※当内容は英国現地情報班からの内容を日本語訳したものとなります。
今年の愛チャンピオンSは「事件に次ぐ事件」、まるで渦を巻くように目まぐるしく情勢が変わり続けている。
だからこそ、日本で馬券発売が決まったこのレースを、日本の皆さんにも理解しやすいよう“初歩の初歩”から、現地で聞き取った生々しい声を交えつつお伝えしていこうと思う。
舞台となるレパーズタウン、ここは特殊中の特殊だ。最終コーナーから上り坂が始まり、直線に入ってからもさらに400メートル登り続ける。欧州全体を見渡しても、そうそう類を見ないコース形態だ。
実際に乗った騎手たちは口を揃える。「クセの強いコースだ。仕掛けどころを誤れば、どんな実力馬だろうと沈む」とね。だからこそ、昨年、初挑戦ながら見事に適応したサカイ・リュウセイとミスター・ヤハギの手腕には、現地関係者も一様に舌を巻いた。
その上で思い出すべきは、2019年のマジカルから始まったA.オブライエン厩舎の5連勝。この結果からも愛チャンピオンSがオブライエン陣営にとって、いかに重要かは言うまでもない。
実際、昨年も出走8頭のうち4頭がオブライエン勢。オーギュストロダンを勝たせるための布陣を敷いた。結果は英国馬エコノミクスがかっさらっていったがね。
そして今年、注目すべきはオブライエン厩舎のエースであるドラクロワの存在。さらに見逃せないのは、当初、オブライエンだけで最大9頭もの出走登録の構えまで見せていたこと。これは今年の愛チャンピオンSを語る上で絶対に外せない部分となる。
そんな中、オブライエン陣営は公言した。「ゴスデンがペースメーカーを出さぬなら、我々が出す」と。英インターナショナルで見せた消極姿勢とはまるで違う。ここが第一の注目点だ。
振り返れば英インターナショナルSでは、ドラクロワとオンブズマンの一騎打ちの様相。その中で、ゴスデンはフランスからバーキャッスルをわざわざ英国へ移籍させ、A.ファーブル厩舎に委託してまでペースメーカーとして送り込んできた。
そしてバーキャッスルはどうだ。スタートから暴走に近いハイペースで飛ばし、2番手以下は誰もついて行けず。オブライエン側は当初「ついて行く」策も考えていたようだが、あれだけ無茶をされては追走できるはずもない。
結果はどうなったか。2番手以下は超のつくスロー。ハイペースを好むドラクロワにとって「最悪」とオブライエン師が吐き捨てるほどの展開。つまり、見事にゴスデンの策にハマったということになる。
極めつけは直線。バーキャッスルはヨレてもいないのに、まるで「どうぞ」とばかりに外へ進路を譲った。オンブズマンのための道を切り開くという仕事を果たしたのだ。
ゴスデンは勝つためにペースメーカーを送り込んだ。その結果、オンブズマンは決定的な勝利を収め、一方のドラクロワは、ようやくペースメーカーのバーキャッスルを交わすのが精一杯だった。両陣営の「意図の差」が生んだ勝敗はあまりに鮮烈だった。
この因縁を背負ったまま迎えるはずだった、愛チャンピオンS。誰もがオンブズマンとドラクロワの再戦を期待していたが、事態は思わぬ方向へと転じた。
前走とは違い、今回は「ドラクロワを本気で勝たせにくる」布陣を整えてきたオブライエン陣営。ところが、その矛先となるべきオンブズマンは出走回避を正式に決断したのだ。
正直、オンブズマンは出てくると思っていた。だから私は面を食らい、関係者に直接話を聞きに行ったのだ。
彼らはこう答えた。
「一度下したドラクロワを相手にするのはリスクが大きすぎる。しかも、オブライエンが今回は別物の布陣でオンブズマンを潰しにくるという話も入っていた。ならば、アメリカのBCか英チャンピオンS、あるいはジャパンCのほうがいい。そちらはボーナスも入る」と。
なるほど、理に適っている。しかしこの判断によって、オブライエン陣営は一方でチャンスを得ると同時に窮地にも追い込まれたと言える。
二強ムードは消え失せ、今や完全にドラクロワの一強。しかも今回は、ホームグラウンドであるレパーズタウン。所属厩舎の馬を大量投入し、盤石の布陣を敷ける、やりたい放題の状況だ。
誰が見ても「ドラクロワが勝つのは容易」との風向きになった。だが、だからこそ負けるわけにはいかない。もしここで敗れるなら、ドラクロワの評価、特に種牡馬としての価値にまで傷がつく。
その中で、彼らが次に描いたのは、ドラクロワとロスアンゼルスの2頭出しというプラン。これならば、ドラクロワが敗れても情状酌量の余地は残ると合点がいったが、さらにそのロスアンゼルスをフォワ賞に回してきた。
オンブズマンという最強の敵が消えた今、ドラクロワの優位は揺るがないだろうが、オンブズマンに対するどんな手段を講じてもドラクロワを勝たせるという布陣が消えた結果、対抗馬の存在も浮かび上がってきた。
