第2戦以外はすべて、雨がからんだ波乱の展開となったスーパーGT2023年前半戦。鈴鹿サーキットで行われた第5戦も猛暑、450キロのレース距離、ピットイン2回と波乱の要素は多く、すんなりとは終わらない気がしていた。
ところがGT500クラスの結果は、16号車ARTA(福住仁嶺/大津弘樹)のポール・トゥ・ウィン。3度のFCYがあったもののいずれも2周以内に解除となり、そこでGT500クラスに関しては大きなイレギュラーは発生せず、力と力との勝負となった。正直なところ“意外”ではあったが、前戦まで2戦連続で極端な波乱のレースだったゆえ実はこんな展開を望んでいた。その中で16号車が優勝したのも、ちょっとしたドラマだった。
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■NSX、今シーズンを有終の美で飾るか
来シーズンよりホンダのGT500クラス車両が「シビック・タイプR」に代わることが先日発表され、ホンダのホームコースである鈴鹿では今回がNSXのラストランだった。そんな舞台でホンダが今季初勝利を飾ったことが、まずは感慨深かった。ホンダのホームコースとはいえ鈴鹿は最近ニッサン勢が強く、今季不調のホンダ勢にハンデが軽いマシンが多いといっても、ディフェンディングチャンピオンの1号車インパル(平峰一貴/ベルトラン・バゲット)がまだ勝っていないこともあり、ニッサンの方が有力なのではと思っていたからだ。
さらに優勝したのが、今シーズン初登場の“黒いARTA”だったことも興味深い点。3メーカーの今季参戦体制はほぼ、昨シーズンと変わっていない。そんな中で唯一“改革”といえることを行ったのが、3年間タイトルから遠ざかっているホンダ。昨年まで8号車はARTA、16号車はMUGENという別々のチームだった。それが今シーズンは、同じARTAでの2台体制となった。トヨタにはトムス、ニッサンにはニスモと、いずれも2台体制のエースチームが存在する。だがホンダにはなかった。2台体制であればデータ量も倍になる。このメリットはトップカテゴリーでは殊更大きい。トムス、ニスモの安定した強さがそれを証明している。
ARTAといえば、オレンジのマシンカラーがファンに定着している。新たに“黒いARTA”が加わったのはホンダの改革の証。それがホンダの今季初優勝を果たしたというのが、ドラマであると言った所以だ。第5戦となるとハンデ差は大きく、優勝候補は15チーム中半分くらいに絞られる。その中で16号車が一番有利だったわけではなく、ホンダ勢でいえば8号車ARTA(野尻智紀/大湯都史樹)も速かった。だが予選Q2でアタックした大湯がデグナーでミスをしたため16号車がポールを獲得。決勝では幸運にもフルコースイエローが出る直前に1回目のピットに入り30秒程アドバンテージを得られたことで、その後給油ミスにより燃料が2周分足りなくなり燃費走行を強いられながらもトップを譲ることなくチェカ―を受けた。
だが本当の改革の成果とはやはり、NSXラストイヤーシーズンそのものを有終の美で飾れるかどうか。つまりタイトルを獲れるかどうかだろう。そのために越えなければならないのは、3号車ニスモZ(千代勝正/高星明誠)と36号車トムス(坪井翔/宮田莉朋)。いずれも2チーム体制で戦う各メーカーのエースチームだ。
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著者プロフィール
前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。