【MLB】『フィールド・オブ・ドリームス』対決は、まさに映画のような逆転サヨナラ弾でエンドロールへ

とうもろこし畑から現れる両チームの選手たち(C)Getty Images

こんなシナリオ、誰が書いたんだ」。

試合を観ていた野球ファンは、みなそう思ったに違いない。

その証拠に『ニューヨーク・タイムズ』はこう見出しをつけた。「In a Field in Iowa, the White Sox Delivered a Hollywood Ending」。

ホワイトソックス、アイオワの野球場でハリウッド映画のようなサヨナラを演出」とでも訳せばよいだろうか。

前日、AFP伝でこの試合が実施されるニュースを読み、「茶番で終わらなければいいが」という懸念が脳裏をよぎった。だが野球はそんな陳腐なスポーツではなかった。私の邪念は杞憂に終わった。なんたる結末だろうか。

そうは言っても今の40歳未満あたりの世代は、何を意味するのか、もはやわからないかもしれない。

◆【動画】映画を再現、ケビン・コスナーと選手がとうもろこし畑から登場したシーン

■古きよきアメリカのおとぎ話が描かれた名作

フィールド・オブ・ドリームス』は1989年にアメリカで公開された野球ファンタシー映画。ケヴィン・コスナーが主演を務め、日本でも大ヒットを記録した。ウィリアム・パトリック・キンセラの小説『シューレス・ジョー』が原作となっている。

若き頃、家を飛び出して以来、父と会うこともなく貧乏農家となったコスナー演じる主人公は、自身のとうもとこし畑で「If you build it, he will come.」という囁きを耳にする。近所から笑い者にされながら畑をつぶし野球場を作ると、畑の中から「ブラックソックス事件」で追放されたシューレス・ジョージョー・ジャクソン)らシカゴ・ホワイトソックスのメンバーが現れる。すると、その中に若き日の父も現れ、キャッチボールをするなど信じがたい出来事が……。

詳細はもちろん映画に譲るが、古きよきアメリカのおとぎ話が描かれた名作として語りつがれている。日本はJリーグ以前の時代。昭和の少年はすべて野球をプレーした経験があるような頃。亡き父とキャッチボールをするなど、思わず涙しそうなシーンは、令和の少年たちには理解されぬに違いない。

21世紀となった今、MLBは「ナショナル・パスタイム」と呼ばれるほどの絶大な人気はなく、NFLやNBAに押され気味だ。それでもこの試合に具現化された野球を題材としたおとぎ話は、アメリカ人の心象風景に共通する原体験であり続けたのだろう。

■映画同様とうもろこし畑の中から選手が登場

3回に3ランをとうもろこし畑に叩き込んだヤンキースのアーロン・ジャッジ(C)Getty Images

映画の撮影が行われたアイオワ州ダイヤーズビルという小さな町には、この時セットとなった野球場が残され、ちょっとした田舎の観光名所となっていた。だがもはや、アメリカでもこの映画など風化してしまったに違いないと思い込んでいた2019年、2020年の8月にホワイトソックス vs. ニューヨーク・ヤンキース戦が行われると発表された。「映画で使われたあの草野球場を壊してしまうのか」と思いきや、その隣にスタンドを配した小さなスタジアムを作り上げた。昨年、新型コロナのためシーズンは短縮され、この機会も流れてしまったと思いきや、AFP伝にあったようにこの13日(現地時間12日)、この試合が決行された。

ゲストにコスナーが招待され、映画同様とうもろこし畑の中からホワイトソックスとヤンキースの選手たちが現れると大歓声の中、対戦が始まった。「Is this heaven?」いう冒頭のコスナーの挨拶は、劇中とうもろこし畑から出てきたジャクソンのセリフだ。もうそれだけでノスタルジーとしては十分ながら、「陳腐な試合で終わらなければいいな」と考えていたところ、幕切れはまさに劇的だった。

4対7で迎えた9回表ヤンキースの攻撃、アーロン・ジャッジのこの日2本目のホームランで追い上げると、ジャンカルロ・スタントンの左中間とうもろこし畑に飛び込む2ラン・ホームランで8対7と逆転に成功。「いいゲームだった」と思わせたところ、さらに9回裏ホワイトソックスの攻撃は、四球のランナーを一塁に置いた場面、ティム・アンダーソンの右翼とうもろこし畑のど真ん中に突き刺さる逆転サヨナラ・ホームランで幕切れ。アイオワの田舎町に詰めかけたファンは大熱狂。いやはや、やはり「野球の神様」は存在するのだ。

映画封切り後に生まれたアンダーソンは、当の映画を奥さんに勧めながらも観たことがないとか。試合後、映画について訊ねられ「わからないな。ひょっとしたら観るかもしれない」と応えた。時の流れを感じさせる。

逆転サヨナラホームランを放ったアンダーソン(C)Getty Images

■「やはりスポーツの王様は野球のはずだ」

アメリカではMLBの視聴率が悪いとか、日本では野球人口が減っているとか、五輪においてもまたもや正式競技から姿を消すなど、とかく逆風の強い野球ではあるものの、こうしたおとぎ話が目の前で繰り広げられる度に、「いやはや、やはりスポーツの王様は野球のはずだ」と二十世紀少年は思い直すのだった。

父とキャッチボールを経てリトルリーグに参加していた私は高校時代に剣道に転向、野球をやめてしまった後も、自宅前でキャッチボールだけはしたもの。小学生時代は、速さのあまり時折、取りそこねた父の投げる球は、年々凡庸になり、身体が出来上がってきた高校時代、私の投げる球を代わって父がそらすようになった。そんな父子の会話も大学に入った頃には自然となくなってしまった。もちろん、と言ってはなんだが、その父も今は亡い。ただ同世代の昭和の少年にとって、野球は今でもそんな大事な意味を持っているに違いない。

ちなみに、ジャクソンは右投げだったが劇中では、レイ・リオッタが演じたため、左投げで納得がいかないとか、原作者のキンセラが実はアメリカ人ではなく、カナダ人であるというオチ、ジェームズ・アール・ジョーンズが演じた劇中の作家は本来、J.D.サリンジャーであるとか、アカデミー賞俳優バート・ランカスターにとっては遺作であるとか、名作ならではのサイド・ストーリーも多い。野球好きならご鑑賞を。

MLBは来年もこのスタジアムでの一戦を予定しているという。

◆【動画】9回裏ホワイトソックの攻撃、とうもろこし畑のど真ん中に突き刺さる逆転サヨナラ・ホームラン

◆“トウモロコシ畑”に8発乱舞、サヨナラ決着で場内大興奮

◆「フィールド・オブ・ドリームス」での公式戦は2022年も開催へ

たまさぶろ

エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。


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