男子テニス・杉田祐一、中高生を対象にした「日本の樹プロジェクト」を発足した理由

(C)Photo by Mark Kolbe/Getty Images

日本の樹プロジェクト

錦織圭西岡良仁に続き、現在日本の3位である杉田祐一が、国内の中高生に向けたプロジェクトを発表し、その前段階とした練習会を6月21日に東京都内でスタートさせた。

2017年には「Turkish Airlines Open」 でトップ10選手を次々と打ち負かし、満面の笑みで記念すべきツアー初優勝のカップを空高く掲げ、世界に「Yuichi SUGITA」の名を響かせた。そんな彼が日本国内で育つ中高生に向け強化を目的とし、杉田本人と共にレベルアップできる場を作りたいと動き出す。

現在世界ランキングは87位。ここから世界トップを再び狙うため、本人のSNSから協力者を求めた。「僕と一緒に練習とトレーニングをしてくれる男子高校生を募集します!」。このニュースは全国大会を失った高校生たちの心を大いに騒がせた。

杉田が発案した「日本の樹プロジェクト」への想いや、21日に行われたプロジェクト初となる関東練習会で実際に感じた事を伺ってみた。

≪取材:久見香奈恵
元プロテニスプレイヤー。2017年引退後、テニス普及活動、大会運営、強化合宿、解説、執筆などの活動を行う。

――このプロジェクトを構想した時期やきっかけお聞かせください

杉田祐一さん(以下敬称略):構想し出したのは1年半前くらいからだと思います。普段から母校である高校に(湘南工科大学付属高等学校)練習に行くことが多くて。年に2、3回は毎年通っているんですけど、その過程からこの年代にいま僕が伝える事って重要なんじゃないかなって思い始めました。高校3年生の子とかも見るんですけど、もしもっと早い年代で僕の伝えられる事を伝えていたら、高校生活がもっと変わったものになったんじゃないかという想いもありました。僕自身も学校の部活出身なので、この日本で育っている子供達に何か少しでもいい影響を与えたいと思い、それがきっかけになりこの活動を始めようと決めました。

――対象者を中学生と高校生に絞った理由は何かありますか? そしてテニス以外のスポーツでも活動を広げたいとお話しされていますが、このプロジェクトの未来はどのように描かれているのでしょうか?

杉田:今の段階では、先ずはテニス部門でやってみて反応を見たいという思いがあります。そして共感してもらえる人がどのくらいるのかなって。僕の中ではプロが徹底的にアドバイスをしないといけないのは、この年代だと思っているんですよ。小学生を教えてもそこにはそこのプロがいるので……。いま野球やサッカー、他のスポーツでもいろんなイベントがあるじゃないですか。その中でも現役のプロがやるんだったら、絶対この中高生の年代がいいと思っています! 逆にもっと下の世代に僕たちが入っても正直、あまり意味がないと感じているんですよ。けれどそれは選手が決める事だし、見たいと思う年代も違うと思うので、あくまでも僕の意見です。なので、他競技の現役選手にもこの年代に伝えることが大切だと感じてもらえることができたら、是非テニス以外の競技でも強化や指導の場を広げていけたらと思います。

――絶対に多くの反応が見られますよ! 杉田選手は地元仙台や東北地方で東日本復興支援イベントもされているので、なおさら多くの方が応援してくださる企画だと思います。

杉田:いや、実はそれもすごくきっかけになっているんですよ。毎年仙台でクリニックをやっているんですが、復興支援クリニックの存在は僕の中でも大きいし、このプロジェクトを始めるきっかけにもなっていると思います。復興支援イベントでは、すごく小さな子供たちをレッスンするんですが、この地元仙台の中高生の強化もやってみたいという想いも芽生えていました。

――それも今ここに繋がる前段階の経験になったんですね。やはりこのプロジェクトは若者たちに与える刺激を重要視されているし、どんどん内容も進化していきそうに感じます。この日本の樹プロジェクトの構想にも若者は「根」と「幹」をつたい咲き誇る「花」だとおっしゃっていました。ご活躍されているのにご自身が「花」ではないのですね。

杉田:そうですね、若者が「花」です。「根」が僕たちを指導してきた先生や両親。そして応援し続けてくれている企業やファンです。僕たち現役世代が「幹」だと考えて、今から「根」の部分に入っていく段階の時に、いい形で子供達にきっかけを作っていければと考えています。今、咲き誇っているのは「花」の子供達ですよ。僕たち「幹」世代も頑張らないと!

