3年ぶりに行動制限のないゴールデンウイークを迎え、5月3日、4日に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第2戦は2日間で7万3000人もの動員。
久々にスタンドを埋め尽くす多くのファンの姿があった。ここ2年はスムーズだった2泊分のホテル確保やサーキットへの移動の苦戦も同時に戻ることになったとはいえ、やはり3年前までのレースの盛り上がりが復活した喜びの方が大きい。
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■メインストレートでまさかの大クラッシュ
今回の注目ポイントのひとつが従来の500kmが450kmと、レース距離が1割ほど短くなったこと。
これにより、これまで燃費の関係からほぼ3等分だったスティントは変則が可能になる。また2回のピットイン義務の内容も変わり、ドライバー交代は1回で良くなった。つまり戦略の幅が広くなるということだ。そして上位チームはまず、スタートドライバーの最低周回数をクリアした34周目以降にピットインしドライバー交代、給油、タイヤ交換をすませ、もう1回を状況に応じ切り札として使うべく備える戦略を採った。これでクライマックスは後半へと集約されることになった。
ところが、そのもう1回のピットインは行われなかった。レースは44周目にGT300クラスのマシンがクラッシュしたことで赤旗中断になり、さらにそのリスタート後に今度はGT500クラスのトップ争いで大きなクラッシュが起こってしまい2度目の赤旗中断。結局100周予定のところ62周しか消化できず打ち切りとなった。
2回目の赤旗の原因となったクラッシュは、大観衆が見守るホームストレート上で起きた。クラッシュしたマシンは奇しくも、もうひとつの注目ポイントだったNISSAN勢の3号車、NDDP Z(千代勝正/高星明誠)。NISSANの新型Zは、この富士を速く走ることがひとつの開発コンセプトだと聞いていた。
そして開幕戦でレースでの強さを証明した3号車が、今回3番手からスタート。岡山のときと同じく決勝でのパフォーマンスを重視したタイヤでの予選3位ということで、今度こそ優勝が期待できたのだ。
そのとき3号車は2位を走っていて、トップ浮上を射程圏に入れていた。最初の赤旗リスタートから数周後、ダンロップコーナーで一度オーバーテイクを試みたがこれは失敗。だがペース差は歴然で、次のストレートで仕留めるだろうと誰もが予想できた。そして最終コーナーで背後につけると定石通り、ホームストレートでスリップに入った。その前方に運悪くトラブルでスローダウンしたGT300のマシンがイン側を走行しており、トップの39号車サード・スープラの関口雄飛が直前で避けたため、スリップに入っていた3号車の高星は避けきれなかった。
■「明日は優勝する」と語っていた赤星
長年現場でレースを見てきた私も、これだけの大クラッシュを目の当たりにするのは久々のことで、かなり動揺した。なにしろ1.5kmに及ぶ富士のストレートでは、GT500クラスであれば300km/h近いスピードが出ている。そんな状況でのクラッシュとあって、ガードレールはズタズタ。レースが1時間以上中断したのは、その修復に時間がかかったからだ。この時点でレースがこの後再開されるのか、どのチームがどんな戦略を採って優勝するのかはどうかはどうでもよくなっていた。
幸い高星は無事だった。
現在のトップカテゴリーのマシン、そしてサーキットの安全性の高さを改めて評価すると同時に、こんな危険を背負い戦っているドライバーに対し、いっそう尊敬の念を抱くことになったレースだった。
前日の予選後、高星と話をする機会があった。そこで「明日は優勝する自信しかありません」と、力強くレースへの豊富を語ってくれた。そのときに見せた笑顔には、新型Zで3番手からスタートするレースを本当に楽しみにしていることが窺えていた。チームから聞いた話によれば怪我はないとのことだったが、あれだけの衝撃を受けたのだから決して安心はできない。今はとにかく、3週間後に行われる鈴鹿での第3戦でまた元気な姿を見せてくれることを願っている。
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著者プロフィール
前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター
2002年初旬より国内外モータースポーツの取材を開始し、今年で20年目を迎える。日刊ゲンダイ他、多数のメディアに寄稿。単行本はフォーミュラ・ニッポン2005年王者のストーリーを描いた「ARRIVAL POINT(日刊現代出版)」他。現在はモータースポーツ以外に自転車レース、自転車プロダクトの取材・執筆も行う。