封してきた実力は、評価されて然るべきだ。
さらにスーパーバンタム級での初戦。階級の壁もポイントといわれる。ライトフライ級(48.97キロ)でデビューした井上に対してフルトンはすべての試合をスーパーバンタムで戦い、フェザー級(57.15キロ)への転級も予定されている。もちろん、前日の計量では同じ体重だが、リングに上がるときの体格はひと回り違うだろう。公開練習を見た真吾トレーナーも「思ったより大きい」と警戒感を表した。
しかし、個人的にはこの点はあまり重視していない。なぜなら井上は19歳でプロデビューし、25歳から約5年間、バンタム級にとどまった。この間に体は成長し、肉体改造によって筋肉を蓄えた。体重が増えて当然だ。現在はスーパーバンタム級が適正といっていいだろう。仮に多少のサイズの違いがあったとしても、勝負を左右するほどではないとみる。
■オッズは3-1で井上有利、中盤以降に試合は動く
さて、試合展開。フルトンはジャブを伸ばし距離を取ろうとするはずだ。井上は鋭いステップインでクリーンヒットを狙う。フルトンはバックステップをしながら右ストレートを合わせる。さらに距離を詰める井上にフルトンはクリンチワークで追撃を封じる。……序盤はこうした一進一退の技術戦が予想される。
試合が動くのは中盤以降だ。井上が強打でプレッシャーをかけることができれば、フルトンはロープ際でブロックを固める体勢を余儀なくされる。そうなれば、ショートレンジからの強打が炸裂する。仮にクリーンヒットしなくてもチャンピオンは消耗するはずだ。
逆にフルトンが試合を支配すれば、際どいポイントを拾い集め、焦った井上のミスパンチを誘うことになる。こうなると一発逆転は難しくなる。
どちらが勝つにしても勝負は判定とみる。中盤から圧力を増すモンスターか、テクニックでリングジェネラルシップを取り続けるフルトンか。ここでの予想は、僅差で井上のタイトル奪取とする。なお、現地のオッズは3-1で井上有利と出ている。技術とパワーが激しく交差する見応えのある試合を期待したい。
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。