――このプロジェクトのイメージ図には木が使われていますよね。「根」から栄養を吸収した「幹」が、また「花」へと繋がり後世へメッセージが繋がれていく様子がとてもイメージしやすかったです。

杉田:ありがとうございます。僕たち現役は「花」を支えるのも役目じゃないかと。それプラス、この企画は自分自身のためでもあって、例えば引退してからだと完全に合宿やイベントのコーチとして参加になると思うんですけど、いま世界で戦っている最中にしか伝えられないこともあるだろうし、戦っている時だからこそ響くこともあると。それに高校生相手だったら自分の練習にもなるし、とにかく高校生と練習するのが好きなので。

――高校生が好きっていいですね。将来、先生にもなれそうです(笑)。

杉田:ははは(笑)。なんていうんですかね……中高生って、もう純粋で真っ白な世代なんですよ。それが突き刺さるというか、僕もやっぱり忘れている部分をいつも思い出させてくれるので。これ以上になると皆どんどん考えが出てくるじゃないですか。大学生だと先輩後輩の制度とかテニス以外のことの仕事も絡んできちゃうので。僕はやっぱり中高生という世代が好きで、身体もしっかり出来上がってくるし、練習相手として成り立つと思っているのでこの世代を選んでいる。多感な時期に、一緒にトレーニングや練習をしてお互いの人生に刺激を与え合えたらいいなと思っています。

――今日の練習会を見ていると高校生のレベルがバラバラに感じました。選考基準は戦績以外にも何かあるんでしょうか?

杉田:募集の時にアピール文と戦績は送ってもらっていますが、実は戦績だけで選んでいる訳ではないです。今回の関東練習会の選抜にもストーリーがあって本当に面白かったですよ。一番初めに連絡をくれた子が「いつやるんですか?」「どんなところでやるんですか?」と細かく聞いてくれたんですけど、僕が募集をしたのは、この練習会をやりたい人を募集していたので、やる気があるのかないのか分からなかったんですよ。だから直接「やりたいのか、やりたくないのか、どっちなんだ?」と返信したら、僕を怒らせたと思ったのか「すいません、気に障ったなら申し訳ないです」って来て(笑)。

あー、絶対この子を選びたいと思いましたよ! いい子だと思いましたし、少し内気にも感じたんです。スポーツでは、その内気さや丁寧すぎるところがデメリットになるから、コート上ではもっと表現して欲しいし、自由にやりたいようにやってほしい。それがスポーツだと思うし、そういう部分を是非分かってもらえたらいいなと思い、彼を選びました。

――彼は即メンバー決定だったんですね(笑)。もうDMが試験みたいで何を送るかすごく考えてしまいますね。

杉田:子供達からメッセージは本当に様々ですよ。「やりたいです!」って一文だけで来る子もいるし、「僕はこういうことを学んで、杉田選手からこういうところを得てみたいんです」みたいな子もいるので……とにかく「やってみたい!」という子も選んでみたかったし、ちゃんと丁寧に自分のことを説明できる子も選んでみたかった。本当に個性があり面白かったし、その分、選考も悩んで何度も考えてからメンバーを決めました。

――募集の仕方も現代的でSNSでの募集なので、彼らもきっと応募しやすかったですよね。

杉田:そうですね。応募方法はSNSでいいのですが、もう一つのコンセプトとして大事にしていることがあります。今の時代、携帯1つでありとあらゆる情報が見れますよね。指導方法もだし、バックハンドの打ち方とか技術的なことも。でもやっぱり、本当に自分に必要なことや、行ってみたいところには直接足を運んでほしい。それを体験するということがとにかく大事なんだ。ということが伝えたいことの1つでもあります。

――今後の活動予定は?

