【体操】現役引退の報に触れ、内村航平語録から拾う天才の言葉 「観客が沸かなかったらいい演技じゃない」

リオ五輪での内村航平(C)ロイター

超一流のアスリートとは言葉を超えた存在である

彼らの姿を地上から見た観衆は手垢にまみれた賛辞を贈ることしかできない。

宇宙飛行士がはるかかなたの宇宙空間から映像を送ることで、その目に映る世界をわれわれも共有することができるが、超一流のアスリートに同じことをしてもらうわけにはいかない。いくら映像技術が発達したとしても、難しいだろう。

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■凡人の常識でとらえることのできない天才の言葉

高難度の技を決めて数々の栄光を手にし、体操界のレジェンドとなった内村航平はこれまで何を見て、何を感じてきたのか……彼の言葉で迫ったのが『栄光のその先へ 内村航平語録――8年無敗の軌跡』(内村航平著・ぴあ)だった。

私がその編集に携わったのは、それまでさまざまな“偉人”の語録をつくってきたからだ。孫正義、三浦知良羽生善治原辰徳松井秀喜羽生弦結……いずれも世界と戦い、華々しい成果を残してきた男ばかりだった。

書籍が出版された2017年1月に内村は円熟期を迎えていた。2008年北京オリンピック、2012年ロンドン・オリンピックに続いて2016年リオデジャネイロ・オリンピックにも出場。個人総合2連覇を含む、7つのメダル(金3、銀4)を獲得したあと。2020年に行われる予定だった東京オリンピックを目指して再スタートを切ろうとしていたころだった。28歳になった内村は、日本体操界の未来を見据えたコメントが増えていた。

しかし、凡人の常識でとらえることのできない天才は、“らしい”言葉を残していた。

僕、よく猫って言われます。
友達に「お前は空飛ぶ猫だ」って。

北京のときは初めての代表で、しかもオリンピックじゃないですか。
たとえれば、小学生が遠足に行くような感じですね。
「もう、ワクワク」

朝昼食べないで練習するのに
どこにエネルギーがあるのか自分でもわからないです。

あのとき(北京オリンピック)は国際大会が初めてだったので
何も考えずにヒョイとやったらうまくいったんです。

イメージができれば、
あとは自分の体の動きをつなげていくだけ。

10代から20代前半にかけて、怖いもの知らずで突き進んだ内村。その後は国際大会のプレッシャーや故障に悩まされながら、自身の体操を追い求めた。

美しい体操を実現したい
そう思うから、
どんな苦しいトレーニングにも耐えることができる。

プレッシャーを感じる人は、
過去の自分を保ちたい、
世界一をずっと保たなきゃと思うから、
だんだん小さくなっていってしまうんじゃないでしょうか。

体操を専門としているプロに褒められるより、
体操を知らない一般に人にキレイな演技を言われるほうがうれしい。

自分のやらなきゃいけないことを常に考えて
それに向かっている。

いいイメージに近づいてもまだまだかなと思う。
近づいたらまた理想が上がって、
近づいたら上がっていって、
その繰り返し。

1年延期となった2021年の東京オリンピックでは種目別の鉄棒に出場したものの、予選で落下。自国開催のオリンピックで有終の美を飾ることはできなかった。しかし、誰よりも自分に対して厳しい姿勢が、高い理想が内村を内村たらしめたのだった。

最後にそんな言葉でこの稿を締めよう。

「ちゃんとやれよ」とずっと言っていましたね。
自分で自分に。

難しい技に挑み続ける最大の理由は好奇心です。

点数が高くても、
観客が沸かなかったらそれはいい演技じゃないと思う。

ありがとう。お疲れさまでした。

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著者プロフィール

元永知宏●スポーツライター

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て独立。

著書に『期待はずれのドラフト1位』『レギュラーになれないきみへ』(岩波ジュニア新書)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社+α文庫)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』『近鉄魂とはなんだったのか?』(集英社)、『プロ野球を選ばなかった怪物たち』『野球と暴力』(イースト・プレス)、『補欠のミカタ レギュラーになれなかった甲子園監督の言葉』(徳間書店)、『甲子園はもういらない……それぞれの甲子園』(主婦の友社)など。


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