まず取り上げるべきはザーランだ。前哨戦ロイヤルホイップSで、オブライエン厩舎のロスアンゼルスを相手に完勝を収めた馬である。あれは見事だった。ザーランにとっては前走がステークス初制覇であり、今回がGI初挑戦。経験の浅さは否めないが、実力は疑いようがない。
敗れたロスアンゼルスは、愛ダービーを含むGI2勝の実績を持ち、凱旋門賞でも3着に食い込んだ、世界トップクラスの実績馬だ。前走はペースメーカーを伴ったオブライエン厩舎の2頭出しで、圧倒的1番人気に推されたにもかかわらず、凡庸な内容に終わった。多くの者が「期待外れ」と口にしたのも無理はない。
だが、オブライエン関係者の中には「あれは予定通りだった」という声もある。確かに上昇度でいえばザーランが群を抜いているものの、ロスアンゼルスを下した前走のロイヤルホイップSの結果だけで判断を下すべき1頭ではない。
そして忘れてはならないのがアンマートだ。昨秋、英チャンピオンSで人気薄ながらカランダガンやエコノミクスを撃破した姿は強烈に記憶に残っている。
硬すぎる馬場を嫌い英インターナショナルSを回避したため、今年はまだ2戦のみ。前走はオンブズマンに、さらにその前はロスアンゼルスに屈したものの、アンマートが倒してきた相手は一流中の一流だ。
特に2走前は、オブライエン陣営がコンティニュアスをペースメーカーに据え、結果的にロスアンゼルスに勝利を献上する形となった。だが今回は違う。オンブズマンが回避し、さらにオブライエンが「ペースメーカーを出さない」意向を示し始めた今こそ、アンマートが再び“大物食い”の牙を剥く舞台が整いつつあるのだ。
続いて、ホワイトバーチ。今年の走りはやや物足りないかもしれない。だが、昨年のタタソールズゴールドカップでは、全盛期のオーギュストロダンと真っ向勝負を演じ、3馬身ちぎって見せた馬だ。マーフィー陣営とオブライエン陣営がともに複数頭出しで、火花を散らす中でその力を見せつけたのだから、脚力は今もなお出走馬の中で最上位と断言できる。レパーズタウンは久々になるが、舞台に立つ資格と下地は揃っていると言えよう。
そして大注目は日本からの挑戦者シンエンペラー。
いま欧州の関係者でこう口にする者は少なくない。
「この秋、日本馬こそ最大の脅威になる」と。
ギヨームドルナノ賞で断然の1強と目されていたのは仏ダービー2着馬クアリフィカーだったが、その牙城を崩したのは何と日本のアロヒアリイ。ステークス勝ちすらない全くの無名馬がフランスの強豪をねじ伏せたのだ。
しかもそのクアリフィカーが次走ニエル賞で堂々の勝利を収めた。相手には今年のパリ大賞を制したルファールがいたにも関わらず、である。この結果を受け、アロヒアリイの評価は欧州で一気に跳ね上がっている。
そして、そのアロヒアリイを皐月賞でまるで問題にしなかったのがクロワデュノール。先述のアロヒアリイの活躍もあり、9月14日のプランスドランジュ賞に挑むクロワデュノールに対して「日本からどんな化け物が来るというのだ?」と現地関係者からも大きな注目を集めている。
さらにフォワ賞でも日本のビザンチンドリームが前述のロスアンゼルス、そしてあのソジーをまとめて撃破。ソジーといえば昨年のパリ大賞を含めGIを3勝し、凱旋門賞の有力候補と見られていた馬だ。これを倒した衝撃は計り知れない。
このようにかつてないほど、今、欧州で日本馬に注目が集まる中で、愛チャンピオンSへ乗り込むシンエンペラーだが、今年は昨年以上に「人」の背景が面白い。
というのも、今年からパリ大賞のスポンサーとなったのは日本最大級のゲーム企業 Cygames(サイゲームス)。そしてシンエンペラーの馬主であるフジタ・ススムは、そのサイゲームスの親会社サイバーエージェントの代表取締役である。
このように、欧州に対して熱い視線を向けているオーナー、そして昨年の3着で確かな手腕を証明している騎手のサカイ・リュウセイ、そして調教師ミスター・ヤハギという人の布陣は非常に興味深く、オブライエンによるドラクロワ必勝態勢が解かれた今、愛チャンピオンSを語る上で外せない存在と言える。
凱旋門賞馬ソットサスの全弟という血統面も含め、日本のファンにとってシンエンペラーを見逃す手はないだろう。
期待されたドラクロワとオンブズマンの二強決戦という図式は崩れてしまった。だが、馬券的に見れば今年の愛チャンピオンSはむしろ面白くなったといえよう。配当妙味も含めて、だ。
オブライエン厩舎のドラクロワ、日本からの挑戦者シンエンペラーを含めた出走各馬がスタートからどのようにレースを運ぶのか、固唾を飲んで見守っていただきたい。
※寄稿元:優駿ブリテンズゲート社

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