2018年6月14日から約1ヶ月の日程で開催されたロシアW杯は、フランスの20年ぶりの優勝で幕を閉じた。日本代表の活躍もあり、まだ記憶に残っている方も多いのではないだろか。
フランスのW杯での戦いぶりを振り返ると、グループリーグこそ3試合3得点とややスロースタートではあったものの、決勝トーナメントではアルゼンチン、ウルグアイ、ベルギーに勝利し、決勝でもクロアチアを4-2で破り自国開催以外では初となるW杯制覇を果たした。
そんなフランス代表の攻撃陣を牽引したのが今大会4ゴール2アシストの活躍を見せたアントワーヌ・グリーズマン選手。
今大会で注目された神童・エムバペ選手の良さを引き出しながら自らも結果を残し、まさに”エース”としてチームを優勝へ導いた。
そんなグリーズマン選手にとってターニングポイントとなった試合が準々決勝のウルグアイ戦。
グリーズマン選手とヴァラン選手のゴールでフランス代表が2−0で勝利し、3大会ぶりとなる準決勝進出を決めた試合だ。
この試合で話題となったのはグリーズマン選手が決めた2点目のゴール。
ペナルティエリアの外から放ったブレ球シュートは、ウルグアイ代表GKムスレラ選手の手を弾いてそのままゴールへと吸い込まれた。
準々決勝という舞台でチームを勢いづかせる2点目に、通常なら喜びを爆発させるところだがグリーズマン選手は喜びを表さずどこか浮かない表情。
グリーズマン選手は「ウルグアイは第2の祖国」と試合前から明かしており、相手への敬意を表すために得点を喜ばなかったという。
この行動には彼の人間性の良さが如実に表れているが、その理由は彼のキャリアに大きく関わっていた。
一体どのような思いでウルグアイ代表との一戦に臨み、どのような思いでサッカーという競技に向き合っているか。
今回は、そんなグリーズマン選手の現在とこれまでについて詳しく紹介していきたいと思う。
アトレティコ・マドリード退団発表
まず始めに、同選手の近況について紹介する。
現在、スペイン1部の名門アトレティコ・マドリードに所属するグリーズマン選手だが、2019年5月14日、クラブの公式SNSで今シーズン限りでの退団が発表された。
本人も動画でコメントしており、「新たな経験、新しい挑戦をするため、クラブを離れることを決めました」と述べている。
.@AntoGriezmann: "Han sido cinco años increíbles; muchas gracias por todo, os llevo en el corazón". pic.twitter.com/9XorY05u1T
— Atlético de Madrid (@Atleti) May 14, 2019
来期の移籍先はまだ公表されていないが、バルセロナの加入が噂されている状況だ。
2018年のW杯の活躍もあり、その注目度をより一層加速させているグリーズマン選手。来期も当然新たな移籍先での活躍が期待されるが、ここからは、同選手がどのようにこれほどまでの選手に成長を遂げたのか、その生い立ちや人柄に迫っていきたいと思う。
政治家の子として裕福な家庭に生まれる
グリーズマン選手は1991年3月21日、フランスの中央部に位置するマコンで誕生。
父親は元々町の評議員を務めた政治家で、文字通り裕福な家庭で生まれ育った。
母方の祖父であるアマロ・ロペスさんはかつてポルトガルのサッカー選手で、グリーズマン選手は母方のフットボーラーとしての血を受け継いだと考えられる。
そんな祖父の影響を受けてか、マコンから約70キロ離れたリヨンのサポーターになったことからサッカーにのめり込むようになり、1998年に行われたフランスW杯でフランス代表の中心だったジダン選手とアンリ選手に夢中になった。
当時はその2人のスーパースターのシャツを着て、一生懸命応援していたという。
憧れのクラブのユース入りは叶わずも、才能を見出されスペインへ
少年時代から才能を持ち合わせていたグリーズマン選手は、憧れのリヨンのアカデミー入りを目指していたが、体格があまりに虚弱と評価され落とされてしまう。
地元へ戻り、故郷のマコンのクラブのユースチームでプレイヤーとしてのキャリアをスタートさせた。
2005年、フランスのクラブ・モンペリエのトライアル中に好プレーを見せ、いくつかのクラブのスカウトの目に止まる。
そのなかでスペインのレアル・ソシエダがグリーズマン選手に対してもっとも興味を示し、ユース契約を申し出た。
グリーズマン選手の両親は息子がスペインへ移住することに否定的であったが、クラブの熱意を理解し息子をスペインへ送り出した。
トップチームデビューとウルグアイとの関係
下部組織で着実に力をつけていったグリーズマン選手は、18歳を迎えた2009年にレアル・ソシエダでトップチームデビューを果たす。
当時はウルグアイ人監督のマルティン・ラサルテ氏を父親のように慕い、同じくウルグアイ人のチームメイトのカルロス・ブエノ選手を兄のような存在として見ていた。
グリーズマン選手はマテ茶好きとして知られているが、その魅力はブエノ選手から教わったという。
