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「世紀の快挙」白鵬が大鵬超え、歴代最多33度優勝 しかし、醒めたスポーツ紙

 

「世紀の快挙」白鵬が大鵬超え、歴代最多33度優勝 しかし、醒めたスポーツ紙
横綱・白鵬 (C)Getty Images

夕刻にテレビに噛り付くなど一体いつ以来だろうか。これほど「今か今か」と横綱の出番を待ったのは、それこそ故・大鵬以来じゃなかろうか。

横綱・白鵬初場所13日目にして大関・稀勢の里を下し、13戦全勝で史上単独最多となる33度目の優勝を果たしたのは23日のこと。1971年に大鵬が打ち立てた32度優勝、「不滅の記録」を44年ぶりに抜き去った偉業だ。

物言いが付き「同体取り直し」となった一番には久々に力が入った。相撲をテレビ観戦しているだけで思わず自分が踏ん張ってしまう…そんな感覚、しばらく忘れていた。取組は録画していたおかげで、世紀の瞬間を何度も観ることができた。

それにしても夜のスポーツ・ニュースの取り上げ方が淡泊だなと感じた。いやいや、考えてみればまだ13日目が終わっただけ、場所中である。千秋楽ともなれば、その偉業について各所で取り上げられることだろう。

白鵬の偉業に気を良くし、夕飯は近所の「亀戸餃子」でサッカー日本代表戦をつまみにビールで餃子とした。「アジア杯連覇」と騒いでいたもののPK戦の末惜敗。ベスト8止まりだった。やれやれ。  

土曜日の朝、コンビニへとスポーツ紙を集めに足を運んだ。各紙の一面は、もちろん白鵬の偉業についてだろう……私の予想は簡単に裏切られた。ニッカンサンスポスポニチ報知ともに「本田、外した」などと日本代表の敗戦を伝えた。唯一、白鵬を一面で扱ったのは、なんと中日ドラゴンズの機関紙(?)であるトウチュウのみ。しばし茫然とした。繰り返す、24日の朝刊、一面で白鵬を取り上げたのは東京中日のみだ。

日本代表が「負ける」なんて日常茶飯事だ。百歩譲って、アジア杯連覇ならいざ知らず、ベスト8に終わったFIFAランキング54位のチームをなぜそこまで取り上げなければならない。

大相撲と言ったら「国技」。その国技において44年間破られたことのない、千代の富士北の湖もその頂きに近づきながら達成しえなかった偉業が成し遂げられた翌日の朝刊とは思えない。白鵬は裏面に追いやられていた。いつからスポーツ紙はサッカーに媚びを売るようになったのか。一応、こうして並べて眺めながら、こうも考えた。「いやいや、まだ13日目。千秋楽後に取り上げるつもりだ」と。

残念。その予想も裏切られた。26日(月)朝刊の一面にも「大谷、開幕投手」などの文字が躍り、白鵬の初場所全勝優勝も裏面に追いやられた。夜のニュース番組では、白鵬の来日当時の裏話などが取り上げられ、インタビューもあり、少しだけ救われた思いがした。

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■双葉山も大鵬も越えた記録とは……

ちなみに、白鵬は初場所で全勝優勝を果たすことで、これまで誰も成し遂げたことがない「すべての場所で全勝優勝」も達成した。大鵬でさえ、名古屋場所での全勝を逃し、もうひとつの「不滅の記録」69連勝を果たした双葉山秋場所での全勝を成し遂げていない(双葉山現役当時は年四場所制)。史上初の記録だ。それで裏面扱いだ。

かつては「巨人、大鵬、卵焼き」と謳われた相撲人気が凋落したのか。そういう時期もあった。しかし、今場所に限って言えば18年ぶりに15日間すべて「満員御礼」。ファンからの期待も大きかった。

それでも各紙ともに白鵬を無視した形だ。国技の「世紀の記録」にそれほどの価値がないと各紙が判断した。白鵬が日本人でないからなのか。その当たりは、機会があれば各紙に訊ねてみたい……。

これだけ勝ってもなお「大鵬親方の大記録を数字では超えたかもしれないが、精神的なものはまだまだだと思う」と話す平成の大横綱に対し、礼賛の気持ちでいっぱいだ。

しかし、確かにその一点はひっかかる。全勝優勝から一夜明けての会見、13日目の同体取り直しについて、白鵬は「なぜ取り直しなのか。子どもの目でも分かる」と批判した。もはや歴史に輝かしい名を残す横綱だ。「おかげで、誰の目にも明らかな勝ち星で偉業を決めることができた」とするような懐の深さを見せて欲しかった。そう注文したら、荷が重すぎるだろうか。

今後さらに「懐の深い相撲」を目指すのであれば、なおのことだ。

もっとも大偉業を裏面掲載しておきながら、「協会批判」という点だけ捉え、ここぞとばかりに一面で扱うニッカン、スポニチ、サンスポも「いかがなものか」と考える。

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センセーショナリズム、ポピュリズムにばかりに走るスポーツ紙のクオリティも落ちたということか、もしくはスポーツ紙とはしょせんその程度だったのか、白鵬のおかげで、また考えさせられた。

Yahoo!ニュース個人2015年1月27日掲載分に加筆・転載

著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。

著書に『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』、『麗しきバーテンダーたち』など。