【スポーツ回顧録】マーくん、デレク・ジーター引退に花道を

現役を引退したデレク・ジーター (C)Getty Images

ちょっとした野球好きならニューヨーク・ヤンキースデレク・ジーターを知っているだろう。ただ、日本では松井秀喜と仲の良い同い年の選手…程度しか引用されないのが常である。

12日、ジーターはファン向けのFacebookに署名入りの文書を公開、今季限りで引退すると表明した。衝撃のニュースである。おそらくニューヨークでは、長嶋茂雄の引退ぐらいに。

ご存じない方のためにジーターについて。高校時代、全米最優秀選手賞を獲得したジーターは1992年、ドラフトの目玉のひとりとして1順目でヤンキースから指名を受ける。その後、順調にマイナーリーグを上り95年にメジャーデビュー。以来、ヤンキース一筋で五度のワールドシリーズ制覇に貢献した。

ジーターのデビューまでヤンキースは不振にあえいでいた。最後にワールドシリーズを制覇したのは1978年、リーグ優勝さえ、1981年を最後に途絶えていた。日本の野球ファンには15年優勝しない巨人を想像してもらえば判りやすいだろう。そこに彗星のごとくデビュー、「貴公子」とさえ称された。振り返れば、1995年はジーターの前の主将であるドン・マティングリーが引退した年でもある。マティングリーもまた1981年の入団以来、ヤンキース一筋の選手。引退後、彼の23番はヤンキースの永久欠番となっている。しかし、残念なことに一度も世界一になることなく、この年に引退を決めた。あと一年残っていたらな…と思わせたのが1996年シーズン。

■「ファブ・ファイブ」の成長で黄金期到来

ジーターを始め、アンディ・ペティートホヘイ・ポサダマリアノ・リベラそしてバーニー・ウイリアムス(背番号51番を背負っていただけに、イチローが51番を辞退したことで知られる選手だ)ら「ファブ・ファイブ」と呼ばれた生え抜き選手が急成長。1981年以来のリーグ優勝を果たし、前年王者のアトランタ・ブレーブスをワールドシリーズで破り18年ぶりのワールドシリーズ制覇を果たした。

当時、ブレーブスは、グレッグ・マーダックスジョン・スモルツトム・グラビンという強力投手陣を擁していただけに「まさか」の王者奪還だった。もちろん、ジーターはその中心にいた。同年には新人王をも満票で獲得している。

ヤンキースは1997年こそ優勝を逃したものの、1998年から2000年まで三連覇。特に2000年は、野茂英雄の女房役として日本でも有名なマイク・ピアッザ率いるニューヨーク・メッツとの「サブウェイ・シリーズ」を制しての優勝。「サブウェイ・シリーズ」は1956年のヤンキース対ブルックリン・ドジャーズ以来、実に44年ぶりのこと。ニューヨークでは、間違いなく後世に語り継がれる対戦である。

ジーターは、このシリーズで19 打数9安打、打率.409、2本塁打の成績でワールドシリーズMVPに選出されている。同年には、オールスターでもMVPに輝いた。2009年のワールドシリーズ制覇では、我らが松井秀喜がMVPに輝いたが、ジーターも打率.407とその存在感をアピール。ワールドシリーズでの活躍でも判るように、ジーターもヤンキース屈指のクラッチ・ヒッターとして知られる。元ブレーブスで野茂と新人王を争ったことでも知られるチッパー・ジョーンズは「1点とられたら負けの場面、2アウトでもっとも打席に迎えたくないのがジーターだ」とコメントした。

打撃三賞こそないが、シルバースラッガー賞ゴールドグラブ賞をそれぞれ5度受賞、ハンク・アーロン賞を2度、オールスター選出は13度に上る。2012年10月に左足首を骨折し、2013年のシーズンもけがで出場わずか17試合、打率1割9分、1本塁打に終わったが、それでもメディアの非難を受けないのは、彼のキャプテンシーと人格にニューヨークが魅了されていたからに他ならない。マティングリー以来不在だったヤンキースの主将を2003年から務めたのも頷ける。

貴公子とのニックネーム通り女性にも大人気。日刊SPAによるとアメリカのメディアでは、DEREK JETER’S DATING DIAMONDジーターの歴代彼女ベストナイン)というおふざけ企画があった。そこには、マライア・キャリースカーレット・ヨハンソンジェシカ・アルバなどまさに豪華な顔ぶれが並ぶ。アレックス・ロドリゲスがゲーム中にファンに連絡先を渡し、バッシングを受けるのとはえらい違いだ(もっとジーターは当時独身、ロドリゲスは既婚)。

ジョー・トーレ元監督もメジャー昇格の頃から、「ジーターに教えることはなかった」とコメントしたとされる。現役選手でありながら、殿堂入り確実と囁かれるのも、そんな人格によるところだろう。

そんなジーターの引退表明を受け、ESPNには「田中は、ジーターに代わってヤンキースの顔になれるか」という記事も見られる。

そうだ、マーくん、やはりワールドシリーズを目標と公言しているからには、今シーズン、ぜひ主将ジーターのキャリアをワールドシリーズ制覇で締め括り、ニューヨークに愛されるフランチャイズ投手となって欲しい。そう願う野球ファンは私だけではないだろう。

それにしてもジーターが引退するなんて!

Yahoo!ニュース個人2014年2月18日掲載分に加筆・転載

【スポーツ回顧録】プロ野球2013年シーズンMVP、パは田中将大、セはバレンティンで決まり!

【スポーツ回顧録】マーくん、「神様、仏様、稲尾様」越えの歴史的意義

【スポーツ回顧録】田中将大、メジャー初勝利は公式戦29連勝と自身通算100勝の金字塔

【スポーツ回顧録】神様、仏様、田中様! 東北、日本一おめでとう!

満票殿堂入りを逃したデレク・ジーターの“本当の価値”

デレク・ジーターが殿堂入り 元ヤンキース主将で、松井秀喜やイチローらともプレー

著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。

著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします