【スポーツ誌創刊号コラム】アメリカ最大の発行部数を誇る『CAR AND DRIVER』日本版 プレ創刊

■表紙はF1ドライバーのパーチェか 前年に飛行機事故で他界

「自動車雑誌」は「スポーツ誌」というカテゴリーとは別に、独自に存在すべきである…という点については議論もあるだろうが、プレ創刊号の表紙イラストがヘルメットをかぶったレーシングドライバーである点を考えると、まぁ、仲間に入れてやってもよいのではないかと思う。それが特にダイヤモンド社から発行された『カー・アンド・ドライバー』ともなると、私にとっては古巣のようなもの。編集部に所属したことは一度もなかったが、自身の所属部署『FM STATION』編集部は後に『カードラ』の別冊として創刊された姉妹誌、アンダーパーとして許して頂こう。

「創刊号コラム」ではあるが、表紙をご覧頂くとわかる通り、こちらは「プレ創刊号」。「TAKE-OFF EDITION」とあり、正式な創刊のひとつ前にあたる。広告のニーズを探り、読者の反応を確認し、雑誌の方向性を定めるためにリリースされるいわばパイロット版だ。「0号」とも言われ、価格付けし本号のように書店に流通するものもあれば、完成品ながら関係者だけに配布されるもの、もしくは一部分だけを編集し残りは白紙ページになっているものなど、様々なバリエーションがある。そして時には、残念なことに最終的に創刊に至らぬ雑誌もある。本誌の上層部は当時、価格付けし書店流通した日本で初めてのプレ創刊号…と胸を張っていたものの、その事実関係については未確認のままだ。

表紙イラストは山崎正夫の手による。山崎は1942年生まれ、東京芸術大学出身、日本のスポーツイラストレーターの先駆け的存在だ。同誌の表紙イラストを長年手掛け、2019年には個展を開催。その告知がカードラのサイト上に掲載されているだけに、その蜜月は長い。

イラストのヘルメットには「GOOD YEAR」と「BRAHMA」のロゴが見える。「GOOD YEAR」はもちろんタイヤメーカーだが、「BRAHMA」を知らない若い方は多いだろう。ブラジルの一大ビールメーカーゆえ、クルマファンよりも今となってはビール党のほうがよくご存知かもしれない。1970年代から80年代までモータースポーツ活動に力を注いでおり、このロゴの入ったヘルメットは多く見かけられた。

実は私自身確証を持てずにいるが、ヘルメットのデザインから察するに、このドライバーはホセ・カルロス・パーチェと考えられる。F1ファンならすぐピンと来るだろう。ブラジルGPが行われる通称インテルラゴス・サーキットの正式名称は「アウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェ(Autódromo José Carlos Pace)」。パーチェは1975年、生涯唯一のF1優勝をこのサーキットで成し遂げ、その業績から命名された。ブラジル人初のF1王者エマーソン・フィッティパルディのライバルとみなされていたパーチェだが1977年に飛行機事故で他界。「おそらく」だが、山崎は前年の彼の死を悼み、プレ創刊号の表紙としたのではないだろうか。ちなみに一方のフィッティパルディは1972年にロータスを駆り、25歳273日でF1王者に。これは2005年にフェルナンド・アロンソ(24歳58日)が更新するまで、33年間破られなかった最年少記録でもあった。

■自動車雑誌、なのにクルマとは無関係の内容も

表紙を開くと表1は見開きで「セリカXX(ダブルX)」の広告。「セリカ」の名は2006年にトヨタのラインナップから消えて久しく、オールドファンの涙を誘うほど懐かしい。P3、にはダイヤモンド社からの「あいさつ」が掲載され、米『CAR AND DRIVER』誌と独占契約を締結した旨について、誇らしげに宣言している。

「1ドル=360円」という固定レート制が終わりまだ4年というこの時代において、アメリカで売れている雑誌のライセンスを契約する手法は、雑誌の成功への近道でもあった。文藝春秋社の『Number』が米『Sports Illustrated』誌の提携誌だった事実など、若いスポーツファンが知るよしもない。

