東京五輪組織委・橋本聖子会長就任は旧体制堅持の森「院政」、それとも光明への希望か

1992年アルベールビルのスピードスケート女子1500mで銅メダルを獲得した元オリンピアンの橋本聖子新会長。写真は1988年カルガリー冬季オリンピック (C)Getty Images

一部の「旧体制」に閉じられた日本スポーツ界の現状を嘆くべきなのだろうか。それとも、単に国の人材不足を嘆くべきなのだろうか。

1964年東京五輪開催年に生を受けた「五輪の申し子」、夏季冬季合わせ7度の出場の実績を誇る橋本聖子新会長個人の資質について懸念しているのではない。東京五輪組織員会会長選出に至るプロセスから、その誕生の結果として年老いた「旧体制」から何ひとつ脱皮が見られなかった点について嘆く。

森前会長辞任に至ったとしても変わらぬ「旧体制」については、前回の記事で指摘したとおり。だが、驚いたのは旧体制堅持のスクラムがスポーツ界、政界に限ったイデオロギーではなかった点。

◆森喜朗会長辞任でも変わらない政界・スポーツ界にはびこる「旧体制」というグローバル問題

■「旧体制」派は市井にも眠っている

今回の女性蔑視発言について、特に中年ラグビー愛好家たちが擁護に回るSNS投稿を乱発。「森さんなしでラグビーW杯はなかった」「実績を評価しろ」、または発言全文を掲載し「これは蔑視ではない女性擁護だ」「マスコミの煽動だ」と次々と書き込んだ。

誤解なきよう。こうした言動はあくまでアマチュア愛好家に散見され、協会関係者やプレーヤーからではなかった点、重々ご留意されたい。ただしこの集団、たちが悪いのは年齢的にも事業会社の社長など経営層にあたること。

これは取りも直さず、女性蔑視発言を問題視するより、過去の実績重視という理念を持つ旧体制擁護派が、前会長のような老人のみならず、50代前後の一般日本人男性の中に潜在する、日本社会をあぶり出した形だ。

つまり「旧体制」派は、市井にも眠っている。

■「森院政」を公言したも同然の就任会見

組織委員会選考問題に戻ろう。

会長交代となったものの、既存メディアの報道にもあるよう、問題点は依然残されたままだ。

まずは透明性。小渕恵三首相(当時)の病状により突如、密室で誕生した総理大臣経験者の後任人事にふさわしく、透明性などどこ吹く風。候補者検討委員会メンバーも座長以外は公表されないまま。それでも御手洗冨士夫座長自ら「オープンで透明度の高い手法をもって橋本会長が誕生」と発言。経団連名誉会長と庶民とでは、「透明性」について感覚に大きなズレがあると強く印象づけた。

森前会長が「顧問」などの肩書で委員会にとどまる人事についても疑問視されていた。にもかかわらず、新会長は彼の「愛弟子」いや「愛娘」である点も疑いようがない。かつて「父と娘」と呼びあったに留まらず、就任会見でも「政治の師でもある森会長、森先生は大変特別な存在。辞任は真摯に受け止めて、私自身は問題解決のために努力」。「ラグビーワールドカップや五輪招致活動などスポーツ界にご尽力頂いた。経験と実績はアドバイスを頂かなければいけない」と明言。

これだけ力強く語られると、もはや「森院政」を公言したも同然。また組織委員会ももちろん、それを容認しているとしてよい。

■海外メディアは女性のトップ就任を評価

女性がトップに就任しジェンダー問題については、解決したかに見える。だが新会長自身、7年前のソチ五輪で団長を務めた際、酒席で当時の代表・高橋大輔選手にキスをし、セクハラ疑惑を週刊誌にスクープされたのは衆知の通り。これが容認される点は、次回セクハラ疑惑を持つ男性がトップに就いたとしても不問とされる布石にもなる。

この事件は海外にも知れ渡っており、またも厳しい目が向けられるのではないか危惧された。

だが、本件について海外ではそれほど非難の対象とはなっていないようだ。前回の記事で引用した「インサイドゲームズ」のナンシー・ギレン記者は、自身のTwitterで「橋本はよい選択だ」と発言。これに対し「もともと森の派閥であり、セクハラスキャンダルについてご存知の上でか…」と問いかけたところ、今回の「sexism」についての対応として女性を立てた点を大きく評価をしており、残り5カ月となった段階で「森の影響下にないメンバーを選ぶのは非現実的だ」という理解を示した。

また『ニューヨーク・タイムズ』紙もデジタル版において、「80代の男性を選ばんとしていた後任人事」を翻し、女性がトップに就任した点を好意的に報じた。
出典:ニューヨーク・タイムズ

■「アスリート・ファースト」東京五輪の実現を

今回の騒動を現実的に捉えると、事態の収拾のため森前会長は辞任、しかし院政により、五輪開催にこぎつけることが優先された……に過ぎない。繰り返すが、やはり「旧体制」は少しも方向転換しそうになく、日本の旧態然とした社会は、新型コロナでも女性蔑視でも、変わらない。

五輪相後任は、安倍前首相心酔派として知られる丸川珠代が出戻りとなる。自民党議員は頭数だけは多いものの、有事を任せられる人材は、プロ野球のいちチームほどもいない現実も嘆かわしい。野党にそれほどの人材がいるかと問われれば、それも否だが……

いつの間にか「安全安心五輪」へと名称が変更されたオリンピックを、将来の世代が振り返った際、「新型コロナ時代という疫病と人災の時代だった」とレッテルを貼られないよう祈るばかり。

もっとも高齢政治家に占められて来たポジションに、元オリンピアンが就任したという点について、やっと他国と同様のレベルに追いついたと考えるべきかもしれない。酒豪としても知られる橋本新会長においては、ソチでのスキャンダルを反躬自省し、「アスリート・ファースト」東京五輪の実現をお願いしたい。

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著者プロフィール

松永裕司●Neo Sports General Manager

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ マイクロソフトと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Director of Sportsなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークとアトランタで過ごし2001年に帰国。

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