■ファンの期待を背に神宮のマウンドへ
11月の寒空の下、ダントツ最下位球団のシーズン最終戦、神宮球場に詰めかけた観客は1万4456人に上った。新型コロナに席巻され、入場人数制限のあるシーズンとしては、ソールドアウト。もちろん2019年のドラフト1位、奥川恭伸のプロ初先発にかかる期待の表れだった。
結果は、残念ながら2回0/3を57球、9安打5失点。痛烈なプロの洗礼を浴びた。
それでもヤクルト・ファンの目にはどのように映ったか。
相手は2016年以来の先頭打者起用となった球界を代表する打者、広島の鈴木誠也、マスクは楽天時代に田中将大の女房役として活躍した嶋基宏。注目のプロ初球は、やや外に外れた146キロのストレートだった。ヤンキースのエース格を思わせる、バランスの良い投球フォームだった。
小気味よく5球続けたストレートを、鈴木に綺麗に弾き返されツーベース・ヒットを許す、まさにプロの洗礼だった。
その後、一、三塁とピンチを招くも4番松山に対しても全球ストレート勝負、結果2点の先制を許すも、堂林を空振り三振、高橋大は見逃し三振に切って取った。これにはピッチャーに最も必要なハートの強さも見た。
3回途中、57球5失点での降板。将来のエースとしては物足りなさも感じさせたし、ファンとしては成長を見守るためにも3回完了までその勇姿を見たかったというのが本音だ。
しかし来季への期待と課題は見えた。
大きなポイントは、四球を連発し、自滅するようなタイプではないバランスの取れた安定感だろう。つまりいつまでもファームにおいておくには、もったいないピッチャーである点は間違いない。初登板にもかかわらず、力みまくり体が開く…というような欠点がない。ある程度の制球力も見ることができた。期待大だ。
懸念点もあった。スタンドから見ていても「おや?」と思うほど、セットポジションになると球威が落ちる。その落差は「む?どこか悪いのか」と思わせるほど。これが今シーズン、高津監督が一軍に上げることがなかった欠点か…合点がいった。
変化球のコントロールも悪くない。これだけ打ち込まれたのに無四球という点も期待を抱かせるに十分だ。素人目には、下半身に粘りを持たせ、やや球持ちを長くできれば、来年の活躍を見込めるかも…というのが感想だ。
シーズン終了となる試合後の高津監督の挨拶では、贔屓とさえ思わせる無茶振りを受け、マイクの前でひと言。「1年目の奥川です。今日の反省を活かして、来年活躍できるよう頑張りたいと思います」。
もちろん、期待している。来年のヤクルトを頼むぞ! ダントツ最下位球団ファンの切なる願いだ。
著者プロフィール
たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー
『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。
MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。
著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。
推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。
リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、ニューヨーク・メッツ推し。