【F1】角田裕毅が持つ「目に見えない」特別な才能

アルファタウリからF1デビューを飾る角田裕毅(2021年3月14日)(C)Getty Images

2021年、角田裕毅は日本人選手として7年ぶりにF1グランプリを闘う。

角田は今年の5月で弱冠21歳。幼少時にレーシングカートを始め、少しずつステップアップしてF1を目指すドライバーの王道を最短距離で突き抜けた結果である。

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■16歳での大きな分かれ道

もっとも、角田には16歳のとき大きな分かれ道があった。当時角田は鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS-F)で4輪レースの基礎を学び、受講生の中から2名のみ選抜されるスカラシップ枠を目指していた。スカラシップを獲得すれば翌年、ホンダの育成ドライバーとして本格的に4輪レースへ進出できる。一方この選抜にもれると“王道”から脱落し、その後のステップアップでは大きなハンディを負うことになってしまう。

ところが角田の成績は受講生の中で3番手。本来ならばスカラシップを得られず表舞台へのデビューがかなわないまま、角田のレース人生はスタート時点で大きく異なる道をたどらなければならなくなるところだった。

しかし救いの神が現れた。誰あろう元F1ドライバーの中嶋悟である。中嶋は当時SRS-Fの校長を務めており角田の走りを見て、「成績だけで落第させるのはもったいないから特別扱いでステップアップさせられないか」と周囲に働きかけたのだ。角田の走りを評価したのは中嶋ばかりではなく、SRS-Fで生徒の指導にあたっていた講師陣も特別な才能を認めていた。その結果、角田は事実上特別な3人目のスカラシップを獲得し2016年、ホンダの育成ドライバーとしてFIA-F4日本選手権シリーズで4輪レースデビューを果たしたのだった。

■“何か”を感じ取り、修正を加える角田の才能

このとき高く評価された角田の走りは特徴的だったという。多くの場合、ドライバーはコース上で車体の動きが理想から外れた際、ステアリングやアクセルペダルを操作して修正を加え車体を理想的状態へ復帰させる。このときの正確性、敏捷性がドライバーの才能として評価されがちだ。

しかし角田は車体の動きが理想から外れる前、正確には外れようとするときの通常は感じ取れない“何か”を感じ取り修正を加えるというのだ。その結果、角田が操るマシンは姿勢を崩すことなく、言い換えればドライバーがワザを使っているようには見えない状態でごく自然にコーナーを抜けていく。評価するだけの知見がない者にとっては、特別なことをしないまま走っているように見えるのである。

この才能を見抜いた中嶋とSRS-Fの講師陣に後押しされて4輪にデビューした角田は実戦の場でもその能力を高く評価され、ホンダの育成ドライバーの中でも特別な存在と目されるようになり、2018年に3年目のFIA-F4日本選手権でシリーズチャンピオンになると、ホンダのバックアップで翌2019年はヨーロッパに渡り世界のF1ドライバー候補生たちに混じってFIA-F3選手権に参戦することになった。

■猛然とF1への道を突進し、いよいよデビューへ

多くの日本選手は海外へ進出した際にコミュニケーションの壁にぶつかるが、角田は中学時代をインターナショナルスクールで過ごしたため英語も堪能で、ヨーロッパのレース環境にすぐさま溶け込んでドライバーとしての才能を発揮、本場ヨーロッパでも高い評価を得ることになった。

その結果、2020年にはF1直下のカテゴリーであるF2選手権でシリーズ3位となりF1進出資格であるスーパーライセンスポイントも基準を満たして、4輪レース6年目の今年、ホンダPUを搭載するアルファタウリからF1デビューが決まったのである。

7年前の分かれ道以降、角田は猛然とF1への道を突進してその入り口にたどりついた。予定では3月28日、バーレーンで開催されるシリーズ第1戦で”F1ドライバー角田裕毅”の闘いが始まる。

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著者プロフィール

大串信(おおぐし まこと)

東京都世田谷区生まれ神奈川県逗子市在住。1986年、フリーランス・ライターとして独立、自動車レース関連記事の執筆活動に入り、F1グランプリを含む国内外モータースポーツが主戦場。かつての「セナプロ」を含め、取材対象となったドライバーの枚挙には暇なし。自らも4輪国内Aライセンス所持を所持するレーサー。グランツーリスモを含む、eSportsの造詣も深い。第2種情報処理技術者(現基本情報技術者)。オヤジ居酒屋の1人呑みが趣味。病的猫溺愛者。


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