3大会連続のオリンピック行きをかけたあまりに重要な試合の前だったが、テレビのインタビューに答えるキャプテン・林咲希(富士通レッドウェーブ)の言葉には力がみなぎり、その表情に「不安」の文字は見て取れなかった。
だが実際には、外野の我々が想像しようにもそれができないほどの巨大な、押しつぶしてくるような重圧が女子日本代表チームを襲っていたようだ。
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■大きな「圧」をチームで乗り越えパリ五輪出場へ
同チームは13日、パリオリンピック世界最終予選(2月8-11日開催)での激闘から帰国し、成田空港近くのホテルで「凱旋」の記者会見を開いたが、例えば、正ポイントガードとして会場となったハンガリー・ショプロン会場のベスト5に選ばれるほどの活躍を見せた宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)は「ハンガリーに行ってから毎日、寝られなくて、緊張していました」と吐露し、明るいキャラクターでチームを鼓舞する馬瓜エブリン(デンソーアイリス)も「(敗戦した)ハンガリー戦の後は生きた心地がしなかったし、ずっと『どうしよう』と思っていた」と意外な言葉を述べたことでも、彼女たちの肩にのしかかった「圧」の大きさを表していた。
しかし、そんな個々が感じていた不安や行き詰まる心境を、彼女たちはチームとして乗り越え、そしてオリンピックの切符へつなげた。
初戦のスペイン戦(大会の時点で世界ランキング4位)を破る好スタートを切りながら翌日、格下のハンガリーとの試合を落とし、日本(同9位)は最終3戦目のカナダ(同5位)との試合に勝利しなければオリンピック行きが断たれる可能性がかなり高くなってしまうという危機的状況に追い込まれたが、カナダとの接戦を制し、パリ行きを決めた。
■カナダ戦前の中1日は「本当に良い時間でした」
スペイン、ハンガリーとの試合を連日戦った日本は、カナダ戦を中1日で迎えた。それはあるいはどのチームにとっても同条件だったかもしれないが、肉体的に試合を通してアップテンポに走り続けるスタイルを考えると、日本にとって間違いなくよかったはずだ。
だがそれよりも、精神的に日本が「自分たちのやるべきこと」を整理し、自信を持ってコート上でぶつけるという心境に至る時間的余裕を与えたという意味で、この1日はより大きな意味を持ったのではないか。
日本はその試合のなかった日の夕方にミーティングを行った。そこでは、ハンガリー戦での敗戦を受けて、オフェンス、ディフェンス双方で自分たちのコンセプトを擦り合わせ、それを徹底すべきだと再確認した、と林は振り返った。
「自分たちがやりたいバスケットを必ず出して帰ろうというふうにみんなで話し合いました。本当に良い時間でしたし、みんなもそう言っていました」
そして林は、こう言葉を紡いだ。
「負けることは考えていなかったです。試合になったらやっぱり接戦で、1人、1人の重圧もあったとは思うんですけど、ベンチもコートもみんな1つになって戦えたし、すごく良いチームだとキャプテンとして思いました」。