杉田:今後は九州と東北で実施する予定にしています。基本的にはこのプロジェクトは2泊3日ほどの合宿を想定して作っています。そのメンバーを選ぶためにも自身で全国の大会を見に行って、スカウトしようと考えています。まずその前に、どういうことに注意すればいいのか分かってないといけないと思っていて、今回のように仮練習会という感じで3時間ほどの練習を各地で開いていこうと。本当の合宿自体は規模を大きくしたいと思っています。人数は10人以内くらいを想定しています。

――ここから始まっていくのが楽しみですね。記念すべき練習会の第一回目を終えてみて感触はどうでしたか?

杉田:いや、本当に良かったですよ! 全国大会レベルもいれば、県大会で負ける子や、テニス歴5年の子もいてレベルの差があることに練習を融合できるかな? と不安視していた部分もありました。でも後半の自重トレーニングでは、自分自身との戦いになる中で選手それぞれのベストを出していたと思います。まだまだ内容も改良の余地はありますが、十分融合できたという実感はあります。普段から一緒にツアーに行ってもらっているチーム杉田のスタッフ陣の働きにも助けられましたし、自分自身の練習の場でもあるのでいい練習ができたと思っています。選手の強化もするけど、僕もレベルアップしたいので「我こそは!」とやる気がある子にどんどん今後も参加してもらいたいです。

――このプロジェクトは生徒の交通費なども全て杉田選手の資金で運営されると書いてありました。協賛企業などは付いてないのですか?

杉田:そうですね、すべて僕の自腹です。社会への還元という気持ちもあるし、僕自身のモチベーションにもなるので。逆にスポンサーさんからお金をもらったら、会社の意向も入ってくると思います。今、僕の資金だけでやることでスタンス的にもはっきりと言えちゃう部分も残せるので、本当にやる気のある子だけを抜粋できる。先ずは貢献したいという想いと自ら自分で動きたいという想いがあったので、全て自己資金でやっていこうと思い始めました。

――凄いですね……! 今後もこのスタンスで進める予定ですか?

杉田:今は練習会ですが、将来的には合宿を開くとなるとものすごいお金がかかってくると思います。なので、のちのちはこの活動に共感してもらえる方々がいてくだされば、協賛を集めていけたらとは考えています。先ずはプロジェクトの認知をしてもらうことが大切だし、練習会とともに活動を知っていただけるように広げていきたいと思います。

――今はプロジェクト内容を知ってもらう時期でもあるんですね。これからはツアー再開に伴い、また杉田選手自身にも戦いの日々が待っていると思います。世界の舞台へ戻ることで楽しみにされていることはありますか?

杉田:そうですね、楽しみでもあり結果以外に大切にしていることがあるとしたら、コート上で相手の生き様を感じることですかね。良いプレーにしろ、悪態を吐くような選手にしろ、君はどんなことを望んでこのコートで戦っているんだ? って戦いながら、いつも相手のことを感じるようにしています。本当は他のアスリートのことも知りたくて、別競技の人と戦ってみたいとも本気で思っているんですよ! 先ずは自己最高位を突破することもですし、いいレベルでプレーし続けられるように頑張ります。

――根っからのアスリート魂ですね。そして高貴なスポーツマンシップが素晴らしい!

杉田:ははは(笑)。本当ですか? ありがとうございます。子供達に経験を還元するためにも頑張ってきます。

3時間の練習後にも関わらず、笑顔で胸の中を打ち明けてくれた杉田。彼を支えるチームの皆さんの笑顔や必死さも印象に残った時間となった。彼がまた世界での奮闘を次世代に渡していくことに多くの参加応募と応援が集まるだろう。

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著者プロフィール
久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。
園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。
2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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