「4番打者」とは、チームで最も優れた選手が務めるポジション。
野球をあまり知らないひとにすら、「中心的存在」の比喩で通じるほどの”常識”だ。ところが、近年データ分析が進み、その価値観は大きく揺らいでいる。初回に必ず打席がまわる、出塁率が高い1番打者の後ろ「2番打者」に最高の選手を据えるスタイルが、メジャーリーグで実践されるようになって久しい。
最近では、大谷翔平やアーロン・ジャッジ、コーリー・シーガーなどスラッガーたちの”指定席”にもなりつつある。かつて、小技を駆使する地味な役回りだった「2番打者」が、チームの顔と呼ばれる時代が訪れたのだろうか。
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■OPSが3番打者へ肉薄
データ分析サイト「Baseball Reference」で今季の打順別成績を見ると、現代のメジャーリーグで求められる打者像が浮き彫りになる。1番打者は何よりも出塁が重要、盗塁ができる足の速さも不可欠。野球ファンが描く、理想のリードオフ像と大きくかけ離れてはいない。
近年「最強説」が謳われる2番打者は、いずれの部門でも上位にランクイン。本塁打や打点では3番・4番打者には及ばずも、OPS(出塁率+長打率)がトップに届こうとしており、日によってはその地位を奪うこともある。走力も備えた、総合力が高い”万能選手”に相応しいポジションと言えるだろう。
意外にも、4番打者のイメージはあまり変化していない。打点は全打順の中でも群を抜いており、今も昔も重要な存在だ。一方で、死球数や敬遠数は、2番・3番打者よりも少なくなり、最も警戒されているとは言い難い。確実性よりも、一振りで試合を変えられる「長打力」が重宝される。
中軸以降は、打順に合わせて各成績が落ちていくが、唯一の例外は「盗塁数」。2022年にナ・リーグでもDH制度が導入され、一部の例外を除き、投手が打席に入るケースはなくなった。上位打線の進塁を阻害しないためにも、走力に長けた選手を「9番打者」に起用するのが定石となっている。
メジャーリーグにおける「2番打者」は、“いぶし銀”の選手が任される存在ではなくなった。しかし、体格差で劣るプロ野球では強打者を起用するハードルが高く、日本球界全体に波及する流れはまだ見られない。
“スター”を意味する常套句としては、「4番打者」に取って代わるまで時間がかかりそうだが、「最強」の地位は手が届くところまで迫っている。
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文●有賀博之(SPREAD編集部)