P4の目次に目を通そう。インタビューはなんと、ジョージ・ベンソン(AORの旗手)、アーサー・アッシュ(ニューヨークの現在・全米オープン会場にその名を残すテニス王者)、クリフトファー・リーブ(映画『スーパーマン』の主演俳優)の3名。自動車誌として考えると奇妙なラインアップであり、しかもそのインタビュー内容もクルマとは無関係。かつての雑誌には、こんなおおらかな点もあった。

新車速報はニッサン・パルサー、ロードテストはダッジ・オムニプリムス・ホライゾンBMW 733iビュイック・オペル・スポーツクーペ、どの車名を目にしても郷愁を誘うばかりだ。どうもパルサーと聞くと「GNP=がんばれ、日産パルサー」と面接で答え、日産の内定を勝ち取ったという都市伝説ばかり思い起こす。

発行人は当時、ダイヤモンド社の社長、坪内嘉雄。2012年に故人となっている。編集人は高橋直宏。高橋は以降『FM STATION』 、『TV STATION』(ともにダイヤモンド社)で功績を立てた人物。その勢いにより、新聞、雑誌業界には高橋に騙され(?)、雑誌作りに手を出してしまった…という方々を多く生み出した。文藝春秋の『サンタクロース』、毎日新聞の『ヘミングウェイ』、日本ヴォーグ社の『ゴルフ・トゥデイ』などがそれ。そのうち、今日まで残るのは『ゴルフ・トゥデイ』のみか…。

目次欄外に目を落とすと「翻訳」という項目の末尾に、恩蔵茂という名を見つけた。後の『FM STATION』編集長、私の元上司である。懐かしい。

ページをめくって行くと、現在の「カードラ」と変わった点はほとんどない。自動車のインプレが続き、海外からの耳寄り情報などフリンジが織り込まれている。後に高橋の手掛けた雑誌には、常にインタビューとフリンジがあり、そのワンパターンの構成で、次々と雑誌を生み出して来たのだから、大した業績だ。

創刊にあたり各界から本誌へとお祝いのメッセージを取り付けているが、その面子たるや、西田敏行松崎しげる(まだ白い!)、高倉健布施明片岡義男…などなどなかなかの大物たち。21世紀の雑誌には、創刊時にこれほどのビッグネームをそろえる影響力はなさそうだ。

■「ラウダvsハント」の戦いはカードラのプレ創刊号上でも!?

プレ創刊号でもっとも目を引くのは「ニキ・ラウダのドライビング教室」。なにしろ前年1977年に2度目のF1チャンピオンとなったぴかぴかの王者がドライビングのなんたるかを解説するコーナーだ。その見出しも「ジャガイモとM・アンドレッティ」と彼らしくシニカル。当時、マリオ・アンドレッティはまだF1の頂点に立つことができずにおり、それを「アクセルペダルの上に置いたひと袋のジャガイモと同じ」と皮肉っている。いやはや。ただし、アンドレッティは1978年のF1王者である点、ここには付記しておく。

若いファンの中には映画『ラッシュ/プライドと友情』をご覧になった方もあるだろう。ラウダとジェームズ・ハントの激しい闘いの最後の舞台は1976年の「F1世界選手権イン・ジャパン」だった。そんな情報を頭入れ、表3にあるISUZU Geminiの見開き広告を開いてみよう。右下に「1976年度F1ワールドチャンピオン」としてジェームス・ハントが写真つきでクレジットされている。ハントはジェミニの兄弟車「英国のボグゾールシベットを愛車としている」と注釈されてもいる。

なんと「ラウダvsハント」の戦いはカードラのプレ創刊号上でも続いていた…とするのは、さすがに無理があるか…。

カードラは1983年より月2回の発行となり、1990年代には公称で30万部とされた。2009年9月には再び月刊誌となり、2019年には16万部を公称している。この時代に10万部を超えれば、雑誌としては大層な売れ筋だ。2020年6月号から発行元はダイヤモンド社から毎日新聞出版に移管されている。

創刊から43年を数えた老舗自動車雑誌には、まだ諸先輩方が在籍していると聞く。少し元気のなさそうな日本自動車業界を支えるためにも、まだまだ頑張って欲しいものだ。

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。

著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。

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