激闘の日本シリーズが終わった。
両リーグのチャンピオン同士なので、そう簡単に思うように相手を倒すことはできないのは当然で、紙一重の戦いだった。投手力や打力が拮抗していると、ミスが出たほうが負けとはちまたでいわれるとおりである。
報道によると、東京ヤクルト・スワローズは第1戦と第3戦しか試合前のシートノックを行わなかったという。解説に訪れた球界が「シートノックは必ずやるべき。この大一番で疎かにするのはありえない」と苦言を呈したということだ。
◆オリックス22得点・防御率3.05 vs. ヤクルト23得点・防御率2.09 それでも日本一となった理由
■日本において大切にされてきたシートノック
大一番で疎かにするわけではないと思うので、疲労を考慮してなどの意図があったのかもしれず、この点は高津臣吾監督に聞いてみたいところだ。相手の選手がどのくらいのフットワークや強肩の持ち主かを知るうえでも重要な数分間なので、自軍の「手の内」をオリックス・バファローズに見せたくないという判断もあったのかもしれない。ただ、映像も含めて情報は十分スコアラーなどから入っていると察せられる。
私は1980年代に巨人戦を見に行って、試合前にウォーレン・クロマティがシートノックに入ってないのに気がついて驚いたことがある。それ以後この点には興味があり、日米野球などでは試合前のシートノックを日本チームだけが行いMLBオールスターは打撃練習のみで試合に入ることも気にとめていた。
小さいころから日本の学生野球で試合前のシートノックを経験した野手にとっては、これはOB評論家が指摘するとおり大変大切な儀式だと思う。7分から10分程度の短い時間で選手が打球処理をするのはひとりあたり10球もないと思う。今さらこのノックで守備力を向上させようというものではない。試合に向けて選手のテンションをピークにもっていくためのものだと考える。
日本ハム・ファイターズを日本一に導いたトレイ・ヒルマン監督は、アメリカにないこの習慣を見て、その重要性を認識したようだ。アメリカに帰国後ロイヤルズの監督に就任して試合前にこのシートノックを実施したが選手の反発を買ったのか、すぐにやめたといわれている。
大リーグ経験がある高津監督もアメリカでは試合前シートノックがないことを知っているはずだ。もしかすると「やらなければやらないで余計な疲労をためずにすむ」という判断だったのではないだろうか。海外野球の経験がない監督ならシートノックなしで試合に臨むという選択肢など頭の片隅にもなかったのではないだろうか。