飛距離が出る方ではないのにパー5でも強い 山下美夢有のピンを狙うショットの距離感が合う理由

飛距離が出る方ではないのにパー5でも強い 山下美夢有のピンを狙うショットの距離感が合う理由
山下美夢有(C)Getty Images

14日から、愛媛県のエリエールゴルフクラブ松山で、エリエールレディスオープンが開催される。

注目のホールが17番パー5。昨年大会は3番目に易しく、確実にスコアを伸ばせるかがポイントの一つになるだろう。

パー5は、パー3やパー4以上に、ロングヒッターが有利だが、飛距離が出る方ではない山下美夢有は、パー5でも強く、平均ストロークは3位。

パー3とパー4の平均スコアが1位だから、それに比べると伸ばし切れていないと見ることができるが、パー5の平均スコア上位5名を見ると、山下以外は皆飛距離が出る選手。

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飛距離のハンデを補って余りある精度の高さが、山下のショットにあることが、パー5のスコアからも垣間見える。

スイングや取り組みのどういうところが、ショットの精度の高さにつながっているのだろうか。

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■山下のアプローチショット

パー5でグリーンを狙うショットでは短めの距離が残ることが多いだろうが、アプローチショットでは腹筋を意識して体の回転で打っている、とのこと。

シーズンオフは体幹強化に重点をおくことが多いようだが、そのトレーニングはショートゲームの精度向上にも活きている。

2022年、70.1863%で5位だったリカバリー率は、23年が69.3920%で2位、今季現時点では76.16285で1位と記録を向上させてきており、パー5の3打目の精度の安定感も高まってきていると思われる。

エリエールGC松山の17番ホールでも、短めの距離になるであろう3打目を確実にピンに絡めていきたいところだ。

■山下のスイング

ミドルアイアンやドライバーのフルショットを見てみても、体幹、腕、クラブの動きが‟調和””が見て取れる。

手首の動きは少ない方だが、テークバックでは体の回転と合わせながらグリップエンドに下向きの力をかけ、手首の角度を変えている。だから、シャフトが地面と平行になるのが腰より下だ(手首を固定してテークバックすると、シャフトが地面と平行になるのは腰の高さと同じか少し上になる)。

そこから先は体の回転に腕やクラブがついてくる、といった感じのスイング。

これは、ショートアプローチを含めた100ヤード以下のショットから、ドライバーショットまで共通している。

飛球線後方からクラブの軌道を見ると、トップオブスイングでは飛球線と平行なスクエアなポジションにクラブがおさまっている。ただ、これは‟普通のスクエア”ではない。強烈に上体を回旋させた上でのスクエア。

基本的に、上体が回旋するほどトップオブスイングでは、シャフトが飛球線よりも右を向く(シャフトクロスっぽくなる)。

しかし、山下は上体を深く回旋しているにも関わらず、シャフトが飛球線より右を向かない。これが、安定感のあるダウンスイングやインパクトにつながっている。

その結果、今季のフェアウェイキープ率は79.0029%で1位、パーオン率は74.3475%で4位、ボールストライキングは2位だ。

ちなみに、トップでシャフトが飛球線より右を向かないようにするためには、クラブの慣性を活かす、ことが求められる。

バックスイングでは、背中側(飛球線の左方向)にクラブの慣性が発生しており、ダウンスイングへの切り返しの時、それを邪魔しないことで、上体の回旋を深めてもシャフトが飛球線よりも右を向かず(シャフトクロスっぽくならず)、スクエアポジションにおさまりやすくなる。

■早くからこだわっていた縦距離

山下は獲得賞金0だった2020年に、高性能弾道測定器トラックマンを購入。最先端のテクノロジーを使って、感覚と結果をすり合わせながら、距離感を磨いてきた。

番手間の距離や、ウェッジでのフルショットでない距離の打ち分けの技術が向上。

2022、23年の2年連続年間女王や、今季の年間ポイントランキング現時点2位が、その証だ。

2021年には「5ヤード刻みで距離を打ち分けられるようになった。今後は3ヤード刻みが目標」と語っていたが、それをクリアできてきているように感じる成績やショットの安定感がある。

■安定感は竹田麗央より上か

今季の女子ゴルフの主役は、現時点で国内メジャー2勝を含む8勝をあげ、年間女王が確定している竹田麗央であることに異論はないだろう。

ただ、安定感という部分では山下の方が上。トップ10率はほぼ同じだが、予選落ちの回数や確率が山下の方が圧倒的に小さい。

竹田は今季、出場30試合でトップ10が21回、トップ10率が70%。そして、棄権が1回で予選落ちが4回だった。

対して山下は今季、出場23試合でトップ10が16回、トップ10率が69.6%。そして、棄権が1回で予選落ち0だった。

平均ストロークも、竹田の69.2624(2位)に対して山下は69.2215(1位)と、現時点では山下の方が上だ。

エリエールレディスの昨年大会で優勝した青木瀬令奈は山下と同様、飛距離のハンデを他で補ってスコアを作るタイプ。全3ラウンド(短縮競技)、17番ホールはすべてバーディで、スコアが伸びる流れを切らなかった。

山下も青木のように、17番ホールでは確実に3オン1パットのバーディを取ることができると、今季2勝目が近づく。

先週の伊藤園レディスでも4位タイと安定感をキープ。

当たり前のように、ティーショットはフェアウェイをキープし、グリーンに近いところからはピンに寄せる。そんなプレーを今週も見せるか注目だ。

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著者プロフィール

野洲明●ゴルフ活動家

各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。