【フィギュア】スポーツを超えた人間主義の祭典 世界選手権2021閉会

羽生結弦 (C)Getty Images

2021年のフィギュアスケート世界選手権は日本時間29日零時過ぎ、フィナーレを飾り閉会した。コロナ禍、人々の営みが世界中で遮断されたこの困難な時代に、無観客という制限はありながらも選手たちの鮮やかなる闘いを見届けることが出来た事実に、まずは心から感謝したい。

■鍵山の煌めきと羽生の粘りを信じて、次なる闘いへ

注目の男子シングルは、ショートプログラムでは羽生結弦鍵山優真がTOP2での発進だったが、フリーの最終滑走となった羽生は冒頭2本のジャンプで氷に手をつく小さなミスが重なった。後半、粘って立て直したものの挽回叶わず。結果、5本の4回転ジャンプをノーミスで滑り切ったネイソン・チェン(アメリカ)がショートプログラム3位から巻き上げ、逆転。同大会三連覇を果たした。

宇野昌磨は4位。期待された表彰台もチェンの両脇を2位の鍵山、3位の羽生がはさみ、国旗掲揚も日の丸を左右に配した米国旗を中央に、米国国歌が流れる結末となった。「君が代」が聞けなかったことは残念だが、日の丸を同時にふたつも仰ぎ見られたことは充分に有り難い。

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ところでフィギュアといえば、おそらく多くの人が、まず男女シングルを思い浮かべることだろう。事実、日本では昔から圧倒的にシングルが人気で、日本選手の出場が少ないということもあってかペアやアイスダンスはメディアでの放映時間も少なく、特集や報道もあまり熱心にされないのが実情だ。

しかし今回あらためて、このコロナ禍にオリンピックと同様に単なるスポーツの祭典を超えた「人間主義の祭典」とでも言いたくなるような各選手の健闘を目の当たりにしたときに、ペアやアイスダンスのパートナー間に見られる信頼の絆の美しさが、ことさら深く心に残った。

■組み合せの妙ともいうべきペアの技

年々アクロバティック度を増しているペアは、氷上を疾走するパートナーにすべてを任せて空中3回転を行い、万が一手が離れたら大怪我を負うに違いないスピードと角度で全身を相手に預けてスピンをこなすなど、まさしく手に汗握る瞬間の連続だ。

今回も、身体の作りや年齢、背の高さ等々のバランスで、今、この大会のこの瞬間、この組み合わせでなければ実現しないであろうと思われる奇跡の技が次々に繰り出された。アクロバティック以外でも、互いに一定の距離を保った二人の滑りが完璧にシンクロするとき、得も言われぬ感動がうまれる。シンクロニシティには何かしら人の心を動かす魔法があるのだろう。

コロナ禍という、人とのつながりが以前より希薄になりがちな不条理な日々の中で、この「組み合せの妙」とも言うべき奇跡によって誕生したペアが織りなす刹那の技を目の当たりにし、人間というものの素晴らしさ、そして挑戦する者の美しさと強さに心が打ち震え、胸がいっぱいになってしまう筆者のような聴衆も少なくないのではないだろうか。

■芸術性やストーリー性で魅せるペアダンス

一方で、年齢がペアより上の層が多いペアダンスも本来もっと見られるべきものだ。ペアが若さならではの身体能力で技の極みを求めるものならば、アイスダンスは、そこに年月、すなわち人生の味わいを加え、技の難易度よりも芸術性やストーリー性で世界観を作り上げる種目と言えよう。アクロバティックな演技こそ減るものの、それはしかし、決して簡単という意味ではない。

演者とっては“求められるもの”、観る側にとっては“得られるもの”の次元が違うのだ。ペアダンスでは、選曲も振り付けも人間の内面をより映し出すようなものが多く、大人らしい優美な滑走と共に、人生の喜びや哀愁が表現される。氷上では、そこで表された感情は不思議に増幅し、深みを増し、より心を揺さぶるドラマティックなものに変貌する。

これもまた、氷上とブレードの融合が作り出す非日常の夢の空間が作り出すマジックだと言えるだろう。だからこそ、表層的な上辺だけの表現は見透かされてしまい、振れ幅が増す分、演者の内面の深さの有無が鮮明になってしまうという恐さがある。そこが、アイスダンスの簡単ではなく難しい部分なのだ。この難しさを醍醐味として、日本でももっとアイスダンスが盛んになってくれることを祈りたい。

さて、気になる結果だが、日本勢は、三浦璃来&木原隆一がペアで10位、アイスダンスは小松原美里&小松原尊が19位につき、両種目共に日本は来年の北京オリンピックの出場枠を獲得した。ペアの優勝はアナスタシア・ミシナ&アレクサンドル・ガリアモフ。アイスダンスの優勝は神々しいまでの滑りを魅せたビクトリア・シニツィナニキータ・カツァラポフで、どちらもロシア勢によって飾られた。

■贈り物の時間「エキシビション」を終え、次なる幕開けへ

最終日、すべての闘いが終わったエキシビションでは、ジャッジから解放された各選手が煌めく笑顔で登場し、より自由に個性や得意技を交えたスケーティングを披露した。エキシビションでは競技の時と違い、カメラがより演者に接近したカメラワークを許される。それにより視聴者は選手の間近で一緒に滑っているような気分になれる臨場感を味わうことができるため、スケートファンにはたまらない贈り物の時間だ。

羽生はフリー終了時に語っていた不調の「ズレ」から元の彼に戻ったように神々しく、鍵山は弾けるように、紀平と坂本は笑顔を見せながらも彼女達らしく丁寧に、三浦&木原ペアはより情熱的に、それぞれの滑りを届けてくれた。全選手から、スケーティングへの愛と、滑ることへの歓びが溢れ出て、観る者の心を温めてくれる素晴らしいエキシビションだった。このひとときが大好きだ。

2021年世界選手権は幕を閉じた。それぞれの選手の胸に次の闘いへの想いが滾っていることは確かだろう。今回、日本勢に金メダルがもたらされることはなかったが、鍵山の煌めき、羽生の粘り等、日本はまだまだ闘えると、今後の手ごたえを十分に感じられる選手権だった。期待を胸に、次なる大会の幕開けを心待ちにしたい。

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著者プロフィール

Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター
『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー

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