GT500、GT300、両クラスに現れた“SUGOの魔物”
SUGOには魔物が住む――スーパーGTでは昔から、そう言われていた。今シーズン第6戦の舞台となるスポーツランドSUGOは1周の距離が3.586kmと短く、コース幅もエスケープゾーンも他の開催サーキットと比べるとかなり狭い。その中でスピードの異なるGT500クラスとGT300クラス、計40台のマシンが常に交錯する。
つまり、アクシデント率が高いのだ。延いてはセーフティカー導入のケースも多く、タイミングによって順位が大きく変動することはしばしば。さらに第6戦はサクセスウェイト差が最も大きな1戦につき同じクラスでもスピード差が出やすく、オーバーテイクが難しいコースながら軽いクルマは重いクルマを躊躇なく抜きにかかるため、さらにその可能性は高くなる。
Advertisement
◆第5戦 NSXの鈴鹿ラストランを優勝で飾った“黒のARTA”
■“神業”のようなピットストップ
ドライバーたちも冗談ではなくインタビューに答える際、この言葉をよく使う。
そして、今年も魔物が姿を現した。それは、これまでとは違った種類の魔物だった。
GT500クラスは、8号車ARTA NSX(野尻智紀/大湯都史樹)、23号車ニスモZ(松田次生/ロニー・クインタレッリ)、17号車レアルNSX(塚越広大/松下信治)、の予選トップ3が、レースでも優勝を争うことになった。その中でトップチェッカーを受けたのは17号車。決め手は前半トップを走っていた8号車よりも7秒も速い“神業”のようなピットストップ。ここで一気にトップに浮上すると、一旦は8号車に抜き返されたものの、残り7周で刺し返した。
これで17号車は、ランキングもトップの3号車Z(千代勝正/高星明誠)に1ポイント差まで急接近。3位にはさらに1ポイント差で36号車トムススープラ(坪井翔/宮田莉朋)が続くことになり、タイトルを賭けニッサン、ホンダ、トヨタの3台が僅差で残り2戦を争うという、非常にスリリングな展開となったかに思えた。ところがレース後、車検でスキッドブロック違反が見つかり、17号車は失格となった。
奇しくも魔物はGT300クラスの方にも姿を現した。6番手からスタートしたランキングトップの18号車アップガレージNSX(小林崇志/小出峻)は、35周目のセーフティカーが出る直前にピットインした幸運によりに3位に浮上し、56号車コンドーGT-R(J.P.デ・オリベイラ/名取鉄平)のペナルティ後退により2位とすると、最後はトップを走っていた52号車グリーンブレーブスープラ(吉田広樹/川合孝汰)がチェッカー寸前でガス欠スローダウンしたことにより奇跡の大逆転優勝。
スーパーGTでは滅多にないシーズン3勝目を挙げ、10ポイント差内に5台がひしめいていた混戦のランキング争いの中から一歩抜け出すことに成功した。ところが18号車もレース後、車検で失格となった。理由は同じく、最低地上高の違反だった。
17号車、18号車ともに20ポイントを得たはずが、最終的にノーポイント。そして、17号車は1ポイント差ランキング2位に浮上したはずが10位。18号車は2位に10ポイント差の大量リードを築いたはずが、逆に52号車に15ポイントのビハインド。まさに天から地へ。決してアクシデントではなく定められていたルールに則ったものではあるが、こんな偶然って……。やはりこれも、魔物の所業だと思わざるを得ない。
◆第5戦 NSXの鈴鹿ラストランを優勝で飾った“黒のARTA”
◆第4戦 これが見納めか、ミシュランタイヤの圧巻パフォーマンスショー
◆第3戦 大クラッシュ赤旗終了も不可解な裁定 ファンのためにモータースポーツがスポーツであると忘れるな
著者プロフィール
前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。