【WBC】侍ジャパンに献身するベテラン、ダルビッシュ有の価値をあらためて考える

 

【WBC】侍ジャパンに献身するベテラン、ダルビッシュ有の価値をあらためて考える
侍ジャパンのダルビッシュ有(C) Getty Images

2月下旬に宮崎で集まった侍ジャパンが一次ラウンドと準々決勝を全勝で勝ち上がり、いよいよ20日(日本時間21日)、準決勝でメキシコと対戦する。
 
昨年11月18日に記した通り、2006年の第1回WBC開催時、一次ラウンドが始まった後になっても日本球界とファンがその開催意義に半信半疑だった。

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NPBのサイトには今も公式記録が残っているが、2006年3月3日、8回コールドで中国を破った開幕戦に東京ドームに集まった観客は15,869人である。あの試合を私は観客として見に行ったけれども、大きな東京ドームでこの観客数だとガラガラという印象だった。

第1回WBC開幕前の記者会見に臨む谷繁元信、王貞治、イチロー、松坂大輔(2006年2月28日) (C)Getty Images

それが、今大会ではこれまでに感じられなかったアメリカ人選手の本気度と日本人大リーガーの積極的な参加もあって、野球の日本代表では過去生んだことがなかった国民の熱狂を喚起したように見える。直前に開催されたFIFAワールドカップでサッカー日本代表が見せた大健闘の余韻も後押しとなっているような気もするのだが、異様な盛り上がりといえる。

WBC一色となった侍ジャパンのここまでを振り返りたい。

■11日間の合宿に押し寄せた18万人の観客

宮崎でのわずか11日間の合宿にのべ18万人の観客が押し寄せ、球場の敷地や空港などで売っているグッズも完売、周辺ホテルも満杯の様子が連日報道された。ほかの競技の日本一を決める試合でもこの半分にも観客数が届かない例は多い。「なんで練習にこんなにたくさん人が集まるのか」とため息をつく他競技関係者も多いのではないかと気の毒になってしまうほどだった。

WBCを作り上げたMLBと、それに賛同して最強メンバーを構成するに至ったNPBとBFJの関係者の一連の努力に心から敬意を表する。

サッカーのように4年間をかけて計画を練るような万全の準備とはいかない。多くの人が指摘するとおり世界ではマイナースポーツである野球の人気が高い国は片手に余るほどしかなく、プール分けも不透明だ。ここへきて準決勝の組み合わせの変更も取りざたされている。国際競技連盟主催の世界規模の大会になることはむずかしい。この季節にするべきでないという意見もあるだろうけれども、現状がレギュラーシーズンに影響を及ぼさないぎりぎりの日程であり規模だと思う。

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それゆえに、チームが参集したと思う間もなくもう大会は目の前という気がするのもしかたがないことである。早く集合をかけた国もあるようだが、日本では突貫工事になるのはしかたない。

そうした制限の中では今回の「侍ジャパンシリーズ2023」からWBC本大会にかけての一連の流れはよくできたプログラムだと思う。報道や中継を見ていると合宿、壮行試合・強化試合は一つの流れになっているが、前職の経験からイベントの構造について目に留まってしまう。

■いち早くキャンプに合流し尽力したダルビッシュ

宮崎でマウンドに上がった侍ジャパン、ダルビッシュ有 (C) Getty Images

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2月17日に始まり27日で打ち上げたキャンプは「侍ジャパン宮崎キャンプ2023」と銘打ち、宮崎県でキャンプを張っていたソフトバンクとの強化試合(「侍ジャパンシリーズ2023 宮崎」)でひと区切りついたあと、「侍ジャパンシリーズ2023 名古屋」という強化試合を組んだ。ここまでの主催者がNPBとNPBエンタープライズである。

このころはソフトバンクと中日の選手も実戦モードに入るころで、特に前年最下位からの巻き返しに燃える中日の選手たちや声出し応援が久方ぶりに解禁された名古屋のファンの熱気も十分伝わってきた。

強化試合は中日戦から舞台を大阪に移したわけだが、ここから主催者はWorld Baseball Classic Inc.と読売新聞社に引き継がれる。冠協賛社のロゴがソフトバンク、中日から阪神のヘルメットにも貼られているし、一連のシリーズのように見えるけれどもWBCのロゴが野球場に入ってくるのは大阪の試合からである。大会名も「2023 World Baseball Classic TM 強化試合(大阪)」となる。

この間、アメリカで実戦練習を積むことなくいち早く来日して侍キャンプに合流したダルビッシュ有が物心両面で陰になりひなたになって貢献してきたことは計り知れないほどである。若いころは折に触れてSNSなどで攻撃的なコメントを繰り返してきた彼だったが、「パドレスが融通をきかせてくれた」ということばとともに来日、若手投手にボールの握りかたを出し惜しみすることなく教えたり、調整不足が目立って気後れしている宇田川優希を食事に誘ったりなど、非の打ち所がない言動を見せてくれた。

準々決勝までマウンドで残した数字は本来の力からすると物足りないが、強化試合に出場できない規定をわかったうえでの来日で、降板後もブルペンで投げ込んでいる姿を見ると、もし準決勝か勝負どころの場面で彼が打たれて日本が敗退しても、決して彼を責めることはできないと思ってしまう。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。