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【F1】大炎上のグロージャン 執念と奇跡の生還

 

【F1】大炎上のグロージャン 執念と奇跡の生還
燃え盛る炎の中から執念の生還を果たしたロマン・グロージャン (C)Getty Images

■無事であることを伝えたかった もしヘイローがなければ…

自動車の世界選手権フォーミュラ1(F1)に参戦しているハースF1チームが11月30日、チームに所属するロマン・グロージャンの動画をオフィシャルTwitterに投稿した。

グロージャンは前日に開催された第15戦バーレーンGPのオープニングラップでコース脇のガードレールに激突。クルマは真っ二つに分断され、大きな火柱があがる大火災となったが、自力でモノコックから脱出。その安否が心配されていた。

公開された動画では、両手に包帯を巻き、ベッドに横たわる痛々しいグロージャンの姿が映し出されたものの、「やぁ、まずはみんなに無事であることを伝えたかった。何とか大丈夫だよ。たくさんのメッセージをありがとう」と、自身の無事を報告。さらに「数年前まではヘイローに否定的だったけど、今は非常に優れた安全装置だと思っている。もしヘイローがなければ、今日こうして喋ったりはできなかった。またサーキットと病院の医療スタッフには感謝しているよ」と続けた。

■53Gの衝撃で大破したマシンからグロージャンは“執念と奇跡の生還”

その瞬間、誰もが目を覆い最悪の事態が頭をよぎった。

各車が最も密集しているオープニングラップ。ターン3を抜けて訪れたつかの間のストレートで、グロージャンが大きく右にステアリングを切ると右リアがダニール・クビアトの左フロントに接触し、グロージャンはそのままコースを逸走。時速221kmですぐ脇の鉄製ガードレールへ激突した。

その衝撃は53Gとも伝えられ、それを物語るかのようにマシンは前後に分断。さらにモノコックはガードレールに突き刺さり、爆発とともに火の手があがった。すぐさま消火活動が行われたものの、燃え盛る炎の中からグロージャンは執念で生還。メディカルカーまで抱えられるように導かれ、現場をあとにした。

不幸中の幸いとなった今回の一件は、グロージャンが言うようにF1カーの高い安全性能と、スタッフの迅速な対応の賜物だ。

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■グロージャンの命を救ったのは…

F1で火災といえば、“不死鳥”ニキ・ラウダが思い出される。ニュルブルクリンクで開催された1976年ドイツGPでは、高速でウォールに激突したラウダのフェラーリが炎上し、後続車の追突もあってつぶれたマシンの中に閉じ込められてしまった。このときヘルメットが脱げてしまい、その影響でラウダは有毒ガスを吸い込んだため、約7割の血液を入れ替えるほどの深刻なダメージを肺に受けた。さらに頭部には大火傷を負っている。

1994年、イモラで行われたサンマリノGPにおけるアイルトン・セナの事故をはじめとし、F1ではこれまでに幾度となく尊い命が失われ、そのたびに安全性能の向上が図られてきた。近年では2014年日本GPのジュール・ビアンキが記憶に新しいが、ここ10数年でビアンキのように頭部を損傷する事故が相次いだため、ドライバーの頭部を守るコックピットの保護装置として、2018年シーズンより導入されたのがヘイローだ。

正面から見るとアルファベットの「T」のような形をしているヘイローは、3本の柱で構成される。コックピット開口部の上部にバーが設置され、正面の支柱と左右のブラケットでこのバーを支える仕組みとなっており、航空宇宙産業の分野でも用いられるグレード5のチタニウムが素材として使われる。

今回のような大事故でも、モノコックとヘイローは原型をとどめていた。長いF1の歴史の中で昇華された安全技術が、グロージャンの命を守ったことは疑いようがない。

またマーシャルとFIAの処置も賞賛に値する。マシンの激突から9秒後には現場にメディカルカーが到着し、22秒後には本格的な消火活動を開始。すぐさま検査のため、ヘリコプターで地元のバーレーン・ロイヤル・メディカル・サービスへと搬送された。

あれだけの大事故でありながらも、グロージャンは手と足首に軽い火傷を負った程度とのこと。ハースのコメント文によれば、治療は順調に進んでおり、近々退院できる見通しだという。グロージャンの一日も早い回復を祈りたい。

文・SPREAD編集部

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