2014年夏、レアル・ソシエダでの活躍に注目した国内きっての強豪アトレティコ・マドリードがグリーズマン選手を獲得。
アトレティコ・マドリードには、グリーズマン選手に大きな影響を与えることになるウルグアイ代表DFディエゴ・ゴディン選手、同じくウルグアイ代表DFホセ・ヒメネス選手が在籍していた。
左:ディエゴ・ゴディン選手 右:グリーズマン選手
2014年に加入して以降すぐに中心選手として活躍を見せ、2015-16シーズンのチャンピオンズリーグ準優勝、2017-2018シーズンのヨーロッパリーグ優勝などチームの栄光に貢献し続けている。
また、グリーズマン選手個人としても、2016年に世界最高のサッカー選手に送られる「バロンドール」でC.ロナウド選手、メッシ選手に次いで3位にランクインするなど、アトレティコ・マドリードに移籍してから一気にスターの階段を駆け上がった。
注目を集める特徴的なゴールパフォーマンス
グリーズマン選手はゴールしたときに見せるパフォーマンスも特徴的で、人気ゲーム『フォートナイト』のエモートダンスを披露するのが定番となっている。
ロシアW杯では、決勝のクロアチア戦で得点を決めた際にも披露している。
Sin orquesta no hay baile. Mañana os necesitamos a todos. Hagamos que sea inolvidable JUNTOS!!! #VamosAtleti pic.twitter.com/fW5iqCt17S
— Antoine Griezmann (@AntoGriezmann) May 2, 2018
長期の交際を経て、2017年6月に結婚
また、グリーズマン選手は長く付き合っていたエリカ・ショペレナさんと2017年6月に結婚。
2017年3月、エリカさんの誕生日を祝福するメッセージを記したシャツをユニフォームの下に着用し、当日行われていたバレンシアとの試合でゴールを決めたのち、ユニフォームをめくってピッチ上で祝福した。
ただ、ユニフォームを脱ぐ行為は違反とされているため、スペインのサッカー協会から罰金と警告を受けた。グリーズマン選手はすぐに罰金を支払い自分の愛を自分のスタイルで貫いた。
娘の名づけ親はゴディン
第一子となる娘・ミアちゃんは結婚前に授かった。
ミアちゃんの名付け親はチームメイトのディエゴ・ゴディン選手で、このエピソードからも2人の関係の深さがわかる。
「ディエゴは素晴らしい友人です。彼とはピッチの中でも外でもいつも一緒にいます。私の娘の“ゴッドファーザー”です。私がアトレティコとの契約を結ぶ気にさせてくれたのも彼です」
一方で、ゴディン選手はグリーズマン選手について「彼はウルグアイ人に対する大きな愛について語ってくれました。私たちの国の習慣や音楽を愛し、彼は私よりもマテを飲んでいます」と、ウルグアイ人の文化に馴染んでいることを明かしている。
ウルグアイの”想い”も背負って優勝という恩返しに成功
グリーズマン選手はウルグアイのプレースタイルを高く評価し、なかでもカバーニ選手に対しては絶賛している。
「彼らのプレースタイルとスピリットは、私のクラブを思い出させるものです。安定したバックラインと素晴らしい攻撃陣が強みだと思います」
「特にエディソン・カバーニは最高のストライカーだと思います。彼はチームのために働き、そしていつもボールを要求している。彼は決して何かをあきらめることはありません。彼はペナルティエリアに入っているとき、1度や2度のチャンスでしっかりとシュートを決めます」
ウルグアイとの試合前にはアトレティコ・マドリードでチームメイトであるゴディン選手、ヒメネス選手と抱き合い、お互いの健闘を祈っていたグリーズマン選手。
だからこそ、親友らの思いを汲んで貴重なゴールを挙げたにもかかわらず喜びを表さなかった。
レアル・ソシエダで出会ったラサルテ監督、ブエノ選手、そして現チームメイトであるゴディン選手、ヒメネス選手。
グリーズマン選手は多くのウルグアイの友人たちに支えられて、これまでのキャリアを歩んできたのだ。
決勝終了後に見せた男泣きには、“第2の祖国”ウルグアイへの想いと、優勝を果たして恩返しできた喜びが表れていたのかもしれない。
今シーズンで5年間滞在したアトレティコ・マドリードを去り、来期から新天地に身を置くグリーズマン選手。しかし、どんな状況に立たされても常に結果を残し続けてきた彼なら、きっと新たな移籍先でも今まで通りの活躍を見せるのではないだろうか。
参考:https://www.fifa.com/worldcup/news/griezmann-the-uruguayan-2981179、https://lifebogger.com/antoine-griezmann-childhood-story/、https://www.transfermarkt.com/antoine-griezmann/leistungsdatendetails/spieler/125781
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