■今、世界から脚光を浴びているスーパーフォーミュラ
自動車レースのオープンホイールカテゴリーで国内最高峰に位置する全日本スーパーフォーミュラ選手権が今、世界から脚光を浴びている。同カテゴリーの世界最高峰は周知の通りF1で、ステップアップのためにはサポートレースとして同じヨーロッパのサーキットを転戦するFIA-F2で結果を残すことが最善であることは確かだが、スーパーフォーミュラにはそこにはない、若手ドライバーにとっての魅力があるのだという。
日本におけるトップフォーミュラの歴史は1973年に全日本F2000が発足して以降、幾度かの規定及び名称変更を経て現在のスーパーフォーミュラへと繋がれている、その中でスーパーフォーミュラはやや趣が異なっており、F1の下位カテゴリーという枠から離れ独自のカテゴリーとしてグローバル化を目指している。
■ホンダ、トヨタのエンジン競争や独自の“オーバーテイクシステム”
その魅力としてまず、日本が誇るトップメーカーのホンダ、トヨタがエンジンを供給し、FIA-F2にはないエンジン競争によってスピードがどんどん磨かれていることが挙げられる。ダウンフォースレベルもF1に匹敵すると言われている。さらに“オーバーテイクシステム”という独自のアイテムを使うことで、バトルシーンも多くなる。
その結果、2016年に参戦したストフェル・バンドーン、2017年に参戦したピエール・ガスリーはいずれもその翌年にF1レギュラードライバーへと昇格。「エンジン競争のあるあたりがF1に似ていてダウンフォースレベルも高く、参戦すればドライバーとして成長できることは確か」だと評価したことで、その後参戦を希望するヨーロッパのドライバーは増えているのだという。それはドライバーだけではない。2019年にはドイツの名門チーム、モトパークがB-MAXとコラボチームを結成し、参戦を開始した。
■新型コロナの影響で戦いはよりスリリングに
2020年はそのB-MAXからF1チームのリザーブドライバーもつとめるセルジオ・セッテ・カマラ、同じくF1リザーブドライバーのユーリ・ビップス(MUGEN)、そして女性ドライバーのタチアナ・カルデロン(スリーボンド)が新たに参戦と、これまでにも増して注目のシーズンとなっていた。だが新型コロナの影響で4月開幕予定のシーズンは8月末へと急遽リスケジュールとなり、同様の状況にある他カテゴリーとスケジュールが重複。また海外渡航に関し検査・隔離等の規制が敷かれ、外国人ドライバーばかりか世界耐久選手権(WEC)に参戦する小林可夢偉、中嶋一貴ら国内ドライバーの出場にも影響することになった。
だが、こうしたイレギュラーにより戦いのレベルが下がったのかといえば、それは逆だ。代役には松下信治や笹原右京ら、いずれも同等の実力を持ったドライバーが起用された。そして予選・決勝がワンデー開催になったことをはじめ、レース距離短縮、レース中の給油禁止、といった変更がいくつもあった中でチーム力、ドライバー力は今まで以上に試されることになり、戦いはよりスリリングに。また全戦に参戦できないドライバーが多くなることでチャンピオンシップは有効ポイント制(得点の多い5大会分の合計)となり、各レースでのアグレッシブさも増すことになった。
■2日連続のGP開催で大きな順位変動も
第4戦を終えた現時点でのランキング上位は、トップが開幕戦でポール・トゥ・ウィンを決めた平川亮(インパル)で51ポイント、2位が昨年チャンピオンのニック・キャシディ(トムス)で40ポイント、3位が第3戦で優勝し一気にランキングを挙げた野尻智紀(MUGEN)で36ポイント、4位には2度のチャンピオン経験を持つ山本尚貴(ダンディライアン)が32ポイントでつけている。
タイトル争いはどうやら、今週末の鈴鹿サーキットが天王山となりそうだ。前述の通り、今季は通常2日に分かれる予選、決勝が1日で行われる。今回の鈴鹿ではそれが土、日の2回(第5戦、第6戦)連続で行われることでポイントも2倍となり、大きく動く可能性があるのだ。
ランキング上位につけるドライバーの誰かが最終戦を前に大きく抜け出すのか、はたまたランキング下位の選手がタイトル争いに加わってくるのか、わずかなセッティングの差やタイヤの使い方で簡単に順位がひっくり返る程の僅差の戦いが毎回繰り広げられている故、どんなレース専門家であっても「走ってみないとわからない」と、事前順位予想が極めて難しいのがスーパーフォーミュラ。一瞬たりとも目が離せない2日間となることは間違いないだろう。
文・前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター