8月22日、米国・ポートランドで、オレゴン州が活動拠点である『ナイキ・オレゴン・プロジェクト』に所属している大迫選手と、同選手のコーチを務めるピート・ジュリアン氏らによる対談イベントが開催された。
2015年から大迫選手と二人三脚で強化を進めてきたピート氏。結果も出続けている。
昨年末、大迫選手に話を聞いた時、「目標が100%一致している。考え方が合わなくても話し合って解決できる。僕の目標、意見を尊重してくれる」と評価していたように、大迫選手はピート氏に全幅の信頼を置いていると言ってもいい。
ピート氏は、大迫選手に初めて出会ったときの印象を「いい動きをする選手だと思った。パワーもあるし、効率のいい走りをするし、かつ速い。当時は英語を全く話せなかったですが(笑)」と明かした。
続けて「謙虚、控えめだが自信がある選手。これからも楽しみだし、東京オリンピックでもメダルを目指せる。 (ナイキ・オレゴン・プロジェクトに参加した)当初は半分くらい練習に頑張ってついていけ、といった感じだったが、今はトップ選手を『倒せ』くらいの立ち位置。体も心も」と現在の評価も加えた。
パートナーとして、対等な関係を築く
ピート氏は、大迫選手をどういったやり方で指導しているのだろうか。
「スグルとは、パートナーという感じ。いい関係になっている。スグルが『次にこうしたい』と言っても、それがクレイジーなときはクレイジーとしっかり言う。意見を交わしあい、毎回調整する。パートナーとして、対等な関係を築く。(日本とは)カルチャーの違いもあるかもしれない。私のコーチもそうだったから」
「『今日はこれをやれ』というより、アスリートの気持ちを聞き、自信をもってもらう。自分の体は自分が一番よく知っている。その情報をもらって、それを元にプランをつくる。いいところを引き出せるプランを。 常に意見は同じではない。そういうときは電話をしたり、個人的、感情的にならずに意見を出しあうことが大事」
根本的な考え方の違いから生まれる、指導法の違い。とはいえ、「どういった指導法が優れているか」という観点では決して語らないのがピート氏だ。
「日本は日本の指導方法でいい。日本人選手も活躍している。日本の指導法が悪いわけではない」(ピート氏)
最終的な目標をきちんと設定できているからこそ、ちゃんとした指導を受けられる
大迫氏は、そんなピート氏について「期待しているし、自分が『ここまでやりたい』というのを抑えてくれる」と明かす。オーバートレーニングしがちな自分の状態を、客観的に、かつ先をみてアドバイスをくれるピート氏の存在は欠かせない。
とはいえ、最終的な目標があってこその日々の指導だ。そこをぶらしては、いい指導を受けられるものも受けられない。
「『自分がどうありたいか』を持つことが一番大事。ビジョンを明確にもち、それに到達するステップをもつ。その上で(コーチに)相談する。思いついたことは言い合えばいい」(大迫選手)
目標がはっきりしていない段階で、コーチに相談しても効果が半減してしまうということだろう。
長い視点で遠くから
ピート氏が、ランナーの『目標』を、非常に強く意識しているのだと感じられる発言があった。
「ランナーには目標があり、コーチにはそれを守ってあげる責任がある。例えば、ランナーが『2020年時点でこうなりたい』と言ってきたとしても、『2028年の段階でこうなりたかったよね?』と先を見据えて、長い視点で遠くからみていく」
つい、メディアをはじめとした第三者は、目先の結果を求めがちだ。現段階で言えば、どうしても2020年の東京オリンピックに焦点を当ててしまう。
そうした周囲からの期待は、時として選手を追い込んでしまうこともある。大迫選手自身、「東京オリンピックのことを考えるとプレッシャーになってしまう。まずは目の前のレース。そこ(オリンピック)を考えるのではなく一つ一つ集中していきたい。そして気持ちの整理をつけていく」と言及していた。
最終的な目標を見失いがちな選手を、もう一度俯瞰した状態で見つめ直させることができるのは、常に選手に寄り添っているコーチだけなのかもしれない。
大迫選手は以前、「コーチが『僕を走らせたい大会』というのがない。実業団時代の駅伝は、『会社から求められているもの』だった」と明かしていたことがあるが、ピート氏を信頼している大きな理由は、目先の結果を重視せず、大きな視点で自身の目標に寄り添ってくれる『姿勢』なのだろう。
最後に聴いていた人をハッとさせるような発言で、トークを締めくくった。
「キャリアが終わったあとの健康状態も大事だし、レガシーなど、スグルが次の世代のこどもたちに何を残せるか、日本人選手に何を残せるか。人々に思い出されるような選手になれるかも大事だと思う」
《編集・撮影=大日方航》
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