4月4日、富士スピードウェイでスーパーフォーミュラ2021シーズン開幕戦の決勝が行われ、ポールポジションからスタートした野尻智紀(チーム無限)が優勝。通算4勝目を達成した。
◆【スーパーフォーミュラ第1戦予選】野尻智紀が開幕戦のPPを獲得。昨年王者山本尚貴がQ1敗退の波乱
■2021年の開幕戦ドライバー
昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で開幕が大幅に遅れたスーパーフォーミュラ。今シーズンは4月に予定通り開幕を迎えることができたが、コロナが収束したわけではなく参戦ドライバーの方には影響が出た。
開幕戦はアメリカ人若手ドライバーのイヴ・バルタスで年間エントリーしていたB-MAXの不参加に加え、入国が果たせないサッシャ・フェネストラズ、直前の海外レースに出場した小林可夢偉、病気療養中の牧野任祐の3人に代役が立てられた。
しかしながら国内トップドライバーの層は厚く代役ドライバーとしてスポット参戦する中山雄一、小高一斗、笹原右京の実力はいずれも確かであり、全マシンが毎戦のように拮抗した争いを繰り広げるスーパーフォーミュラの魅力が薄れるとは誰も思わない。
それは昨シーズンの宮田莉朋、松下信治らのスポット参戦組がレギュラー勢を脅かす活躍をしたことで証明済みだ。この開幕戦もそんなファンが期待する通りの、ハイレベルな戦いが展開された。
■山本尚貴vs平川亮の注目対決予想が……
チームを移籍した昨シーズン王者の山本尚貴(ナカジマレーシング)がオフのテストで不調、その一方で山本と最後までタイトルを争い敗れた平川亮(チームインパル)は好調と伝えられたことで、開幕戦では当初、二人に最も注目が集まっていた。
だが主役は、同じく最終戦までタイトル争に加わっていた野尻智紀だった。野尻は土曜午前のフリー走行でまずトップタイムをマークすると午後の予選でもQ1からQ3まですべてトップを記録し、昨シーズンの最終戦に続くポールポジションを獲得。
それだけではない。Q3の2位とのコンマ約2秒差はスーパーフォーミュラでは大差ともいえ、ましてや野尻はQ3でトラフィックのリスクを避けることを優先し、路面コンディションが良くなる終盤ではなく真っ先にアタックしている。
予選後のコメントで自身も「いつもはポールを獲ったとしても何かしら課題が残るものだが、今日は何も言うことがない。チームも自分も、完璧な仕事をした」と語った通り、頭ひとつ抜けた存在だった。
■雨予想の決勝戦
だが迎えた日曜日の決勝では、そんな絶好調の野尻に不安要素が出てくる。雨の予報だ。ドライコンディションではライバルを圧倒する速さであっても、レインコンディションではどうか分からない。
さらに午後2時10分の決勝開始時にはまだ降り出しておらず、レース中に降ってくる可能性が高くなった。義務づけられている1度のタイヤ交換をどう使うのか、速さだけでは勝てない波乱含みのレースがスタートした。
■シーズン緒戦を完璧に対処した野尻
最初の波乱は野尻がスタートで出遅れてしまい2位に後退したことだったが、野尻は慌てることなくそこから徐々に2番手スタートからトップに立った大湯都史樹(ナカジマレーシング)との差を徐々に詰め、10周目に再びトップを奪い返す。
問題はこの後の雨だ。路面にさほど影響はなかったものの7周目あたりからコースの一部で雨が降り始めたことで、レース中にレインタイヤに交換しなければならない可能性が高まってきた。しかし雨は結局最後までレインタイヤ交換が必要な程には至らず、冷静に最後までピットインを引っ張った野尻が結局トップでチェッカーを受けた。
この完璧な週末に対し野尻は「何年もここで戦ってきて、ようやくタイトルへの手ごたえを感じている」と語っていたが、おそらくそれは持ち込みセッティングをはじめとする様々な戦いの要素ひとつひとつで少しだけライバルを上回り、その集大成が大きな差となったに過ぎない。
つまり次戦では他のチームにも起こりえることで、誰にも予想ができないこと。そんな期待が毎回持てることがスーパーフォーミュラ最大の魅力であると感じられた今シーズン緒戦だった。
文・前田利幸(まえだとしゆき)●モータースポーツ・ライター