東京マラソン財団、一般ランナー参加中止は英断

東京マラソン事務局(現在は財団)初代広報ディレクターの私としても、主催財団の一般ランナー参加中止決定は苦渋に満ちた判断だったというのは想像に難くない。

著者プロフィール

たまさぶろ●スポーツ・プロデューサー、エッセイスト、BAR評論家

週刊誌、音楽雑誌編集者などを経て渡米。CNN本社にてChief Director of Sportsとして勤務。帰国後、毎日新聞とマイクロソフトの協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」をプロデュース。日本で初めて既存メディアとデジタルメディアの融合を成功させる。

MLB日本語公式サイト・プロデューサー、 東京マラソン事務局広報ディレクター、プロ野球公式記録DBプロジェクト・マネジャーなどを歴任。エッセイスト、BAR評論家として著作『My Lost New York~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』『麗しきバーテンダーたち』『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』などあり。

万全を期したがゆえの判断

あくまで統計上ではあるが3万人規模のマラソン大会が開催されると、1人ないし2人の死者が出る計算だ。公式発表はしていないが、東京マラソンも心肺停止者がまれに出る。

しかし初回からの教訓としてAEDの徹底した手配、およびドクター・ランナーの充実などにより、過去の全13回において死者数ゼロの実績を有する

2007年初回大会が冷たい雨だった事実もあり、主催者は常に万難を廃する体制で挑んでいる。いまだ体験はないが例え積雪だろうが除雪の上、決行可能なプランも備える。毎年、大会当日午前4時に最終会議を開き、決行か否か最終判断を持って大会を開催している。

2015年、MERS発生時についてもその対応は俎上にのぼったが、日本での感染は水際で食い止められ、大会は支障なく開催された。

しかし今回は2015年とはまったく異なる。2月16日のNHK調べによると現在日本国内の患者数は338名となり、中国を除く全世界の患者数の約半分を占める状況。感染が抑制されている状況とはとても言い切れず、主催団体として大会始まって以来の市民ランナー出場中止を決定した。

初回から「3万人のランナーを」と呼びかけ、現在は約3万8000人のランナーが出走する大規模大会。スタート時にはそのすべてが都庁前に密集する形でスタンバイ、そして団子状態のまま都内全域を走りきり皇居前にてフィニッシュとなる。また沿道の観衆も数十万人となり万が一、ランナーの中に陽性患者がいた場合、まさにアウトブレイクのきっかけとなる可能性は排除できない。

昨日16日、東京では第54回という伝統ある青梅マラソンが決行されたが、日本国内のローカル大会と異なり、東京マラソンはいまや、ボストン、シカゴ、ニューヨーク、ロンドン、ベルリンと並ぶ世界6大マラソン大会のひとつであり、その社会的責任もより重い。

東京マラソン財団はおもに東京都と陸連により構成されている。公益団体である以上、責任としても今回のような万全を期す判断はやむを得ない。英断としてよいのではないだろうか。

エントリー料や寄付金などは返却されない点。中止などでも返金されない旨は規約に記載済であり、申し込みの際、同意する必要がある。もっとも、来年の優先出場権などが付与される可能性は高い

東京五輪に向けて

今回はエリート選手のみが参加する大会としては開催され、東京五輪の男子代表最後のひと枠をかけて争う。日本記録保持者の大迫傑選手や前日本記録保持者の設楽悠太選手、2018年アジア大会金メダリストの井上大仁選手らが出場。

今後、同じように五輪出場枠をかけた大会が各種目において各地で開催される。政府から開催の是非は無責任にも「主催者が決定…」との発言もあり、主催団体にとってはもっとも頭の痛い状況だ。

これに先駆けIOCジョン・コーツ調整委員長は14日、IOCと大会組織委員会の事務折衝後の記者会見において「WHOからは大会を中止したり延期したりする必要はないとの助言をもらっています」と発言

ジョン・コーツ調整委員長 (c)Getty Images

CNNなどの海外メディアを含め、記者からの質問はほぼ新型肺炎の対策についてだったにもかかわらず「政府の方針を遵守する」との回答に終始、主催団体として特別な対応策を講じる予定はなく、発言そのものも物議を醸し出している。

なお、東京2020組織委員会からは「今年の東京マラソン一般の部中止については、プレスリリースの発表を通じて承知しています。組織委としては引き続き、安心で安全な大会開催に向けて、関係機関等と密接に連携していきます」と公式コメントがリリースされている。

これとは別に宮内庁は同17日、23日の天皇誕生日に皇居・宮殿で予定されていた一般参賀を中止すると発表した。

新型コロナウイルス肺炎の広がりとともに、各種イベントに影響の出始める昨今、東京五輪開催までにこうした状況が収束へ向かうのか。スポーツに携わる者のひとりとして、アスリートへの配慮を願いつつ、冷静に見守りたい。

≪たまさぶろ●スポーツ・プロデューサー、エッセイスト、BAR評論家≫

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