オリックス・バファローズの中嶋聡監督が4日で2試合というオールスター戦の日程はどう考えてもきつすぎると記者団に語った。
◆ヤクルト石川雅規救援登板の謎 先発投手「通算200勝達成プロジェクト」のひと幕か…
■監督会議でも発言
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)も含めシーズン前半で活躍した選手が選ばれるのだが、そういう選手ほど疲労する。休ませたいのはよくわかる。特にバファローズはWBCでも何人もの投手が選ばれ、ただでさえ例年と違う早めの調整を強いられ、大会でもシーズンでも立派な投球を続けてきたが、自軍の投手だけをかわいがっての発言ではないように思われる。
ベテラン選手にとっては飽きてしまって疲れるだけの試合かもしれないのは理解できる。しかし、ファンにとってはもちろん、何年もかかって初出場を果たした選手にとっては夢の舞台である。優勝は選手ひとりの力では勝ち取れないけれどもオールスター出場は個人のパフォーマンスでなんとかなるものであり、歌手でいえば紅白歌合戦に初出場するようなものである。選手の親から見ればどれだけ喜ばしいことだろう。
アメリカのメジャーリーグで1933年に始まったオールスター戦のきっかけになったのは、野球ファンの少年の「ベーブ・ルース(アメリカン・リーグの強打者)とカール・ハッベル(ナショナル・リーグのエースピッチャー)との対決を見てみたい」という投書が新聞に載ったことだと言われている。今の日本なら「佐々木朗希と村上宗隆の対決を見たい」と望むようなものだろうが、ファンにとっても夢を見させてくれる舞台だったはずだ。
その試合に少しでも後ろ向きな気分にさせるような発言は、本来は外部の人間がいないところで日本野球機構(NPB)に対してぶつけるべきものであり、メディアすなわちファンに対してはしてほしくないものだ。
ただし、シーズン前の監督会議でも発言したということだから、そのときの発言に対してNPBからの対応に納得がいかないことがあってあのような発言に打って出たのだろうと私は察している。
しかも、交流戦が始まり、夢の対決は毎年のように見られるようになってしまった。オールスター戦のテレビ視聴率は落ちる一方。ピーク時には30%を超えて、日本シリーズを凌駕する年もあったが、今年は2試合とも10%を下回った(関東地区の番組平均視聴率)。これでは通常の番組を編成したほうがよい、放送権料を払ってまで編成することのないコンテンツだとテレビ局は判断しているはずである。
■日本球界特有のビジネス
ビジネスの観点からの考察も必要だ。
プロ野球はリーグ創設以来、レギュラーシーズンはホームチームが主催球団であり、試合に関してはすべての運営責任を持つ代わりに権利も保有する。つまり収支のすべて責任を負う。当たり前のように聞こえるかもしれないが、JリーグとBリーグとラグビーリーグワンでは、「主催者」はチームではなくリーグであり、ホームチームは「主管クラブ」という表記をしている。入場料は主管クラブが受領し、運営費も主管クラブが負担するが、リーグスポンサーや放映権はリーグが留保し、分配金がリーグからクラブにまわる。
私は「NPB方式が悪くJリーグ方式がよい」とは単純には思っていないのだが、男子バスケットボールもラグビーも(おそらくVリーグも)Jリーグの形式に倣っている。そして女子プロゴルフ協会もこの方式を取り入れようとして現行主催者の反発を招いている。
これ以上の分析や詳述は控えるが、この結果、NPBの主催試合はオールスター戦と日本シリーズということになるので、簡単にNPBの収入源を減らすわけにはいかないことは多くのファンも理解できると思う。そしてクライマックスシリーズがあり、年によってはWBCがあり、レギュラーシーズンの数は減らせないとなると、日程もなかなか変えにくくなる。それも理解できる。
関係者には、野球ファンの思いを損なうこともなく、選手の故障も避けながら、リーグも発展していくような解決策を見出すために話し合ってほしいと思う。
日本シリーズやオールスター戦の価値を回復するためにはセ・パ交流戦はやめてはどうかと思うけれども、ビジネスの観点からはそれも難しいと思われる。であれば、WBC開催年は1試合減らすとか休養日をふやすとか、オールスター辞退者に課せられる出場停止期間を短縮するとか、道はあるように思われる。
◆トレバー・バウアーの絶叫に見る、投手が一球一球に込める勝利への熱い思い
◆個人通算記録達成の陰で起こり得る不都合な真実 石川雅規は200勝達成なるのか
◆ニューヨーク・メッツが山本由伸の獲得に名乗り、FA大谷翔平と“両獲り”の可能性で千賀滉大と日本投手三本柱結成か
著者プロフィール
篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授
1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。