■郊外から都市中心部へ、海外トレンドでもある“新たな価値創造”
今季、8年目のBリーグの成長によって全国各地に新アリーナが建設、あるいは今後、建設予定となってはいるものの、JR川崎駅から徒歩で数分、京急川崎駅からは直結した立地となるこのアリーナシティのアクセスの良さは他を圧倒するものになると言えるだろう。
欧米のプロリーグでは近年、従前は郊外にあったスポーツスタジアムやアリーナを都市中心部に作る流れができている。しかも、ただスタジアムやアリーナを建設するだけでなく、ディベロッパーと協業しながらマンションやホテル、商業施設などを一緒に建てることで、周辺一帯にスポーツファン以外の人々も呼ぶことのできる、新たな価値を創造している(都市によっては治安改善の効果もある)。
2016年に開業したNBAサクラメント・キングスの本拠「ゴールデン1センター」などは好例で、アメリカ最大の州、カリフォルニアの州都ながら過疎化が止まらなかったこの街のダウンタウンに同アリーナを建設したことで、一帯にはホテルや商業施設が増え、人の流れと活気が戻ったというのだ。
スポーツが盛んなアメリカでは新スタジアムやアリーナの建設は頻繁に起きているが、その多くが郊外から都市中心部へ場所を換え、かつホテルや商業施設等、周辺一帯の開発をトータルで考えながら事業を進める形となっている。
「個人的な希望」と前置きしながら元沢氏は、川崎駅東口方面には「公園だったり広場的な街の人達の憩いの場が足りないなと思っている」とし、同アリーナシティ・プロジェクトには商業的な側面だけでなく、街のモニュメンタルな意味での施設の建設を目指している旨を口にしている。
■「ナンバーワンのエンターテイメントシティに街を昇華」
Bリーグ・長崎ヴェルカのアリーナやJリーグ・Vファーレン長崎のスタジアムが含まれる「スタジアムシティプロジェクト」(2024年開業予定)等も同様のコンセプトだが、JR、京急を合わせて1日の平均乗降客数が60万人以上と国内屈指のターミナル駅に隣接する形となる川崎のプロジェクトは日本では前例のないものと言えるだろう。
川崎のアリーナシティ・プロジェクトでは、施設を利用する人たちのUXも重視していく。UXとは「ユーザーエクスペリエンス」のことで、来場者、観戦者に新たな感動や価値観を創出することを指す。元沢氏を始めプロジェクトのメンバーはアメリカ等の先進事例の視察に何度も訪れてきたとのことだ。その中で同氏は、それぞれNBAボストン・セルティックスとNFLアトランタ・ファルコンズの本拠であるTDガーデンとメルセデスベンツ・スタジアムスタジアムが、UXの視点からも印象に残ったと話した。
「商業施設、ホテルなども含めた一体型で、われわれが求めるものに近い形で、中に入ってからお客さんが楽しめるいろんなポイントが散りばめられた素晴らしいスタジアムだなという点で、個人的には参考にさせてもらっています」(元沢氏)
京急川崎駅の1日の平均乗降者数は昨年度で約11万3000人だったとのことだが、会見に出席した同社生活事業創造本部まちづくり推進部の小松麻衣氏は、同アリーナシティ完成のあかつきには「相当数が京急川崎をご利用していただけると我々、京急電鉄として考えて」おり、それにともない「駅舎の改良なども検討している」と語った。
同アリーナシティでは、メインアリーナが多摩川側に、そして17階建ての商業棟が京急川崎駅側に建設されることとなっている。現時点での計画では、商業棟の1-2階にはサブアリーナ兼ライブホールが、3-8階にはスパ(温浴施設)やフードホールが、そして10-17階にはホテルおよびレストランが入ることとなっている。
DeNAと京急電鉄ではアリーナシティの共同運営会社設立を検討中だ。
アリーナシティがブレイブサンダースだけのものではなく、試合日も含め「365日何かしらのイベントをやっているような施設となり、この街に人を呼ぶ、集客の起点とし、イベントが終わったら街に人をどんどん吐き出す拠点にしたい」と話した元沢氏は、これが「ナンバーワンのエンターテイメントシティに街を昇華させるプロジェクト」だと自信を示した。
アリーナシティの完成はまだ5年後と先だが、DeNAと京急電鉄は今後、半年程度に1度、プロジェクトの進捗状況を公表していくという。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター
元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。