【ボクシング】井上尚弥、ラスベガスKOデビューは「英雄パッキャオ」継承への試金石

井上尚弥(2020年10月31日、ジェイソン・モロニー戦) (C)Getty Images

スーパースターへの試金石となる一戦

井上尚弥vsジェイソン・マロニーWBAスーパー・IBF世界バンタム級タイトルマッチを前にして、ボブ・アラム プロモーターがWOWOWのインタビューにこう答えていた。

「井上がラスベガスでのデビュー戦でいい勝ち方をすれば、マニー・パッキャオのようなスーパースターになるかもしれない」

「井上」の発音が「イノユィェ」になっていたのが気になったが、誠にうれしいボスの一言だ。パックマンことマニー・パッキャオは、史上2人目の6階級制覇を達成したフィリピンの英雄。数々のビッグマッチを経験し、フロイド・メイウェザー戦1試合で1億5000万ドル、つまり約180億円を稼いだスーパースターだ。ボクサーの格はファイトマネーで計られる。今回の試合は、英雄に肩を並べる資質があるか、その実力を試される一戦となった。

著者プロフィール
<文:牧野森太郎 フリーライター>
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」(産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。

チーム井上が功を奏したラスベガスデビュー

MGMグランドホテルのカンファレンスセンターに作られた会場、通称“ザ・バブル”は無観客。両選手がリング上に登場しても歓声はない。そんな特殊な舞台に戸惑う選手もいるという。

しかし、リングに登場した井上選手の表情はいつもと変わらない。ラスベガスには、父親の真吾トレーナーに加え、弟の拓真選手、いとこで前日本スーパーライト級王者(2020年7月引退)の浩樹さんも帯同。チーム井上で初めての環境に挑んだ。さらに感染対策で、ホテルとジム以外の外出を禁じられたことも、結果的によかったのかもしれない。

試合前のセレモニーも簡略化され、早々に第1ラウンド開始のゴングが鳴る。両選手とも軽いフットワークで距離を計る。井上選手が強い左で脅かすが、挑戦者のグローブの上だった。

第2ラウンド、井上選手が強い左ジャブで早くもペースを掴む。マロニーも下がりながら左を突き返すが、パンチ力の差は明らかだ。マロニーの顔面が赤くなる。

第3ラウンド、さらにプレッシャーが強まる。接近戦からコンパクトな右アッパーがクリーンヒット。このパンチが、以降、試合の組み立てに有効となる。終了のゴングとともにマロニーが、「フーッ」と大きな息を吐いた。

井上尚弥と父・真吾トレーナー(写真左) (C)Getty Images

狙いすました鮮烈のカウンターパンチ

第4ラウンドには、角度のいい左ボディで挑戦者の動きが止まる。第5ラウンドにはロープに詰まり、マロニーの左フックを浴びるが、井上選手に傾いた流れは変わらない。

最初のダウンシーンは第6ラウンドだった。開始30秒、マロニーのジャブに合わせた左フックが見事なカウンターとなる。試合後、「ジャブをダブルで打ってくるのが分かったので、そこを狙っていた」とクールに語る。それにしても、右のガードと顎の間のわずかな隙間を通る素晴らしいパンチだった。

第7ラウンド、モンスターのパワーが全開となる。緊迫感が増し、フィニッシュの予感が漂う。そして、残り10秒の合図と同時に、ワンツーに合わせた右ストレートが顔面を直撃。マロニーは右膝を折りながら後ろに転倒した。明らかにダメージは深刻だ。レフリーは8カウント数えたところで試合終了を宣告した。KOタイムは7R2分59秒だった。

第6ラウンド開始30秒、井上尚弥が左フックでダウンを奪う (C)Getty Images

スーパースターへの道は開けている

「前半、攻め切るつもりでいきましたが、簡単には倒せないので、途中からカウンター狙いに作戦を変えました」と、チャンピオンは冷静に試合を分析。手数を控えながらプレッシャーをかけ、相手のパンチに合わせて放った美しいフィニッシュブローを解説した。

上々のラスベガスデビューを飾った井上尚弥。気になるのは、次の試合だ。他団体の強豪を見渡すと、ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)、ギジェルモ・リゴンドー(キューバ)、ノニト・ドネア(フィリピン)、ジョンリエール・カシメロ(フィリピン)が名を連ねる。

ウバーリは井上拓真選手を破った変則的なサウスポー。弟の敵討ちというストーリーは魅力だが、実力はモンスターが一枚上と見る。リゴンドーはすでに40歳。ビッグネームだがピークは過ぎている。ご存知のようにドネアとは対戦済み。ドネアは再戦を望んでいるようだが、すぐには成立しないかもしれない。

となると、やはりカシメロが浮上する。強打を振り回す荒っぽいスタイルは、まだモンスターが戦ったことのないタイプ。きっとスリリングな試合になるだろう。

今回の井上のファイトマネーは100万ドル(約1億円)と公表されている。パッキャオのスーパースターっぷりに届くには、まだ道は長い。輝きを増していくモンスターの成長を、まだまだ楽しめそうだ。

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