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【スーパー耐久】順位だけではない、技術開発というもうひとつの戦い

【スーパー耐久】順位だけではない、技術開発というもうひとつの戦い
(C)Fuji International Speedway

緊急事態宣言が延長になり5月最終週末開催予定だったスーパーGT第3戦は延期となったが、その前週のスーパー耐久シリーズ2021第3戦「富士SUPER TEC 24時間レース」は無事開催。予選は雨で中止になったものの決勝の2日間はまずまずの天気で、キャンプにバーベキューと、いつもの24時間レースをファンも楽しめたようだ。

レースの方も各クラスで見ごたえのある、24時間らしい戦いが繰り広げられた。その中で今回、筆者が注目した1台がST-Qクラスにスポット参戦したORC ROOKIE Corolla H2 concept井口卓人/佐々木雅弘/MORIZO/松井孝允/石浦宏明/小林可夢偉)。総合順位49位、総合トップの周回数763に対しわずか358と、成績は振るわなかったのになぜ――彼らはライバルではない、目に見えないものと戦っていた。他のレースにはない光景だった。

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過酷なレースに参戦する理由は

メーカーはなぜレースをするのか――もちろんライバルメーカーに勝つことでブランド力は向上し、市販車販売にメリットを与える。と、同時に、開発競争によって技術をも磨かれていく。ここに巨額の資金を投入する意味がある。

数あるレースの中で最も過酷な24時間レースは特に、市販車に反映する技術を磨くには格好の場だ。映画が2時間前後で製作されているのは、人が集中して観ていられる時間が2時間だからだと言われる。

レースもエンタテイメント性を重視するならばF1等、主流である2時間が望ましいはず。そんな中、技術開発という側面からメーカーはほとんどが重要視している。

ガソリンエンジンから水素エンジンへ

世界3大レースのひとつ、ル・マン24時間の理念が「未来のショーケース」で、技術革新を生む場というのが本来の目的。2012年からは、近未来の自動車技術に挑戦する車両に対し“ガレージ56”という賞典外の特別枠が用意されている。

スーパー耐久のST-Qクラスも「主催団体であるSTOが参加を認めたメーカー開発車両または各クラスに該当しない車両」と、同じような枠だ。ORC ROOKIE Corolla H2 conceptにはカーボンニュートラルの実現に向けた、トヨタが新技術として開発中の水素エンジンが搭載されていた。

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ミライで既に市販車化されている水素電池車ではない。簡単にいえばガソリンが水素に代わり、水素を燃焼させて動力とするものだ。電気自動車EV)がいずれ主流になると言われており、ほとんどのメーカーが本腰を入れ、充電インフラ整備も各所で進み、普及の道も見えている中で、開発を進めたところで果たして実現性はあるのだろうか。

EV普及への不安

移動でよくクルマを利用する筆者がEVでネックだと思っているのは、インフラではなく充電そのものである。ガソリン給油はほんの数分で満タンでき、移動時間にそう支障はない。しかし電気の場合はそこで30分、1時間のロスが発生する。

毎週のように4~500km先のサーキットに通っている筆者には、かなりのストレスだ。この先何年そんな生活をするのか分からないが、EVに切り替わる未来が不安でならなかった。

課題が残る水素エンジン車

その点、単純に考えて水素エンジン車であれば、スタンドにガソリン、軽油ともうひとつ水素充填のノズルが加われば良いということになる。インフラ整備はいたってスムーズだ。だが市販車化はそう簡単でもなさそうだ。

それはレースを見れば理解できる。パワー、スピードについては富士スピードウェイの1周約4.5キロを2分ちょっとで周回していたので、市販車としては問題なさそうだ。問題は燃費だ。

今回の水素充填のためにピットインした回数は35回。一回の充填で50km程度しか走れなかった計算になる。今後の第一の課題は紛れもなくこの部分で、来年の24時間では進化した姿をぜひ見せてもらいたいものだ。

水素エンジン車への期待

もうひとつ、EVへと切り替わることが気に入らない理由が筆者にはある。エンジン音がなくなることだ。

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だが燃料が変われど水素エンジン車であれば、エンジン音は残ることになる。レースもしかり、エンジン仕様車のレースだけを見てきただけにエンジン音は捨てがたい。

果たして水素エンジン車が世の中に普及するのかどうか今は未知数だが、少なくともその第一歩は踏み出せた。大いに意義ある参戦だったといえよう。

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著者プロフィール

前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。