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10人契約で「新しい文化を創出」国内初の“ウィンターリーグ” 沖縄から野球界に一石 前編

 

10人契約で「新しい文化を創出」国内初の“ウィンターリーグ” 沖縄から野球界に一石 前編
スカウトにアピールする選手たち=2022年11月、沖縄県宜野湾市のアトムホームスタジアム宜野湾 撮影:長嶺真輝

日本でプロ野球選手になるためのハードルは、極めて高い。

原則、一般社団法人日本野球機構NPB)12球団によるドラフト会議で指名される必要があるが、毎秋指名を勝ち取るのは70〜80人ほど。学生ではプロ志望届を提出できる高校3年と大学4年にピークを合わせる事が求められる側面もあるほか、そもそもスカウトの目に留まる機会が得られる選手も一握りだ。

そんな日本の野球界に一石を投じる催しが、昨年末に沖縄で初開催された。「陽の目を浴びていない場所に光を」をコンセプトに行われた長期トライアウト「ジャパンウィンターリーグJWL)」である。NPBの12球団合同トライアウトは1日のみの開催で選手の合否を決めるが、JWLは1カ月に渡って実施された。

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■温暖な気候と“プロレベル”の球場の多さ

プロリーグのオフシーズンに開かれ、スカウトが選手を発掘するウィンターリーグは海外では馴染み深いが、日本での本格的な実施は初めてだった。沖縄が開催地に選ばれた理由は、冬でも温暖な気候に加え、毎年多くのNPB球団が春季キャンプを張れるほど環境が整った球場が各地に点在しているためだ。

開催目的は埋もれた才能の発掘のほか、参加選手の進路拡大、実践経験を積めなかった選手に真剣勝負の場を提供することなど。JWLへの参加をきっかけに、NPB入りする選手を生み出すことも大きな目標に掲げる。

第1回で開幕の挨拶を述べる鷲崎一誠代表=2022年11月、沖縄県宜野湾市のアトムホームスタジアム宜野湾 撮影:長嶺真輝

今年3月に那覇市内で行われた活動報告会見では、参加選手のうち10人が国内の独立リーグや社会人チームなどと選手契約を結んだことが発表された。運営事業者であるジャパンリーグ(那覇市)の鷲崎一誠代表は「大きな成果を挙げることができ、新しい文化を創ることができたと思っています」と胸を張った。

■31球団が視察 4チームで22試合ずつを実施

第1回の開催期間は昨年の11月24日から12月25日まで。沖縄県内の4球場で開催された。宿泊費などを含め、参加費はフル参戦で35万円、半期で20万円と決して安くはない額だったが、大学、社会人、独立リーグ、海外から15〜33歳の66人が参加した。

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4チームに分かれ、週の半分以上で試合を行い、総当たり戦で22試合ずつを実施。Hondaやトヨタ自動車など有力な社会人チームからドラフト候補に挙がる選手らが実践経験を積むために参加した例もあったが、46人はトライアウトを目的に参戦した。

試合は全てYouTubeでライブ配信したほか、選手の評価を定量化(スタッツ、トラッキングシステムでの数値データ、動画解析)するシステムを導入したことで、リモートを含めMLB、NPB、独立リーグ、社会人、海外プロ野球などから31球団が視察。36人の選手が実際にスカウティングされた。

選手契約を勝ち取った10人は、独立リーグの士別サムライブレイズ(北海道)や兵庫ブレイバーズ(兵庫県)、社会人のJFFシステムズ(大阪府)などに加え、JWLの運営側に海外リーグと関わりがあるスタッフがいたため、その繋がりでポーランドのチームに加入した選手もいた。

■契約選手「NPBまで駆け上がりたい」

サムライブレイズと契約した地元沖縄出身の新里和寿捕手・内野手(21)は、名門の沖縄水産で高校時代を過ごした。が、一度も公式戦に出場することなく3年間を終え、その後も無名のまま沖縄の社会人チームなどでプレーしていた。思うようにいかなかった自らの経歴を踏まえ、会見の席で決意を述べた。

「僕は挫折することが多くて、悔しい思いをずっとしてきましたが、このウィンターリーグで独立リーグに挑戦するチャンスをいただけました。このままNPBまで駆け上がり、自分と同じような境遇の人たちの希望の光になれるような選手になりたいと思っています」

第1回の成果発表記者会見=2023年3月、沖縄県那覇市の沖縄県庁 撮影:長嶺真輝

会見には、JWLの大野倫GMも同席した。自身は沖縄水産が1990、91の両年に夏の甲子園で準優勝を果たした際の主力で、九州共立大を経て95年のドラフトで巨人から5位指名を受けた。2001年にはトレードでダイエーへ。プロ通算成績は24試合に出場し、31打数5安打となかなか結果を残せず、02年に引退。10年に生まれ故郷である沖縄県うるま市で中学硬式野球チーム「うるま東ボーイズ」を設立し、監督を務めている。

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現役時代を念頭に、JWLの第1回をこう総括した。

「私もプロを経て、NPBのトライアウトも経験しました。当時は2日間あって、千葉マリンスタジアムでの1日は3打数ノーヒット、甲子園球場での1日は2打数ノーヒットで結果が出ず、そのまま引退し、くすぶった気持ちを自分の中に閉じ込めたまま次の道へ進みました。好不調の波が付きものの野球で1日限りのパフォーマンスで合否をもらうのではなく、1カ月という長いスパンでスカウトにアピールできる場ができたことは、非常に意義があると感じます」

確かに、連日のように行われる実戦の場は、選手とスカウト陣を“マッチング”するために適した環境になり得るだろう。1カ月という期間があれば、選手としての実力以外にも社会性やコミュニケーション能力などグラウンド外での立ち振る舞いを評価することもできる。実際に埋もれた才能を発掘し、JWL経験者が将来NPB入りする事例をつくることができれば、日本野球界のレベルを底上げする一つの要因になるかもしれない。

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著者プロフィール

長嶺真輝●沖縄のスポーツライター

沖縄県の地方紙『琉球新報』の元記者。Bリーグの琉球ゴールデンキングスや東京五輪などを担当。現在はフリーのライターとして、スポーツを中心に沖縄から情報発信を続ける。生まれは東京だが、人生の半分を沖縄で過ごし都会暮らしが無理な体になっている。